7話
到着を待つ間、マリアが任務の内容を伝える。隊員たちは通信端末を繋ぎ、装甲車に乗る隊員にも共有できるように環境を整えていた。
「よし!到着を待つ間に今回の任務について伝えるよ!」
作業を終えた隊員たちは、マリアと椿の前に集まった。
「今回の任務の目標は第2の援護と避難の遅れた民間人の保護だ。まず、画面に注目してくれ。」
大型モニターに地図が映し出された。画面には沢山の赤い点が蠢き、所々にある建造物が緑色に表示されていた。
「魔獣の出現場所は東区の商店街とその周辺地域。皆が気になるだろう民間人は偶然近くにいた第2が対応したから、魔獣の発生地点の近くにいた人たちは、学校等の指定された場所や、緊急避難地域に退避することができている。怪我人の報告はあってもまだ死者はでていない。しかし、これは時間の問題だ。対応することができた範囲は限られていた。まだ避難することができていない人がいるだろう。次に、魔獣についてだ。東区に出現した種は確認できる限り全て狼型だ。魔力を使った特別な能力はないが、俊敏性、筋力等の単純な身体能力や物理的な攻撃能力はすこぶる高い。爪や牙による攻撃を食らえば装甲服ごと裂かれる。しかも、今回は異常発生ときた。」
マリアは、現状と魔獣について説明する。画面には狼型の魔獣の詳細も表示される。3Dモデルで再現された魔獣は大きさは通常の狼より二回り大きく、異常に筋肉が発達していた。彼女の説明通り、襲われてしまったらひとたまりもない怪物である。
(赤い点が魔獣で、緑色が避難場所か。今のところは魔獣は避難場所には近づいていないけど、人がいることに気づいたらおしまいだ。)
ザキは画面を見ているだけでも焦りを感じた。赤い点、魔獣は地図に無数と思えるほど存在していたからだ。
「魔獣の総数は136……という数字に絶望と不安を感じると思うが、まだ私たちにも機会はある。地図に映っている通り、狼の配置がばらけている。群れといっても1~3匹程度だ。現状、隊員が少ない状態でも押さえることができている。これは魔獣側も突発的な出現によって、まだ慣れておらず、統率がとれていないとみた。そこに私たちの勝機がある。狼たちが大規模な群れを作り、集団戦を仕掛けてくる前に第2と合流して魔獣を早期に殲滅する。…魔獣が統率をとれるようになり、物量で押してくれば私たちの敗北となる。私たちが狼より先に手を打たない
といけない。」
場の雰囲気が張り詰めた。今は魔獣を押しとどめることはできているが、それでもやっとの状態であり、押さえられる限界がある。まだ助けられていない人たちのことも心配になる。隊員たちは、そのことを考えると不安で仕方がなくなってしまった。だが…
「俺はやるぞ…。」
「私も!」
「僕もだ。」
「そうだな。俺たちにかかっているんだ。」
隊員の呟く声が聞こえた。彼は不安に負けないように、自身を鼓舞するかのように言い聞かせている言葉が、口から漏れ出してしまっていた。気持ちは皆同じである。絶対に負けられないと、その言葉に他の隊員たちも応えた。
「第2の状態によっては、動き方も変わる。到着後の細かな指示は椿隊長に任せる。現場での判断が最優先だ。後、私たちよりも到着が遅れるが、援護には第3も来てくれる。私たちはまだ負けてはいない、全力を尽くそう。」
「「「「「了解」」」」」
「死ぬなよ、約束だ。」
「「「「「了解!!!」」」」」
マリアは任務の内容を伝え終え、任務での作戦などは椿が引き継いだ。椿は到着した後の、魔獣との会敵時の対応、第2部隊との合流後の隊員の配置を決めていった。
「ここまでで質問はあるか?」
「はい。」
「なんだ?」
ザキが挙手した。彼には従軍経験など全くなければ、部隊での集団行動もない。当然、椿に専門用語を交えて説明されても理解ができなかった。
