12話
と、言っても喜べないこともあった。
「なんで見つけられなかったんだ!!」
「申し訳ございません!!あの魔獣は仮死状態になっていました。死んでいて反応がなかったんです!」
椿が索敵班の胸ぐらを掴みながら、本部の観測班にも怒りをぶつけていた。守れなかった事実は確かであり、誰もが声を上げて喜ぶことができなかった。
「そんなことで済まされるか!ザキの判定といい、機材が壊れているんじゃないのか!」
椿が本部や、索敵班に怒りをぶつけた。彼女は今の状態を素直に喜ぶことができなかったからだ。
ザキが誰もができないと思った救出をやり遂げた。それは椿にとっては結果論だった。ザキという偶然と奇跡が起こっただけであり、彼女は不確定な希望に命が救われても納得がいかなかった。それどころか、機動隊の手で守れなかった事実が深く、彼女の胸に突き刺さった。
(機動隊は確実に命を守らなければならない。だと言うのに、今日は何もかもがわからん奴に救われてばかりだ。どうすることもできなかった自身にも腹が立って仕方がない!)
椿は機動隊の技術には限界があり、仮死状態からの奇襲はどうしようもなかったことは自覚していた。自分が駄々をこね、自身の心の靄つきを周囲に理不尽にぶつけてしまっているだけであるとも自覚していた。ただ彼女は、自分たちが無力であることを受け入れたくなかったのだ。
(私ができなかったことをザキという神器はいとも簡単にやってのけた。所長は狼の大半を討伐した。じゃあ私は何だ?隊長だというのに、命が守れなくて何ができるというんだ!)
椿は今まで必死に積み上げてきたものが無駄だと思いたくなかった。彼女の心の中で、受け入れたくない感情がぐるぐると巡り、余計に意識させられてしまう悪循環を引き起こしていた。
「椿。落ち着け。」
「所長…」
マリアが椿をなだめた。
「椿の気持ちは正しいよ。努力を嘲笑うような理不尽の中で私たちは戦っている。機動隊はそんな理不尽を乗り越えなければならない過酷な仕事だ。だが、私たちに嘆く暇はない。皆で協力し、二度と命を取りこぼさないようにしていくんだ。今日はザキ君のおかげで助かった。これは紛れもない事実だ。今は失ったものがないことを喜ぼう。」
「…。」
「魔獣も様々な戦い方をするようになってきたということだ。今回は仮死状態になれることを知ることができた。これは新しい発見だ。私たちはこれからもっと気を引き締めて戦わなければならない。今までより多くの魔獣の情報を集めて、理解を深めよう。二度とこんなことが起こらないようにね。」
「…了解しました。」
椿はマリアの言葉を受け止め、激情を鎮めた。
「すまなかった。」
「こちらこそ、申し訳ございません。今回は私たちの責任であります。…今度は絶対に見逃しません!」
「ああ。頑張ろう。」
椿は索敵班の隊員に謝罪を行った後、頭を冷やすためにその場を離れていった。
民間人、機動隊共に死亡者なし。軽傷から重傷者多数。怪我は酷くて骨折。結果として、命は失われず、街は破壊されるだけで済んだ。物は破壊されてもいい。なんどでも作り直すことができるからだ。だが、命は失ったら帰ってくることはない。だから、守らなくてはいけないのだ。
(全てがうまくいったわけじゃないけど、何も失わずに戦い抜くことができた。だけど、それは周りに沢山の人がいてくれたからできたことなんだ。決して、一人ではできなかったことだ。)
ザキは思った。うまくいったのは皆がいてくれたからだ。戦う意思は自分で決めたが、元々流されることしかできなかった自身一人では何もできなかった。皆が自身のできることを一生懸命にやり遂げたからこそ、誰一人大事なもの失っていない“今”がある。それは彼にとって、これ以上なく素晴らしいことであり、とても良いことだと思えた。
「マリアさん。皆さんも。ありがとうございます。どこから来たかもわからない僕を信じてくれた。信じてくれたから僕は戦えました。」
ザキはここにいるすべての人たちに感謝を伝えた。
「「「「「「「!!??」」」」」」」
「!…どういたしまして。」
「…?」
ザキはただ感謝を述べただけだというのに、全員から驚かれた。
「神器からお礼を言われたのは初めてだからな。皆驚いているんだ。私も」
理解不能に陥るザキをマリアが笑みを浮かべながらフォローを行った。
「なんで?神器はお礼を言わないんですか?」
「言わない。ただ戦いへの欲求と暴力的な対価を要求してくるだけだ。」
「怖い奴らなんだ。僕とは気が合わなさそう。」
「くふふ。やっぱり君は変わった奴だな。」
(そんなに面白いのか?)
