6話
数十分後、座席に座って仲が良さそうに話をしているマリアとザキの姿があった。
マリアからは色々な情報を教えてもらうことができた。情報を手に入れることができたことはザキにとって嬉しいことだった。例えば、今、彼がいるのはヴォルフェミア連合国というこの世界で唯一の国であり、地位や、財力といった、力が強い人間が異常に優遇されていたりするザキにとって歪んで見える世界であった。
ザキにとって最も興味深かったことは魔力についての話だった。魔力とは生物や大気に流れている自然エネルギーであるとされている。勿論、神器にも流れていて、ザキがレムルスに放った光の弾丸も魔力でできていることがわかった。ザキは、この世界の人は魔法を使うことができるのだろうかと興奮して質問したが、マリアは魔力を操ろうとする物好きはいるが、人やその他の生物は魔力を操ることに向いていないから難しいと否定した。魔獣は個体によっては魔法を使うことができるものもいるらしい。この世も理不尽である。しかし、人間と神器が協力すれば、魔法のような力を使うことができると教えてもらった。ただ、特殊な儀式が必要らしいが…。
「えー!魔法を使えないのは残念だなぁ。」
「そう、がっかりしないでよ。頑張ればできないこともないんだよ?」
がっくりと肩を落とすザキにマリアは気を落とさないように声をかけた。
(面白い情報が聞けたな。これは進歩だ。この中でこの世界について、一番何も知らないのは僕だ。マリアという人、色んなこと知っているな。一体、何者なんだろう?)
ザキは情報収集のつもりで話していたが、自然に彼自身もマリアと話すことが楽しくなってきていた。
(久しぶりだな。長く人と話しているのは。)
ザキは、マリアと話していて彼女は不思議な女性だと思った。機動隊の隊員たちのザキという得体の知れないものに対する恐怖と警戒は正しい反応だ。だが、彼女は今までの人間とは違っていた。警戒心を持っていないのだ。彼女は暑苦しいと言いながら装甲服や、ブーツなどの装備を脱ぎ捨てた。自ら、自身を守るものを脱ぎ去り、装甲服の下に着ていた普段着っぽい上下長袖の最低限の服装だけの状態で、彼の右隣に座っている。
警戒心を持っていないと言い切った理由だが、マリアには初対面の時から、怯えが一切ない。花も最初は怯えていたのだ。人の第一印象は見た目だ。普通の人間ならザキの外見は恐ろしく感じるだろう。しかし、彼女は堂々としている。そう感じさせるのは彼女の話し方だろう。
マリアはザキからも話せるように促している。自身の情報を開示しながら、相手からも情報を引き出す。そのバランスが上手くとれているからお互いが気持ち良く話せる環境を作り出している。ザキは話すことは上手ではない。それなのに、長く話せている。話すことに苦痛を感じていない。それは、マリアが話すということが上手であり、場慣れしているということ。だが、それだけではないとザキは思った。彼女の年相応とは思えない物腰と、どうしたら人間でない者と向かい合っても堂々としていられるのかが気になった。
マリアについての不思議な点にはもう1つあった。彼女の魔力だけ、左腕と右脚の部分に流れていなかった。ザキには生物や大気中に存在する魔力と、人や物に含まれる魔力が視える。当然、人体に流れる魔力も視えるのだが、機動隊が特殊なのかと彼は考えたが、他の隊員は全身を巡るように魔力が流れているので、彼女には、まだ秘密があるのかもしれない。
「色々話せたけど面白いなぁ。神器と話すことが新鮮だし、見た目の割に菓子や甘いものが大好物なのも可愛い。もっと君についても知りたいのだけれど、いいかな?」
「ええ。」
(それにしても、距離が近すぎじゃないか?普通、警戒すると思うけど。)
マリアの距離がとても近い。彼女はザキの隣に座り、時折、何かを調べるようにボディタッチをするほど密着している。
「最初から魔神態…人型になれる状態で生まれてきたようだね。」
「普通は違うんですか?」
「違うさ。神器は神様によって、武器や防具、なにかしらの道具として造り出されて、この世に生まれ落ちる。普通は“モノ”の状態でどこかに出現するんだ。魔神態は神器の完成形。神器が自身の力を極めることでなれる。限られたものが至ることができる境地だ。」