「僕は部隊についてよく知らないので、いきなり隊員さんたちのように迅速に動くのは難しいと思います。とりあえず僕だけ前に出て、目に見える魔獣を皆で片っ端から倒していくのってだめですか?僕は体が大きくて堅いから、魔獣の注意を引きつけられるし、盾になることができます。」
できないからといって諦めるという選択肢はザキにはなかった。彼は神器の攻撃による爆風や、飛散した破片に当たってもに傷なく耐えきる体があれば役に立てると思い、自分の持ち味を活かせる方法を伝えた。
「いけるのか?」
「前衛を進んでしてくれるのはありがたいが…。」
「任せられないだろ。できるのかもわからないんだぞ。」
「そうだな。未確定の情報に身を任せるのは良くない。」
周囲の隊員の評価としては、賛否両論だった。仲間を失わずに戦えるのなら賛成だという意見もあれば、まだ実力もわからない者に命を預けることはできないという意見もあった。最終的な判断は椿が決めるため、ザキは彼女に目を向けるが、彼女は難しそうな表情でザキを見ていた。
「脳筋過ぎる。そんなことをしていたら貴様の身が持たないぞ。まず、戦闘経験はあるのか?生まれたばかりだとか聞いているが。」
椿がマリアを横目で見ながら、ザキに戦闘経験があるのか聞く。それにザキは正直に答えた。
「慣らしで1回あります。」
「大丈夫なのか…。黒は機械の故障か?」
戦闘経験の無さに、等級の判定は機械の故障なのではないかと椿はザキに疑いの目を向ける。ザキは椿の言い方に不満はあったが、今は抑えるように自身に言い聞かせた。やり遂げて、見返してやればいい。信頼と信用は自分で勝ち取れば良いのだから、と。
「信用はしなくても、期待はしといてください。良い意味で裏切ってみせます。」
「椿もまだ始まってもいないのに不安そうな顔をするんじゃない。部下も見ているんだ。隊長の君が不安そうな顔をしてどうする。ここはザキ君に賭けてみよう。」
マリアがフォローをいれてくれるが、椿はさらに難しそうな顔をする。彼女は原因の一つである装甲服を着直しているマリアに声をかける。
「所長。聞きたいのですが、なんでまた装甲服を着ているんですか。」
「今回は私も出るからね。ザキ君を受け持つから心配しなくていいよ。なに、現役から退いた身だが、まだ感覚は残っているからなんとかなるさ。」
「は?」
椿はマリアの発言に呆然とした。マリアはザキを受け持つと言った、それに加えて、当たり前であるかのように自分が前に出るかのような発言をしたからだ。
「危険です!こんな奴と…それに義手と義足の充電が切れてしまったらどうするんですか!」
「心配せずとも、切らさないようにがんばるさ。いざとなれば、ザキ君に運んでもらうよ。」
マリアは特殊な素材を使った義肢を使っているが、性能は日常的な活動を行える程度の動作ができる程度だ。魔獣と戦闘を行うには不安があった。椿は心配するが、マリアは義肢のバッテリー残量を確認しながら、心配ないと言葉を返した。彼女の中に行かないという選択肢は無いようだった。」
「所長…。」
「第一、部下の前で責任を取ると言ったんだ。私が前に出て、ザキ君と一緒に行動するのは当たり前だろう?」
「それならば、私が出ます。所長の身に何かあってからでは遅いんです。」
椿は不安だった。マリアは組織の長であるからだ。万が一、組織の頭が潰れてしまっては統制が崩れてしまう。椿はマリアを引き留めるために、自身がザキと行動すると立候補する。
「君には伊九裟があるだろ?2度目は死ぬぞ。心配してくれてありがたいが……まぁ、私にも期待しといてくれ。充電を切らす程、私はまだ弱くないさ。契約ができれば、私の基礎的な能力も上がるだろうし。」
「それは、そうでしょうけど…。私としては不安要素に期待してほしくないです。」
(はて、契約とは?2度目は…死ぬ?)