笑うマリアにザキは他の神器と自分に笑ってしまう程に大きな差があるのか疑問に思った。
「あの。」
「ん?」
顔を向ければ、月紬がいた。
「花さんはいいの?」
「私は後から向かうので大丈夫です。おばあちゃんの分も頼まれてきましたから。」
「?」
月紬は花に何を頼まれたのかザキは頭を傾けた。
「ありがとうございます。」
「え?」
月紬に突然お礼を言われたことに、ザキは再び戸惑った。
「あなたにお礼を言えていませんでしたから。」
「君は大勢の命を救ったんだ。受け取る権利がある。」
マリアにフォローしてもらい、ザキはホっとして月紬に言葉を返した。
「…どういたしまして。」
ザキにとってお礼を言われることは慣れない感覚だった。
「ザキ。私からもありがとう。私は君を誇りに思うよ。」
「うぇ?」
「くふふっ。それじゃあ、我々も撤収しようか。」
マリアは事後処理は他に任せ、部隊を連れて戻ろうとした。
その時、月紬がザキに声をかけた。
「最後に、あなたの名前、教えていただけませんか。」
「僕の名前は、…ザキ。」
ザキと月紬。この出会いが今後、どう影響するのか。
期待していてくださいね。
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ザキたちは研究所に到着した。
「ここが研究所だ。」
「でかいなぁ。」
「そうだろう?ここは、神器の保管施設、機動隊の基地、研究施設が合体しているからね。色々あるけど、私が一番偉いから研究所だ!」
「混ざってごちゃごちゃしませんか?」
神器を扱う施設としては共通しているが、専門が異なるため、ザキは機能が無茶苦茶になるのではないかのと思った。
「そうでもない。きちんと役割は決まっているし、神器を安全に保管しできる場所、機動隊の基地があることで武奏者を迅速に見つけられる機会、隊員と神器の活躍で得られた情報から疑神器を造ることができる技術、どの施設も相互に密接に関係している。協同で実験も行っているから、バラバラに見えて、1つの場所なんだ。」
マリアの説明に椿が捕捉をいれた。
「そう聞くと無駄が無いですね。」
「も~。私が説明したかったのに~。」
椿の説明に頷くザキに、マリアは頬を膨らませて悔しそうに不満を垂らした。
「ふぅ。まだまだ見所は沢山あるからね。」
マリアはザキたちの前に出て、建物の前で貴族がするようなお辞儀をした。
「改めて、ようこそ、ザキ君。我が神器技術管理研究所へ。所長であるこの私、マリア・ウェイブが君を案内してあげよう。一番偉い人が案内してくれるなんて、珍しいんだよ~。レアなんだよ~。」
「…。」
「な、なんだい?」
「本当に、所長だったんですね。」
「君は私のことをなんだと思っていたんだい!?」
ザキは、マリアに研究所内を案内してもらうこととなった。
まず最初に、機動隊の基地を案内してもらった。
「ここが機動隊基地だ。魔獣を即発見即退治するために皆頑張っているんだ。」
「皆さん強そうです。あ、見たことない武器や、機械がいっぱい!」
「触るなよ…。」
2番目に、研究所を見学した。
「神器から出た廃鋼。つまり、老廃物で擬神器を作っているんだ。」
「細胞を採取しているみたい。」
「貴様が量産されたら大変そうだな。」
「えっ、なんで?」
「くふふ。」
「なんで?」
3番目は、神器保管庫だ。
『タタカエ!タタカワセロ!!』
『ナニ ミテンダ アァ!?』
『コロス コロコロ』
「ひぇえ!!怖い…。」
「怖がるのか…。」
「くふふっ!やはり合わないみたいだね。」
ザキはマリアが笑う理由をようやく理解した。
最後に、ザキは自分の部屋に案内された。
「さぁ、君の部屋だ。」
場所は日当たりの良い角部屋だった。
「ほぇ~。」
「私の寮の部屋より良くないか…。」
椿は、少し納得のいかない顔をしていた。
「どうかな。満足していただけたかな?」
「最高です。」
見学を終え、自分の部屋を手に入れたことで、ザキの研究所での暮らしが始まった。
