11話
【ウオオオオオオオォォォォォォオオオオオン】
様々な方角から複数遠吠えが聞こえてきた。子が親へ想いを送るように、そして、仲間を集めるために。
「こりゃあ、やばいね。探ってみたけど、白い奴が放った遠吠えは最後の命令だったんだ。子の狼が全部私たちの元へ向かってきている。多分、対象は親を殺した私だな。」
『それじゃあ、早く花さんを助けて移動しないと!』
マリアの推測では、白狼は最後の命令で、自身を殺したマリアを始末しろと命じたと考えていた。それを聞いたザキは大慌てで、花を救出して逃げることを提案した。ザキはまだ戦う余裕はあったが、マリアの魔力は、これまでの連続的な戦闘でもうほとんど残っていなかったからだ。
「逃げることは難しいと思うけど、そうだね。…あれ?」
『マリアさん!」
マリアの体が突然、崩れ落ちそうになる。咄嗟にザキが変形して、抱きとめたことで、彼女は顔から地面に衝突することはなかった。
「ありがとう。ザキ君。君は優しいな。」
「そんなことより体が!」
倒れそうになったマリアにザキは心配するが、マリアは痛がる素振りもなく、ザキの肩を借りてその場に座った後、ボトムスの右足部分の裾を捲った。
「生身は大丈夫だけど、義足の方がね…無茶させちゃったのかガタがきてる。こんな時だというのに、立つこともできない。」
マリアは、右足を右手の甲でこつこつと叩きながら脚を確認した。義足は外装部品にひび割れており、形は保っているが、動く気配がなかった。
「…。」
マリアは動かそうと試みるも異音を発するのみ。完全に内部の部品が破損してしまっていた。応急処置をするかと考えたが、直す時間より狼が到着する時間の方が速く、無理ができなかった。
「動きますか?」
「駄目だ。あの時食らったのが痛手だったな。」
(白い奴は強敵だった。だが、仲間を待てばよかったのかというと…そうでもない。あれ程の強さなら、隊員ではどうすることもできなかっただろう。なら、どうすればよかったのだろうか。)
マリアは、義足の動作確認を行いながら、白狼との戦闘を思い出していた。内心の焦りから無理に突撃し、動けなくなったのは間違いなく彼女の責任であった。しかし、自惚れ抜きで当時、白狼に対抗できた者はマリアとザキだけだったのだ。
「…椿の言うとおりだったな。」
「え?」
「この身でできることは限られていたというのに、出しゃばってしまった。」
マリアが急に後ろ向きな言葉を発したことにザキは驚いた。短い間の関わりであっても、彼女が簡単に諦めてしまうような者ではないはずだと思ったからだ。
「このまま2人抱えて逃げるのは難しいだろう。君も手が塞がって戦えなくなる。狙われたら終いだ。」
「…。」
「すまない。君にも迷惑をかけている。」
ザキはマリアの心が、揺らいでしまっていることに気づいた。
(…マリアさんはただの人間だ。しかも殺気を敏感に読み取れるから、常人よりもっと辛いんだ。僕なら絶対に耐えられない。)
ザキは強く、頑丈な体を手に入れたことで心を保つことができているからまだ平気でいられた。だが、マリアは人間だ。何時。命を落とすのかわからない状況に立たされている。いくら知識と経験があり、自信ありげに振る舞おうとも、心身に負担が積み重なっていくのだ。更に、東区にいる全ての魔獣に殺意向けられている状況も、動くことができない彼女の心にじわじわと負荷をかけていた。
「今は自分の身を守れるかどうかもわからない。あそこにいるご婦人を助けられるだろうか。」
「…。」
マリアは花がいる建物を見て困ったようにため息を吐いた。
「…後は、僕に任せてください。」
「!」