「僕は完成された形で生まれたと。」
現在は神器についての話を聞いていた。神器についての説明はレムルスの説明と大体同じような内容だった。聞いたことがなかったことは魔神態で出現した神器は、ザキのケースが初めてだということ。
「マリアさんは僕以外に魔神になれる神器を見たことはあるんですか?」
「ああ。一度だけ…。」
ザキは自分と同じように人型になれる神器がいるのか気になり、質問した。マリアは今まで陽気に語っていたというのに、この時だけ言葉の歯切れが悪かった。
「ザキ君。やっぱり君は面白いね。」
「それは、さっきも聞きましたよ。」
「君を調べれば調べるほど、新しいことがでてくるからさ。研究所に行けばもっと深く知ることができるだろうね。あ、私からも質問したいのだが、…君、視えてるだろ?魔力とその流れが。」
「!…僕が視ているのは、魔力なんですね。何故視えているとわかったんですか?」
マリアは話を変え、ザキの話に戻した。ザキは聞かれたくない話だったかと気づき、今後は言葉を選ぼうと内心考えていたが、彼女の質問によってその考えは吹き飛んでしまった。彼女はザキが視えているものがわかっていたからだ。
ザキは魔力の流れが視える。集中すればシャボン玉のような魔力が風に乗って流れているのが見えたり、人体に流れる魔力は体の内部を血のように流れている。最初は幻覚でも見ているのかと思っていて、魔力だとはわかっていなかった。ザキ自身がわかっていなかったものをマリアはそれを魔力であると言い当てた。彼女はやはりただ者ではないのだろう。
「女性を庇おうとした時の君の判断と、さっきから私の体、主に左腕と右脚を見ていたからさ。」
「いたんですね。…そんなにジロジロ見てましたか?」
「そりゃあもう、興味深そうに。女性は視線に鋭いよ~。気をつけなよ~。」
「ごめんなさい。」
マリアはニヤニヤした顔で注意してくる。ザキは女性を不躾に見続けてしまったことには何も言えず、謝ることしかできなかった。
彼女の口から、花を助けた時についての話が出てきた。装甲服を着て隊員たちの中に混ざっていた時に見ていたのだろうか。多分、ヘルメットの奥で今と同じように顔をニヤニヤさせて、観察していたのだろう。
「いいよ。私がわかった理由も含めて気になるだろう?見せてあげよう。」
マリアは服の左の袖と右の裾を捲り始めた。
「通常、人や神器は空気中や、人体や物質内の微弱な魔力を視認することはできない。集めて大きくしたり、攻撃するために放出する活性化させた状態でやっと魔力を視認することができるようになる。君が弾いた矢にも魔力が含まれていた。あの時、君は矢を掴もうとした。だが、咄嗟に君は矢を弾いて逸らす選択を取った。見事な選択だ。焦っていたとしても、魔力を視て感覚的に、矢に付与されていた魔力の危険性を理解できていたということ。…これが、私の手足だ。」
そこからは、機械の部品で構成された腕と脚が出てきた。ザキが魔力を視ることができなかった原因は義肢にあった。
「私の左腕と右脚は義肢だ。昔事故に遭ってね。今は魔力を通さない素材で作られたものを使っている。魔獣の中には魔法を使う個体もいるから耐性のあるものを着けてきている。見えないだろう?これを君が不思議そうに見るものだから確信したんだ。目で魔力を視ているのだと。」
「はい。その通りです。」
ザキは集中して魔力の視認を試みるが、どう頑張っても義肢の魔力を視ることができなかった。
「不思議な素材ですね。」
「そうだろう。高かったんだ。他にも利点があって、魔力の流れで相手の動きを読む魔獣もいるらしいよ?これがあると動きが…話がそれちゃったね。」
マリアは興奮気味に解説を始めようとしたが、このまま話し続けると、神器についての話が逸れてしまうことに気づき、軌道を修正する。
「話を戻して、これまでをまとめると、神器が魔力を視たり、単独で判断したり、人や物、周囲に関心を持って観察することは今まで確認されていないし、できないことだとわかっているんだ。」