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夜が更け、施設が消灯していたが、まだ光が点る一室があった。そこは研究室。マリアは今日の出来事を資料にまとめていた。体を打った箇所が湿布を貼ってもズキズキと響いて痛むが、彼女は我慢して記録を書いていった。今日はもう寝てしまいとも思ってしまったが、次の日また次の日に後回しにすると、記憶が薄れてしまう。今日あったことはすぐにまとめなければならないと体に鞭を打ち、作業を進めていた。
(きっと今日のことは忘れようとしても忘れられない日になると思うけど。)
マリアは研究所と機動隊の両方の組織の長であり、普段は前に出ることはない。後方で指示、支援を行うことが仕事だった。時々、前に出たくなる発作が起きるが、今回は違った。自身の興味関心ではなく、突然、何故か胸騒ぎがしたのだ。何か根拠があったわけではないが、今日何かが起こるかもしれないと感じたのだ。自分からではなく、何かに突き動かされるかのような衝動だった。いつもなら皆に止められているが、無理言って後方待機の監視付きで機動隊の任務に参加させてもらうことができた。
結果として、マリアの勘は当たった。ザキという銃火器型の神器。外見、中身、能力。すべてにおいて異質だった。監視係の隊員が椿とじゃれている間に試みた会話も、まるで人と話しているような印象を彼女に与えた。彼と出会えたという大発見はできたが、その代償は大きく、マリアは暫くは前に出る気持ちを抑えようと決意することとなった。
(不思議な奴だったなぁ。あの見た目でザキ君自身の感性はまともなのが一番面白いんだけど。今日は彼に助けられることが多かった。)
マリアは白狼を思い出す。あの魔獣は間違いなく上位級だった。力も速さも恐ろしいと思えるほど強く、隊員を束ねて戦ったとしても勝てなかっただろう。子の狼も相当だった。136匹以上存在し、全てが白狼の支援を受けていた。戦闘が長引けば狼は学習を重ね、一匹一匹がボス級に成長する可能性があったのだ。
(正直に言うと勝つのは難しいと考えていた。戦いの経験も無い神器には荷が重く、疑似的な契約できたとしても、基礎に毛が生えた程度。上位の魔獣と同じ土俵に立てるとは思えない。多分、あれ程の力があれば、神器もたやすく壊せる個体だっただろう。)
神器は壊れないというわけではない。神器はモノに過ぎない。モノはいつか必ず壊れるものだ。神が造ったから耐久力が無限ともいえるほど高いだけで、魔獣も名の知らぬ神が造った生き物だ。神器をたやすく破壊する奴もいる。
だから、勝てたのはおかしかった。
(勝つことができた要因はザキだ。あの爪を受けても傷一つない耐久力、自分の考えで考え、動く柔軟性。)
攻撃を避けられないと判断して武奏者を守るために盾となる、周囲を観察する、武奏者と相談が可能、これだけでも通常の神器には不可能だった。マリアは困り果ててしまった。考えれば考える程、ザキは異質な存在となってゆくからだ。
“マリアさん!僕を全力で投げて!”
月紬を助けることができたのはザキの判断があったからだ。
(月紬君を回収後、すぐに私の元へ戻った。それは私の減少した魔力残量も視ていたということ。神器を手放し無防備となった私を守るために、無理に攻めない選択をとった。)
意思疎通をとることができ、お互いに協力して行動することができる。それは秒単位で命をとりあう世界において、とても心強くて強力なものとなる。
(生まれた時から魔神態だった。魔神になれるということは、相当の力を持っている。まだ見たことない、彼自身も知らないことが隠されているのかもしれない。しかも、少しあいつに似ている…。いや、あいつと違ってザキ君は私を支えてくれた優しい子だ。比べたら失礼だな。)
ザキの謎の部分、わからないことが多すぎだとマリアは思ってしまった。いっそのこと、造った本神にでも聞いてみたい所だが、神に質問する権利など彼女は持っていない。彼女は心の中で神はつい面白半分で最強の神器を造ってみたのだろうと、ふざけた妄想をすることぐらいしかできなかった。
(…最も気になることは約束だ。)
神器側が内容を提示して評価を行い、武奏者になりえるか判断する一方的なものではない。お互いが協力するだけの単純なものだ。友達や家族がするようなもの。それがどうしてここまで強くなれるのか。
(気になるが現状の情報は少ない。まだまだ気になることがいっぱいだ!)
