「あ号」作戦
プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。
・ 和知輝樹を、与那国島へと向かわせました。
・ 上田美代子に、『昆虫大全』を持たせました。
* * * * *
「くっせえ!!」
中条たちCチームは、早速行動に出ていた。
アルフレッドを、「将来的に奥多摩に住まわせる」なんていう、色々な意味で雲をつかむような任務だ。
結局それには、前準備が必要だということで五人はおのおの、決行日『Aデイ』に向けた準備をしているところである。
数を打っていく。それもしつこいぐらいに。それしか手はないという結論になった。
中条が取り組んでいるのは、薬品の調合である。
アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールを調合する。
難しいのは、露骨に臭ければいいというものではなく、あくまでもシチュエーションに沿った『自然な臭さ』が求められる。
そうでなければ、敵を欺けないのだ。
そのため、加齢臭のプロという不名誉なレッテルを貼られた中条がここを担当しているのだが、
自分で匂いを監修せねばならず、まだ納得のいく『匂い』に達していない。
今日一日だけでこのように何度も酷い目に遭っている。
まともな人間だったらとっくに、脳がクラッシュしていただろう。
全く泣けてくる。
今何をしているんだ自分は……。
中条は、気晴らしに他のチームメイトの進捗状況を確認することにした。
「……シーマルヒトからマルゴ」
* * * * *
マルゴ、藤田は会議室に残って、イラストを描いていた。
すでにテーブルには、髪の束が積んである。
「マルゴです」
『どうだ。できたか?』
「……今執筆中」
『絵は得意だって言ったよな?』
「得意だと思ってましたけど……こんなことに使われるとは思ってませんでした……
正直煮詰まってます」
『あまり難しく考えるな。バカなデザインであればあるほどいい。
お前はプロじゃねえんだから、開き直っていけよ。描き終わったら一度見せろ。
あと一時間以内に、マルニーに提出するように。以上マルイチ』
無線が切れた。
「全く好き勝手いうなよ……」
再び目の前のメモに向き直る。
山をバックに、不細工なクマが魚を取っている絵だった。
* * * * *
マルサン、山田は買い出し担当だ。
一番楽かというと決してそうではなく、とにかく必要なものが多いので足を使わないといけなかった。
今は、町工場で中古の屋台を見ているところである。
「とりあえず大きさはクリアね。
……屋台ってこんなに重いんだ。私じゃあ引くのは無理だから、主任か藤田くんだな」
「どうですか。 そこそこ見栄えはいいでしょう。
これが結構、劇団とか、お祭りの自治体とかに貸し出すことが多いんですよ」
「そのまま使えそうですね。これにします。ありがとう。
カードは使えるかしら?」
「ええ。いいですよ」
* * * * *
マルヨン、鮎川は自室にいる。ノートパソコンの周りには小型のスピーカーが所狭しと並んでいる。
鮎川がエンターキーを押すと、音楽が流れた。
「オックターマー ♪
オックターマー ♪
ウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウ……
オックターマー ♪
オックターマー ♪
ウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウ……」
歌っているのは、鮎川本人である。
鮎川はその出来に満足すると、データを保存した。
三十秒くらいの短い音楽だが、一時間で作り終えた。
次に、鮎川はYouTubeで、「アイザック・リッパー」という歌手の動画を見た。
その口の動きを観察し、歌い方を何度も真似をする。
そして、その口の動きのまま……
「オックターマー ♪
オックターマー ♪
ウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウ……」……と歌ってみた。
* * * * *
「くっせええ!!」
中条は鼻を押さえて嗚咽を噛み殺した。
これで何度目の『実験』だろう? 全然、思っている匂いに近づけない。
勝手に涙があふれる。
本当に、何をやっているんだろう…… これが何のためになるんだろう?
せ、世界を救うためだ。
別にこの仕事に対して高望みなどしていない。
しかし……世界を救うって……こういうことなのだろうか?
中条は大きなため息をついた。