ザキは疑問に思った。自分以上の存在ならごまんといるだろう。彼は目の前の女性が自分のことをとても価値があるように語るのは、理解ができないことだった。
「言い過ぎなんじゃないですか?僕より判断力の高い奴や、目の良い奴なんて他にもいると思いますけど。」
「いないね。それは造った神様でもどうすることもできなかったことでもあるんだ。」
「何か原因が?」
ザキは聞き返す。他の神器が自分と何かが違うのか、とても気になったからだ。
「性格だよ。戦うための武器や道具を元にして造られたが故に気性が荒いものが多い。特に生まれたては酷い。神器自身の戦いたいという闘争本能が物事の優先順位の頂点にあるんだ。他のものになんて興味を向けることは滅多にない。こちらの意思を伝えようとも聞く耳を持たないから、殆ど伝わらないね。」
マリアはお手上げだと困ったかのように手を上げながら話す。根幹に関わる話なのだろうが、ザキは性格だけでそこまで異なるものなのだろうかと思った。
「神様も変なものを造りましたね。人間に使わせるなら、意思なんて持たせず、もっと便利なもの造ってくれたらいいのに。」
「確かに扱いづらいが、意思があるのは良いこともあるんだ。」
「何かできることがあるんですか?」
今まで乱暴で話を聞かないと最悪なことばかりで、無理矢理ポジティブなところを探しているだけではないかとザキは思ったが、楽しそうに話すマリアの顔を見ると、そうではないと感じた。
「成長する。戦いに対する意欲が高すぎるけどね。それをうまく利用してやれば、経験を積ませて力をつけることができる。」
なんと、成長するらしい。神器は生きている。生命活動を通じて、新しい戦い方の経験や魔獣との戦いを積み重ねて成長していくことができる。成長する行き着くところまで行った魔神態であっても、伸び代は未知数であると聞いたザキは、自身のこれからは打ち止めではない可能性があると知り、嬉しくなった。
「どのくらい成長するんですか?」
「ピンキリだね。すごいのだと最低の等級の白から黒に至ったものもあるよ。」
「わお!神様はこれを考えて造ったんですね!」
将来性があることに、ザキは期待が高まっていたが、マリアは難しそうな顔で言葉を返した。
「いや、過去の教会の文献には、神様は神器を造る過程で、意思が芽生え始めたと語っている。意図的に意思を持たせたのではなく神器が生まれた時に偶然獲得したという方が正しいと思う。」
「特に制作者は深く考えてなかったんですね…。」
「だから、初めから話ができる神器は普通じゃない。君が変わっていることをわかってきたんじゃないかな。」
「まぁ、なんとなく。」
まだ話だけで完全に理解することはできなかったが、ザキは自分が他の神器と比べて、異なりすぎていると認識されていることを
知った。
「さて、ふたりきりの時間はおしまいだね。帰ってきたみたいだ。」
マリアがそう言った後、どかどかと地面を踏みならすような音が近づいてくる。
「こいつら馬鹿にしよって…あとで訓練場の掃除をさせてやる!!」
「「ひ、ひぇ~。」」
隊長がぼろぼろになった隊員を担いで戻ってきた。
「って、所長!なんでそいつの隣に座っているんですか!危険ですよ!!」
「「キャー!」」
「所長だったんだ。」
「そうだよ~。」
「総司令でもあるんだぞ!」
「属性強すぎない?」
ザキは驚いた。マリアは所長で総司令だったらしい。見た目はそう見えなかったが、この中で一番偉い人だったことが発覚した。
隊長はマリアを総司令であると自慢するように紹介する。マリアがザキの隣で寛いでいるのを見て、一気に現実に引き戻され、慌てて隊員を投げ捨てながら、神器を取り出して駆け寄ってくる。
「椿くんも君たちも職務放棄はいただけないよ~。彼がとっても無害で面白かったからよかったけどね。」
「私が言うのもなんですが、ちょっとは警戒してください。」
(隊長は、椿って名前なのか。)
ザキは名前を確認し、椿の方を見る。
対する椿は、眉間に皺をよせてザキに指を指しながら言った。
「貴様は私の名前を呼ぶなよ。呼んだら許さんからな。」