「マリアさんがいたから、逃げ遅れた人は生きていられるし、あの子は助かったんです。だから、選択は間違っていません。」
ザキはマリアを左手で抱きかかえ、花のいる建物まで進んだ。
「椿さんが来てくれるまで、耐えてみせます。マリアさんは隠れてください。」
「どうして、そこまで…。」
マリアはザキの行動理由がわからなかった。神器と人間関係なく、身を削ってまで他者に善意を向ける存在に彼女は今まで会ったことがなかったからだ。
「マリアさんも花さんも守ります。約束…しましたから。」
マリアの疑問にザキは当たり前のように答えた。
(約束か。君と、…椿と、…皆ともしたな。君を守る約束も、生きて帰る約束も。)
マリアはザキの姿を見て、自身の約束と、大事なものを思い出した。
「そうだったな。約束したんだ。」
マリアはザキの腕を掴んだ。
「私も戦わせてくれ。補助ぐらいできる。…これ以上、足手まといにはなりたくないんだ。」
「マリアさん…。」
「信じてくれ。私は君を守ると約束したんだ。」
ザキはマリアの光を失っていない目を見て、彼女は諦めていないことを理解した。
「…わかりました。」
ザキは自身の両腕に魔力を集め、常時、魔力弾を撃てるように温め、マリアはザキの背に乗り、首に手を回した。
(ちょっと弱気になってたな…。ザキ君。君はこんな状況で人のことを考えてくれるいい子だ。だから…)
お互いの準備が整い、マリアは気合いをいれた。
「ザキ君。私たちで切り開こう!」
「はい!」
マリアとザキは前方を見た。遠方から夥しい量の鋭い光が見える。それは魔獣の眼光。親を殺された狼が仇を討つために、眼をぎらつかせているのだ。二人は多勢に無勢極まる、過酷な環境に身を投じることとなった。
(生きてくれよ。)
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マリアとザキは場所を移動しながら、狼の大群と戦っていた。マリアの推測通り、殺害対象はマリアであったため、花のいる場所から狼を離すことができていた。
「右から来るぞ!」
「はいっ!」
マリアの指示でザキは指から魔力弾を連射した。
「魔力の出し過ぎだ!出力を押さえて!」
「そ、それが難しくて…。」
「私が制御を補助する。落ち着いて狙うんだ。」
マリアがザキの魔力操作を補助を行った。
「!」
ザキの体内で、余分な魔力が切り詰められ、必要な魔力量だけで弾丸が形成された。
「倒すことに固執するな。攻撃的な考えはより魔力の消費を増大させてしまうよ。」
「でも、マリアさんがいてくれないと!」
「出力は精神が影響するんだ。生き残ることを考えて動けば自然と身につく。さぁ、次が来るよ!」
ザキはマリアに教わったことを、彼女の補助に頼りながらも、最小限の魔力の消費で狼を倒した。しかし、現実は二人を順調に進ませてはくれなかった。狼の数は増援で補充されていくばかりで、数を減らせているようには見えず、二人に気が遠くなるような感覚を与えた。
「ぐうっ!」
「焦るな!距離を保って動き続けるんだ!」
ザキはマリアの指示通り、狼に攻撃されない距離を保ち、射撃を続けているが、物量の猛攻には対応できず、追いつかれることが多々あった。
「囲まれた!?」
「機動力は敵さんの方が上手だからね…。」
物量で攻める魔獣を単独で処理するのは無理があった。
「グルルル……」
狼は獲物を逃がさないように、輪を作り、マリアとザキは狼に包囲された。
「グルァ!!」
包囲した狼は、数匹を攻撃役として突撃させた。それはザキの背中にいるマリアを狙う、嫌らしい攻撃を行った。