それでもまだ驚かせてくるどころか、もう笑うしかなかったことがあった。
ザキの力は打ち止めではなかったということだ。
むしろ伸び代の塊だった。共にいて片鱗は感じていたが、ザキの力はまだまだ上に伸びる。彼が生まれたばかりであるとするなら、“初期値”である。戦い、学べば、際限なく強くなっていく。それはこれまでのは神器とは比にならない。
(今までの神器とは全く違う規格外の力。彼は何か意図された目的のために造られたかのような…)
“■を殺してほしいの。”
「ッ!」
ザキから流れてきた記憶。そうかとマリアは気づいた。彼は誰かを殺すために生み出されたのだ。
検閲されたかのように塗りつぶされ、知ることはできなかった。
(だとしたら、一体誰を?ザキ…彼は何を知っている?)
マリアはこの世で最強ともいえる人物を頭の中に想起させる。ザキの強さとこれからの将来性を見据えれば、余程、神はこの世の強者である誰かを完璧に殺したくてザキを造ったとしか思えないからだ。
(だが、彼らは魔獣蔓延る世界を守る存在だ。神器を造った女神が意味もなくそんな不利益なことをするのか?…考えても仕方ないか。推測だけじゃ、資料に書けないからね。仕事終わり!)
マリアはザキに関する事実だけをまとめ、端末の電源を落とした。
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煌びやかで豪華絢爛な部屋であった。輝きすぎて目が眩みそうな空間の中心にあるソファで寛ぐ女性がいた。
「~♪そういえば、あの狼たちはどうなったかしら~?もう攻め落としてる具合だと思うんだけど。」
女性はご機嫌に鼻歌を歌いながら、自身が創った魔獣たちを思いだし、様子を確認しようとしていた。彼女の脳内では、人間たちの血と贓物がまき散らされ、破壊し尽くされた瓦礫の上で、混沌極まる狼たちの王国が出来上がっている様子が浮かんでいた。
「人間たちは傷つき、嘆き、救いの手を求める。そこで私が登場し、人間たちを救って信仰を得る。あぁ。その光景を想像するだけで心が躍っちゃう!」
女性は小躍りしながら、まだ見てもいない結果を自身の都合の良いように想像した。
「街を攻め落として、巣を作らせる。そして強化した狼の繁殖力を活かして増殖させ、支配圏を広める計画…。ふふん!我ながら良いものを作れているんじゃないかしら!」
女性は様子を確認するために、魔獣に視界を共有させようとした。しかし、一向に魔獣側からの応答がない。
「…あれ?見えないわね。調子悪いのかしら?」
何度やっても魔獣と視界を共有できないため、我慢できなくなった女性は鳥の魔獣を呼んで、巣の出来映えを確認しようとした。
「よし、どんな感じかしらって…これは!?」
女性は驚愕した。それは彼女にとって思ってもみなかったからだ。
「し、死んどる。」
積み上げられ焼却処分される狼の死体たちだった。魔獣は全滅しまい、死体となったことで腐敗と劣化が進んでいた。当然、脳機能も死んでいるため、記憶を見ることができず、原因を探ることもできなかった。
第1章 悪魔が生まれた日 完。
いや~やっと終わった。1章は話の進みがとろくてイマイチ!途中退屈になって、どこかに独り言残しちゃったかも!次の章に期待しましょうかね…。
あ。聞かれてた?
初めまして。わたくし、観測員71号と申します。
人間観察が趣味で、他者の人生を覗き見して美しいと思ったことを記録して、集めることを生きがいとしております。
おや、人間観察って、暗い趣味~だなんて、思いました?
思ってなかったり、同じ趣味の方がいらっしゃれば、ごめんなさいね。
まぁ、人間観察って暗い趣味だなんて、わたくしは周りにいっぱい言われてきましたが、実はとっても奥が深くて、学びになる良いことなんです!これ本当。しかも、皆さんも実はよくやっていることなんですよ。
…実はしているのです。
皆さんも、こうしてこの場で、はたまた異なる世界で、他者の人生を覗き見しているじゃありませんか!
楽しいですよね? わたくしもとっっっても楽しいです。
他者の価値観を学び、他者の持つ良いもの、自分に無いものを取り込めば、見ている世界がグッと広がります。
美しい!素晴らしい!!そう思いませんか?
…。
自分語りが熱くなっちゃいました。
ここまで、わたくしの拙い記録に目を通していただきましたこと、誠に感謝申し上げます。観てくださる方々のおかげで記録する側も元気をいただくことができております。
ここで、いきなりお願いをしてしまうのですが。
せっかくここまで観てくださったのに、席を離れてしまうのはもったいないと思っております。この物語がどこに行き着くのか。どうか、わたくしと一緒に、この物語を観届けていただきたいのです。