突然、ザキは物騒な言葉と“契約”というまた聞き慣れない言葉を聞いた。何かマリアが能力が上がるようなことを言っていたが、レムルスの説明では契約とその効果についての話は一つも無かった。マリアと椿はそれを知っている。周囲の隊員たちも特に何か疑問に思うような素振りは見せず、話はどんどん進んでいく。
(ということは、“契約について、皆は知っている”。)
ザキは自分だけこの場で、契約という言葉を知らず、話についていくことができていないことを理解した。
「ちょっと待って!契約ってなんですか?」
ザキは焦り、話に置いていかれないように質問した。
「「「「「え!?」」」」」
ザキ以外のこの場にいる全員が驚愕した。
「契約について、何も知らないのか…。」
「全くですね。」
ザキは神器について教えてもらってある程度知識を得たが、そんな儀式的なものがあるとは全く知らなかった。
「…武奏者という言葉に関心が無かった時点で疑問に感じていたがここまでとはね。生まれたばかりの何もわかっていない神器でも契約の相手は求めるのにな。」
マリアは呟いていたが、すぐにザキの前に座り、タブレット端末でイラストを用いながら彼に教え始めた。
「まずはじめに、契約について話そう。契約とは人と神器が、お互いの心身の領域を共有すること。簡単に言うと一心同体になるってことだね。人間は魔獣に対抗する力を得ることができ、神器側は自身の力を存分に振るうことができる環境が手に入る。力の無い人間と手足の無い神器、両方に利点がある。神器が契約した者の体の一部になるから、人側から神器の力を引き出すことができる。欠点は、…不履行だね。契約を破ったり、無理矢理解除しようとすると罰則がある。…死にはしないけどね。」
「ただ装備しているのとは違うんですか。」
「人が神器を持っているだけではただの鉄の塊、通常の武器と変わらないよ。持っているだけではダメ。魔獣に通常の武器や兵器は通用しないからね。魔獣に唯一通用するのが君たち神器だ。」
ザキは爆撃や戦車など兵器があれば流石に死ぬだろうと思ったが、その考えはマリアに否定された。魔獣は不思議な力で守られているらしく、衝撃で吹き飛ばすことはできても外傷を与えたり、死ぬことはないことが証明されていることを知った。
「次に武奏者、神器と契約し、能力を操ることができる者を指す。椿やここにいる数人の隊員がそれに該当するね。」
ザキは周囲を見渡した。神器を持っている隊員たちが、片手に刀を持ち指を指していた。その他の隊員は神器を取り出していなかった。
「君は魔力が見えるから気づいていたと思うけど、神器を持っていない隊員たちもいるんだ。その者たちは疑神器、複製品を装備している。…ああ、偽物っていうわけではないよ?疑神器も正真正銘神器だ。気性の荒さを抑えて扱いやすくしたもの。契約の難易度は低いから出力はがくっと落ちるけどね。主に、新人や神器と巡り会えない者のためにある。」
疑神器。ザキが神器と同じ匂いの武器もあると感じたのは、神器から複製されたからだった。
「話が逸れたが、最後に契約方法だ。内容は神器が決める。つまり、神器側が優位な立場にあるんだ。その代わり、人間が契約を守り続ける限り、神器は嫌でも協力し続けなければならない。今まででは、膨大な魔力を提供、50も積み重なった瓦を割れるか、ある状況で誰を切り捨てるかといった判断力の高さを契約条件にしてくる奴もいたな。神器の契約の条件は様々。契約できるかは武奏者の能力次第、神器のお眼鏡にかなえば契約ができる。」
「契約についてはわかりましたけど、僕は一人でも動けますし、やる利点が無いじゃないですか。さっきも死ぬって言っていましたし。」
(…必要ないと思うのは魔神態故か。)
ザキは単独でも行動することは可能であるし、誰かの手を借りる程、弱くはないと思っていた。さらに、契約には死が伴うかもしれないことも彼に契約をしたくないという気持ちを与えていた。
「死ぬ?……ああ、あれか。安心してくれ。契約では死なないよ。神器側の要求魔力量が高すぎて、2つも契約するものならあっという間に吸い尽くされて死んでしまうって意味だ。後、ただ単に行動を共にするわけではないんだよ。理由もあるんだ。」
「理由?」
「神器だけでは、大きな力を使おうとして魔力を好きなように消費し、魔力の枯渇によって何もできなくなってしまう場合がある。過剰な魔力消費を抑えるために、力を調整する役割を人が担うんだ」