そして、ザキの左隣に座り、神器を向ける。
「そろそろ、神器向けるのやめてくれませんか?落ち着かない…。」
「ふ、ふん!私の良さがわからないのなら、その扱いで十分だ!」
ザキの隣に座る隊長、椿は神器をザキに向けながらも、頬を膨らませて不機嫌な態度を見せる。先ほど
のことを根に持っているようだ。
「そうだそうだー!」
「この分からず屋~!」
「隊長は色々すごいんだぞ!!」
「所長も隣に侍らしておいて!」
「おまえも隊長のファンにならないか?」
(何か変なのがいるな。)
周囲にいる隊員たちも椿の言葉に便乗する。椿をフォローするような言葉には聞こえなかったが。
だが、ザキの主観としては、この集団は上下の関係はあるのかないのかわからないが、いざという時にはとても強い結束力があることを感じさせた。
「椿も皆も神器をおろしてくれ。彼の安全性はもう証明されているじゃないか。」
「…私は今でも信じられません。」
「それでもだ。私たちは彼とわかり合っていかなければならない。」
マリアが椿たちに神器をしまうよう呼びかける。だが、椿たちの様子は戸惑いが見られても、警戒は解かれることはなかった。
色々あったが、今日会ったばかりなのだ。信頼を築く道のりは長いと、ザキはそう思った。瞬間。
【ビィィィイイイイィイイイイイイイ!!!!!】
車内に音がけたたましく鳴り響く。警報だ。
「東区商店街付近で魔獣出現!種別は…狼です!」
「規模は!?」
椿が隊員に現在の状況を聞いた。
「本部が数を観測中!…確認できる限りでは136頭。現在、第2部隊が応戦中。危険な状況です。無線から悲鳴が聞こえていたし、
避難が間に合ってないのかもしれません!」
「第2部隊が無理して押さえてくれているが、いつ崩れてもおかしくないぞ!」
「今から行けないのか!?」
「俺たちは今保護対象を運んでいるんだぞ!」
「それでもだ!なんとかできないのか!?」
「今私たちは爆弾を運んでいるようなものなんだぞ!!さらに被害が出るかもしれない!!」
「研究所に行って戻ってきたとしてももう間にあわないかもしれないじゃないか!!」
「クソォっ!」
隊員たちは今の状態に、困り果てるしかなかった。魔獣が出現したのにザキを護送している都合上、身動きがとれず、第2部隊の援護にいくことができない状況となってしまっていたからだ。
「落ち着け!まず私たちは私たちでできることをするんだ。今は保護対象の護送と監視を優先しろ!!」
「…。」
椿は、隊員たちが混乱しバラバラになってしまわないように、今の任務に集中するように指示した。
隊員たちは悔しそうに拳を握りしめたり、目を瞑るが、椿の指示に従い自身の持ち場に戻る。
マリアは緊急事態だというのに、何故か黙って椿たちの様子を見ていた。
(何故、この人たちは僕なんかに構ってるんだ。今は僕より襲われている人たちの方が大事じゃないか!)
ザキにはわからなかった。自分が無害だという証明は花がしてくれたはずだというのに、隊員たちは魔獣の討伐と命を守ることよりもザキの監視を優先しようとしている。マリアは動いてくれない。ザキ自身の信用も無い。慌ただしく人が動く様と、焦る声がザキを不安にさせた。
椿を含め、隊員たちはいま混乱しているのだろう。人の命と未知の脅威、それが天秤にかかっている。命を守りたくても、ザキという脅威を疎かにすれば何が起こるかわからないのだ。一つの判断ミスが破滅に繋がる。その恐怖があるだけで、無害を証明したとしても、それはたかが一人の女性の証言だけとなる。人の判断基準ではどうしても信じられないことがあるのだ。
(詰んでいる?どうやって今の状況をなんとかするんだ。今この人たちに僕の話すことなんか信…)
“どんなに不安で怖くても、一歩前に踏み出さなきゃ何も始まらないよ。”
ザキの中で花の言葉が響いた。ザキの心に刺さり、残った言葉だった。
(……そうだよな。自分から進んでいかないと何もできない。できなかったとしても、やらなかったら“0”になってしまうんだから。)