ザキはマリアに狼が届かないように攻撃を正面から受け止め、弾き返しながら反撃した。しかし、次第に攻撃役の狼の数と連続攻撃の速度は増し、マリアを守ることに精一杯となり、反撃ができなくなった。
「くそっ!」
8匹の狼が全方角から同時に飛びかかってきた。しかし、ザキには全ての攻撃を防ぐことができる手が存在しなかった。それは、マリアに攻撃が届いてしまうことに直結した。
「守り切れないっ」
マリアを咄嗟に正面に抱え、ザキが覆い被さることで攻撃に耐えようとしたその時。
深紅の剣が4匹の狼の頭部に突き刺さった。
「何が!?」
マリアが周囲を確認すると、剣だけでなく、苦無や矢が、包囲していた狼たちを襲った。
「これは神器だ!」
「もしかして!!」
マリアとザキは神器が飛来した方向を向いた。
「所長を守れぇぇえ!!!」
「椿!みんな!来てくれたか!!」
椿を先頭にマリアの元へ機動隊が全力で走ってきていた。
「私に続けぇッ!!」
椿と隊員たちが狼を次々と倒していく。隊員たちは苦戦する様子はなく、狼の大群を討伐していった。
特に椿の戦い方は凄まじく、9本の剣を肘の間や、膝の裏等、体の各所に挟み、曲芸のように体を操り、怒濤の勢いで狼を討伐しているのだ。剣を自在に操ることで狼を切り刻み、倒れる前に死体を踏み台にしながら、深紅の刃を輝かせ、次の標的に飛び込む姿は、炎が踊っているかのような美しい動きであった。彼女は間合いの外にいる狼には投擲を行い、遠、中、近距離に対応しながら、自由自在に三次元の戦いを行っていた。
不思議に見える点は投擲した剣は消えた後、椿の手に投擲した剣が投げた数と同じ本数、元通りに彼女の手元にあったことだ。これが椿の持つ神器、伊九裟の能力にある。伊九裟は炎で実体のある幻の剣を造ることができる。消すも造るもお手の物だ。最大8本の剣を複製し、斬激、刺突、投擲、設置等、幅広い戦略性を武奏者に授ける。伊九裟を使いこなす椿の予測不可能なる刃に、混乱状態の狼は対応できるはずもなく斬り倒されていった。
「統制が崩れている!今が攻め時だ!全力を出しきるぞ!!」
「よっしゃぁ!!」
「隊長のためにィ!!」
「俺たちだって!」
「でやぁああぁぁああ!!」
魔獣の動きが鈍ったことに加え、所長の安否が確認できたことで、戦意が向上した隊員たちが、狼の大群へなだれ込んだ。
「風向きが…変わった。」
ザキは、狼は魔獣としての特性を活かせぬまま、一方的に倒されていく狼たちを眺め呟いた。
「司令塔…白い奴を私たちが倒したからだろうね。」
狼がこれまで通りに対策できずに倒される原因は白狼が討伐されたことにあった。子の狼たちは、白狼からのバックアップによって戦うことができていた。だが、今は白狼という親を失ったことで、頼り切っていた子は支援を受けられなくなり、魔力操作に乱れが生まれ、動きが鈍ってしまっていたのだ。
「所長に任せっぱなしにさせられるか!!行くぞぉ!!!」
「「「「「「応!!!」」」」」」
第1部隊だけでなく、第2部隊の隊員たちも揃っていた。
【こちら第3部隊2班!民間人を確認しました!】
【魔獣は任せろ!救護班は民間人の救助と保護を最優先だ!!】
マリアが持っていた無線から、救助報告が上がり、マリアとザキは安堵することができた。安心できたことで、精神的に余裕ができたのかもう動くことも苦痛だった二人の体に力が湧いてきた。
「僕たちも加わりましょう!」
「そうだな!」
ザキは背にマリアを乗せて機動隊に加わり、皆と協力して狼を倒していった。
「これでっ最後っ!」
椿が最後の狼にとどめを刺し、機動隊は魔獣を全滅させることができた。
「無事でよかったです!所長!」
戦闘を終えた椿が慌てながら、マリアに駆け寄ってきた。
「椿。よく来てくれた。」
