2話
「ひぃいい!!!」
レムルスは迫り来る光の弾丸から、逃げることしかできなかった。身を翻し、くねらせたり、時には、四つん這いで這い回りながら、よくわからない格好で弾丸を紙一重で回避している。放たれた弾丸は、壁や床を砕き、抉りとった。焦りを知らない彼女も、顔を青白くしながら、必死に避け続けている。
何故なら。
「やばいッ!予算度外視で造ったんだった!!“ここ”を破壊できるなら…避けないと…殺られるッ!!」
ザキの放った弾丸は候補であるとしても神の創った“領域”を破壊している。それは異常なことだった。破壊できないように創っているものを破壊しているからだ。反則の極みである。だが、それぐらいできなければ神殺しは成し得ない。レムルスは神殺しどころか、自分を殺すことができる存在を造ってしまったのだ。死の概念がない彼女は初めて、死が間近に迫る恐怖を感じた。
(ちょこまか動くなぁ、なかなか殺せない。)
ザキは苛ついていた。数打ちゃ当たる戦法でやっているが、こうも不思議な格好で回避され続けられると、腹が立ってくるものである。どうにかできないものかと考えていると左手の内部機構が音を立てて動き出し、神器の体が彼に攻撃する手段を与えた。
「左手も使えるのか。」
すぐさま、左手の装填も準備し、両手の指先を向けて射撃を始める。弾幕が2倍となり、弾丸を回避をし続けることがさらに困難になってしまった。
「なんてことしやがる!」
弾丸を器用に躱していたが、次第にどんどん追い詰められ、やがて逃げ場のない部屋の角まで来てしまった。もう壁は破壊され尽くされ、神殿と呼べるかどうかもわからなくなってしまった。
「ストップ!ストォーっプ!はいやめて!終了!!終わりっ!!!」
必死のストップが入ったため、ザキは射撃をやめた。弾丸を撃ち終えた後、体に気だるさを感じた。撃ちすぎたことが原因だろう。
ザキの腕がガチャガチャと展開し、廃熱を始めた。自分の体と破壊された景色を見て、ザキは自分が本当に人間ではなくなってしまったことを実感した。
彼は自身の手を見つめる。指から何か発射された。それは周囲の床や壁を破壊し、瓦礫に変えた。まるで、自分は“銃”…いや、兵器になってしまったのか。こんな機械のような体でこれからどうやって生きていけばいいのだと、彼は疲れた頭でぼんやりと考えるしかなかった。
「やめました。ごめんなさい。殺し損ねました。」
「何やってんだお前ェ!!!!」
ザキは殺し損ねたことをレムルスに報告した。
レムルスは凄まじい勢いでザキに詰め寄り全力で肩を揺さぶってくる。
「うわ。やめてくださいよ。吐く。」
疲れている状態で揺さぶられるのは気分が悪かった。だが、レムルスはザキの話を聴くことなく肩を揺さぶり続けた。
「死ぬところだったでしょ!心臓を壊されたら絶ッッッ対死んでた!あと何も食ってないんだから吐けないだろうが!」
怒る彼女に困りながらもザキは指摘する。
「でも殺してと頼んだのは母上ですよね?」
「頼んでないわ!」
「えぇ?」
ザキはとりあえず、神を呼び捨てにしたら更に怒られると思い、レムルスのことを母上と呼びながら、証拠に指をさした。
「でもあれは母上ですよ?」
ザキが指さす方向には先ほど、殺害を依頼した人物の映像があった。そこに映された人物は……レムルスそっくりだった。
「よく見なさいよ!髪の色は黒いでしょうが!私の髪の色は銀色!!」
彼女の言うとおり、映像の女性の髪色は黒であった。
「度重なる心労に耐えきれず、介錯を僕に…」
「違うわぁッ!しかも首切り飛ばすどころか消し飛ばしにきてるじゃないの!あと私の髪の色は銀色なの!白髪じゃないの!!あと貴方何考えてんの!?母殺しよ!家族を殺すの!?私を殺せば神殺し!親殺し!罰当たりで親不孝者よ!×%&#」
(違うのか。なら誰なんだろうか?)
ザキは髪の色で刺激してしまい、更に怒らせてしまった。
神の怒りは場の温度を急上昇させる。レムルスは怒りすぎてもう何を言っているかわからなくなってきていた。
「怒らないでください。ごめんなさい、僕が悪かったです。先に聞けばよかったです。」
ザキはすぐに、謝罪を行った。
「スゥゥ…ハァアア」
レムルスは怒りを抑えるために、しばらく深呼吸を行う。
「じゃあ、あれ誰なんですか。」
ザキは、困りながら映像の人物について誰なのか聞いた。
「あれはシルト。私の妹よ。」
「妹殺しじゃないですか。」
「……。」
場の温度がまた上がってきてしまった。