ザキはこれから自分の性に合わないことをすると自覚した。もしかしたら失敗するかもしれない。今の状況が悪化するかもしれない。それならやりたくない。ネガティブな感情が溢れる。だが、進むしかなかった。何もやらなければ何も変わらない、今よりもっと悪くなって後悔すると、彼は知っているのだから。
「隊長。」
ザキは立ち上がり、椿に話しかける。急に立ち上がったため、複数の隊員から神器を向けられる。
「貴様に隊長と呼ばれる筋合いはない。まだ何かあるのか。こっちは忙」
「倒します。」
「は?」
「僕が魔獣を倒します。」
ザキは椿に自身が魔獣を倒すことを宣言した。それに対して、椿は訝しむように言葉を返す。
「倒すだと?武奏者もいないのにか?」
「?…。僕だって戦えます。」
「…。」
椿が何か聞き慣れないことを言ったが、ザキは何か引っかかる感覚がしたが、自分だけでも戦えることは事実であるため、言い切ることにした。
マリアは依然、黙ったままであり、椿とザキを見て何かを考えている様子だった。
「どうする?」
「危険じゃないか?どうなるかわからんぞ。」
「力を借りよう!命が助かるかもしれない!」
「そうだ!今長々と話し合ってても厳しくなっていくだけだ!」
「危険だ。まだ、こいつの力を私たちは知らないんだぞ。」
「何が起こるかわからない。」
「でもこのままじゃ仲間が!」
「それは、私だって助けたいが…」
隊員たちも意見が分かれている。
「僕のこと危険物扱いしているが、暴れるならもうとっくにやっています。やらないのは、貴方たちとの共存を望んでいるからです。そこの隊員の言う通り、今は時間がない。今話している間に、人が危険にさらされている。このままじゃ機動隊からも怪我人や死者がでるかもしれない。僕も戦わせてください。倒して、その後で研究所に向かう。これで一つで済みます!!」
(言い方は悪いが、舞い込んできたチャンスだ。ここで有用性と味方であることを証明することができる。どうか通ってほしいが。)
ザキは必死に説得を試みた。今自分にできることをすべてやるつもりだった。しかし、どんなに頑張っても、全力を尽くそうとも、彼にはこの場を決定する権利はない。判断は隊員たちに委ねるしかなかった。
数分、時が流れ、ザキの言葉に対する答えはマリアの口が開かれた。
「いいんじゃないか。」
「「「「「!?」」」」」
隊員たちは、マリアの答えに驚く。この場を仕切らなければならない最も重要な責任者から、場を乱しかねない意外な言葉が出てきたからだ。
「ただでさえ人手不足なんだ。こちらからもお願いしたい。皆も神器を下ろしてくれ。これは命令だ。」
「所長!?しかし!」
隊員たちはうろたえたが、従うしかなかった。この中で一番力を持つのはマリアだったからだ。
椿は納得いかなかった。得体の知れない神器…爆弾と言ってもいいものを抱えているというのに、そのまま追い込まれている仲間の元に引き連れていくというのだ。目の前の神器は意思疎通がとれる特殊な個体だが、腹の内は何を考えているかわからないし、何をするかわからないのだ。そんな不安要素を連れていけるわけがないと思い、反対しようと前に出ようとした。だが、
「なっ!?」
何故か椿は後ろに退いてしまった。マリアは立ち上がり、椿に向かって来た。それだけだというのに。身体的な力は現役である椿の方が上だ。だが、椿は抵抗することができなかった。彼女から凄まじい圧力を感じたからだ。椿はあっという間に壁際に追い込まれ、顔の横に勢いよく手を突かれた。所謂、壁ドンの状態だった。
「椿。判断を誤るなよ。100体以上の魔獣と1つの神器、部隊をどちらに対応させた方が良い?」
「魔獣の討伐…民間人の命もかかっています。」
「わかっているじゃないか。私たちは第2部隊を助けに行く。大丈夫、責任はすべて私がとるし、彼の安全性は私が証明してみせる。」
「…了解しました。」
マリアは運転席に座る隊員に声をかける。
「商店街に到着するのにあとどれくらいだ?」
「こ、ここからだと、最短でもおよそ20分以上かかります!」
「飛ばしてくれ!15分。いや、9分で到着させる気でやるんだ!!」
ザキたちを乗せたトレーラー、装甲車は急速に転回し、商店街へ向けて猛スピードで走り始めた。