「助かりました。椿さん。」
「はい。所長。…貴様は名を呼ぶなと言ったろうが。」
(隊長は3人いるのになぁ。)
マリアと椿が会話しているのを横目に、ザキは安全になった場に車両が到着し、少女が降りてくるのを見た。少女は周囲を見渡し、マリアを確認すると駆け足で向かってきた。
「君は…。」
「私は、鏡 月紬と申します…。」
「月紬さんのご助力のおかげで、最短で来ることができました。」
月紬は祖母の元を離れた後、全力で機動隊の元へ走った。そして、彼女は自身の能力を使って、機動隊に民間人とマリアの場所を伝え、機動隊が魔獣と会敵しない最短距離で辿り着けるよう、ナビゲートを行っていたのだ。
「そうか。」
月紬は自分の祖母を助けに来たはずだった。しかし、自身の手では助けることができなかった。彼女が感じた無力感は彼女に辛さや悔しさはとても大きいものだろう。しかし、少女は負けずに、諦めずに自分自身にしかできないことを見つけ出した。彼女の前に進むための努力によって、この場にいる全員は救われたのだ。
(彼女は成長したらきっと良い武奏者になるのだろうな。)
マリアは月紬の心の強さと勇気ある選択に敬意を表した。
「月紬君、ありがとう。君の判断のおかげで助かったよ。」
「いえ。えへへ。」
マリアが月紬の頭を撫で、紬は照れくさそうに笑った。
「所長が頭を追い込んでくれたので、狼の統率に乱れが起きていたのもあります。そのおかげで我々も反撃することができました。」
「椿もみんなもありがとう。ザキ君が活躍してくれたからさ。ねっ?」
「…。」
マリアが急に褒めたため、ザキは戸惑いと少しの照れくささから顔をそらした。
「そろそろ行こうか。月紬君、君には待っている人がいるんだろ?」
「は、はい!」
「ザキ君、もう少し頼むよ。」
「勿論です。」
マリアは月紬に花の元へ行くように促した。
「隊長」
「椿。」
ザキに運ばれながら、月紬の後に着いていこうとしたマリアは、椿に呼び止められた。
「もうやめてくださいよ。」
「ああ。…身に染みたよ。反省してる。」
機動隊と連携した組織等の事後処理は迅速であり、救助は順調に進み、月紬が駆けつけた頃には花は倒れた家具から解放され、救急隊員に担架に乗せられていた。
「おばあちゃん!」
「月紬、話は聞いたよ。よく頑張ったね。」
「うん!おばあちゃんが…生きてて…良かった!」
お互いが涙を流し、再開を喜び合った。周囲にいた隊員たちは二人の再会を無理に止めることはしなかった。大切な者を失わずに済んだ。危険と隣り合わせの世界に住む者にとって、これ以上に嬉しいことはないからだ。近くにいた隊員たちの中に涙を流す者もおり、自分のことのように喜べる程に、この世界は過酷であることを表していた。
「あそこにいる人が助けてくれたんだ。」
「じゃあお礼を言わないとね。…ん?あの子は…」
花は遠くに見知った顔を見つけた。
「申し訳ございません。このままでは、お怪我が悪化してしまう可能性があります。」
「わかったよ。お礼はまた今度になってしまうね。」
「月紬さん。病院までご同行お願いします。」
「はい!」
周囲に安堵の雰囲気が広がったが、喜んでばかりもいられなかった。花は救助されたばかり、病院で治療と精密検査を受ける必要があった。月紬は救急隊員に促され、付き添いで花を乗せた担架を運ぶ隊員と共に救急車の方へ向かおうとした。
すべてが終わり、皆の気が抜けたその時だった。
【ボトッ】
音が聞こえた。積み重なった死体の山が崩れた音。それは魔獣の死体の中から聞こえた。マリアは聞き逃すことなく音の発生源へと振り向き、睨みつけた。
「まさかッ!」