(なるほど。マラソンとかでいうペースメーカーってわけか。)
ザキはレムルスを撃った時のことを思い出した。魔力の弾丸を撃ち続けた結果、魔力の急激な消費でザキは疲労してしまった。殺すことに集中しすぎて自分の魔力の消費に気づいていなかったからだ。
(確かに、僕は集中しすぎて、視界が狭まるタイプ。見えなくなった部分を補ってくれる誰かと組んだ方が、安全ではある。だけど…)
助け合えることはザキに魅了的だと感じさせたが、それでもザキには契約について思うところがあった。
「ここまで話したけど、それでも否定的なようだね。特に君が不利益を被ることはないのだけれど、何かあるのかな?」
ザキの鉄のような顔面は、表情は変わらないはずだが、マリアは彼の顔を見て何か気づいたのか、思っていることを聞き出そうとした。
「契約って響きが嫌なんです。」
「響き?」
マリアはザキの言うことがわからず、首をかしげた。
「僕、父と母に安易に契約をするなって言われているんですよ。」
ザキとなった男はこどもの頃から両親から契約をするなと教えられてきた。彼の親には騙されて借金の保証人となったり、詐欺まがいの契約内容に騙され大金や資産をとられてしまうなど人生を壊されてしまった友人や知り合いがいたからだ。自身の子がそんな目に遭ってほしくないため、契約まわりは特に厳しかった。彼も両親の話す契約についての実話が怖すぎて、とても慎重な人間となったのだ。
ザキは両親のおかげで、自分の身に及ぶ危険には感覚が鋭くなっていた。最も恐れていることは契約を達成できず破った判定となった時、どこから降りかかるかもわからない罰則に恐れなければならないことだ。話が逸れてしまう程、話してくれるマリアが詳しく教えないのは、破ったらどうなるのかを彼女自身が知らないからだ。自分が優位だからといっても、危険性の方が高いと感じ、契約に否定的であったのだ。
「そういうことか。ちゃんと教えが行き届いてるなぁ!」
(…いるのか?)
「良いご両親をお持ちで。」
(…いるのか?)
マリアと椿は一瞬感心したが、ザキに父と母がいることに違和感を持った。彼を造った親である神はいても、この世界に一柱しかいないからだ。
「じゃあ、どうするんだ?」
「他に方法があるっていうのか。」
「好き嫌いしている場合じゃあないぞ!」
周囲にいた隊員たちも焦って口を出す。別の方法。それはザキも今考えている。彼は契約という儀式に違和感を感じていた。話を聞いていれば契約は一方的なものだ。神器側の望みが叶うだけであり、人間側の望みはついでのようなものに感じた。そんな、一方的なものであると感じさせるところも、彼を益々否定的にさせた。
「口頭ではいけないんですか?」
「難しいだろうね。神器が契約相手の能力を認めてできるものだから、どんなに人間側が力を欲しても、神器側が認められる条件を決めていなければできない。君自身がやりたくないと思っているのなら、そもそも契約はできない。さっきも言ったとおり、君が優位な立場にある。何かこちらに要求はないの?」
「大してこちらからは望むこととしては…あ、研究所での待遇を良くしてくれたらいいなと思います。」
「もちろん。ザキ君はこうして対話ができる貴重な存在だ。君に対して我々は非道な行いは絶対にしないと誓おう。」
「こちらの希望はもう叶いましたね。」
魔力量について、ザキは十二分に保有しており、他者からもらう必要もなく、何かして欲しいこともない。協力する気でいても、マリアの言うとおり、契約したくないという気持ちがあれば、前に進むことができないだろう。話を聞いている感じでは、契約には自由度があった。それならば、自分なりの方法を作ることができるのではないかと考えた。
(と、いってもなんて表現すれば良いか…。)
ザキは、ついこの前までただの人間だったのだ。相手を見定める程、偉くもなければ、身も心も強くない。一方的に他者を振り回す度胸も無い。今日会ったばかりの人間に、自分のすべてを委ねることも難しかった。だが、短い間であっても、マリアや椿、この場にいる人たちの他者のために命を懸ける姿は、彼に影響を与えていた。
“死ぬなよ、約束だ。”
マリアが隊員たちにかけた言葉を思い出した。約束、それは将来の特定の行動や事柄について、守ることを当事者間で取り決め、誓い合うこと。当事者間の法的な効力を伴う合意を必要とし、その合意により、当事者間に法的な権利義務関係が生じる契約とは異なる言葉だ。
(…約束、そうか!)
マリアは隊員たちと約束した。それは一方的なものではなかった。誰一人欠けてはならないという相手を大事に思う言葉だった。自分の欲しいものを要求しあうのではなく、お互いを大切にし、協力できる関係を築くことができる方法が必要なんだとザキは気づいた。
恐らく、契約の不履行による罰則は神によって与えられるのだろう。約束ならば、法的な拘束力は無い。個人間の決めた決まりは、神の決めた法を犯す事も無くなり、ザキの恐れるものは無くなった。彼は即断し、お互いが協力できる方法を試みることにした。
「マリアさん。」
「何だい?」
「契約じゃなくて、約束にしませんか。」
「約束?」
お互いの心を一つにするために望みを出しあう、そして、望みは相手に押しつけるのではなく、一緒に協力して叶える。それが、ザキの考え出した答えだった。
「僕は警戒されて、刃を向けられながら生きていきたくない。ここにいる皆の信頼を勝ち取りたい。でも、僕一人じゃできないことが沢山あります。だから、マリアさん手伝ってくれませんか。魔獣は僕ができる全力をぶつけます。倒して皆を守ります。」
ザキがマリアの前に手を差し出した。
「ザキ君……わかった。」
マリアはザキのやりたいことは理解できたが、成功するのかはわからなかった。しかし、できるかできないかより、面白そうだと感じ、少し考えた後、自身の望みを言った。
「私は機動隊を指揮する人間であり、街の人々を守る義務がある。そして、隊員達の命も背負っている。
だが、私には力がない。皆を送り出して後ろで見ているしかない自分に腹が立つ!…私は力が欲しい。
私にはザキが必要だ。是非、手伝おう。君の身は私が守る。君を酷い目に遭わせたりしないことを約束する!」
マリアはザキの手をとった。瞬間。
“貴方にはやるべきことが1つだけある。”
“お姉ちゃん!お母さんが!!”
“■を殺してほしいの。”
“あんたに、アタシのことはわからない。”
「何だこれは!?」
「私たちの記憶…うっ」
ザキには、泣いている女性と白い人型の映像が、マリアには、不気味なほど精巧な顔立ちの女性の映像が頭の中に流れた。マリアは流れ込む情報に襲われ、倒れそうになった。椿は慌てて駆け寄り、マリアの体を支えた。
『視界の高さが変わった?』
「そりゃあ、私の腕の中にいるからね。…君は銃の神器だったのか。」
『え?腕??うわっ。体が銃になってる!?じゃあ成功したってこと?』
「そうみたいだね。」
ザキは自分の体が変化していることをマリアに指摘されて初めて気づいた。ザキの体が形を変えたのだ。彼女の手には、黒色の銃身に赤と青の炎が刻みこまれた自動小銃が収まっていた。
「所長、大丈夫ですか!体に異常は!?」
「大丈夫だ。問題はない。外部から情報が流れ込むのは初めて体験したな。過去に所有者がいた神器と契約した時に起こる場合があるそうだが…めまいを起こしてしまった。」
「やっぱり、危険じゃないか!」
『違いますよ!』
「所長!それをすぐ手放してください!」
『僕は何もやって…あれ?』
ザキは椿と会話ができなくなっていた。正確には、ザキから発する言葉が椿に伝わらないのだ。何度椿に話しかけても通じないことから、彼は銃になっている状態ではつながりのあるマリアとしか会話できなくなっていることに気づいた。
『マリアさんも何か言ってくださいよ!』
「わかった。椿、私は大丈夫……質量の変化が気になるな。」
『ちょっと!?』
ザキはマリアに椿をどうにかしてほしいと頼み、椿はめまいを起こしたマリアを心配するが、彼女は適当に返事をする。椿とザキが騒ぐ中でも、マリアは全く気にしていなかった。マリアにとって自身の体の状態より、今の状態がとても興味深かったからだ。
(不思議だ。機動隊の中で一番背の高い隊員より、ザキ君の体は大きい。当然、かなりの重量があるはずだ。しかし今は、少し重いが手に持てる重量に収まっている。それに加えて、約束だ。契約を都合の良いもの解釈したもの思ったが、多分……契約とは違うものだ。契約は身の丈より大きい力を体に押し込められて、無理矢理振り回される感覚だが、これは、苦しさを感じない。それどころか、力が湧いてくるような感覚だ。)
「気になるな。詳しく知りたいが…また後で。」
車両が緊急停止した。
「前方に魔獣を確認!数は5体います!」
目的地に着く前に魔獣が襲いかかってきたからだ。