マリアが声を上げた瞬間、死体の山の中から影が1つが飛び出した。その場にいた誰もが驚愕した。死体の中から魔獣が蘇ると思わなかったからだ。
影の正体は、狼の生き残りだった。狼は逆転の機会を見つけるために無理矢理、仮死状態となることで、生体反応を消して仲間の死体の下で人間に隙が生まれるのを狙っていたのだ。マリアにとって疑問に残ったことは、この狼が、いかにして機動隊の目を欺くことができていたということである。
乾眠というものがある。
乾眠とは、水がなくなった極度に乾燥した環境で、クマムシやネムリユスリカが体内の水分を可能な限り消費し、エネルギー消費を抑えるために代謝を停止して蘇生可能な状態で仮死状態となる現象とされる。乾眠状態では、脱水と共に蓄積するトレハロースという糖でできた乾燥保護物質によって細胞を守ることで体を保つことができる他、高温、低温、放射線、真空などに対しても極めて高い耐性があるとされている。蘇生するには水を与える、または水分の存在する環境で、樽と呼ばれるカプセル状の形態から元の状態に復帰して生命活動を再開する。
狼はこのクマムシ等の生態の特徴に近い行動を行っていた。土属性の能力によって自身の体を極限まで乾燥、強制的に仮死状態に移行させたことで生体反応を消し、死体の山の中で呼吸をせずにいることを可能にしたのだ。当然狼には急激な乾燥と脱水に耐えられるような体を守る機能を持っていない。これは狼にとって、自身の体を破壊する博打で危険な行為だった。身動きがとれず、仮死状態から蘇生させることができずに死んでしまう可能性、体が耐えられずに死ぬ可能性もあった。だが、狼は博打に勝利し、危険を乗り越えて蘇生に成功した。
どのようにして狼は蘇生に成功したのか。蘇生するには水が必要だ。水は誰にも与えられていない。そもそも、死体の中で仮死状態になれば、動くことも、水を飲みに行くこともできないはずだ。狼を蘇生させた水分はどこにあるのか。
それは十分に存在した。地面の至る所に流れる赤い液体。血だ。仲間の死体から流れる血を啜って、狼は蘇生したのだ。
「ガアァ!!!」
“対抗する術を持たぬ人間から殺せ。”
白狼から授かった学びを活かした狼は、機動隊の防御をすり抜けることに成功し、月紬たちに容赦なく襲いかかった。
「クソっ!間に合わない!」
どうしようもない状況に、椿は叫ぶしかなかった。突然のことに隊員たちも対応できなかった。隊員たちは観測班の報告と、魔獣の反応がなくなったことで、全滅したと判断してしまった。更に、救助と捜索のために人数は分散しており、救護班周りの隊員の割り振りは少なくなっていた。仮死状態になってまで、魔獣が隠れていると誰もが予想できていなかった。絶望的な状況を乗り切ったことで、皆が気を抜いてしまったのだ。
「まだッ終わってない!」
「うぇっ!?」
ザキは諦めてはいなかった。彼は左腕で落とさないようにマリアを強く抱え直した。
突然の出来事にマリアは何もできず、素っ頓狂な声を上げて為すがまま、ザキに抱えられることしかできなかった。
【キュィィイイィイイン】
ザキは自身の残存魔力を総動員させるだけでなく、周囲の環境から魔力を集めるために自身の機能を最大稼働させた。彼の体から悲鳴のような甲高い駆動音が鳴り響き、体内と大気から吸い上げられた魔力が、両足と右腕へ急速に補充されていく。そして、彼はすぐさま地面を蹴り、同時に脚に溜められた魔力をすべて解放して狼に向かって突撃した。魔力を放出するために脚部の装甲が展開し、現れた推進器からは、爆発的な推進力と轟音、爆風を発生させ、彼らを更に加速させた。
「絶対にッ!!守るんだァ!!!!」
爆発的な加速は誰もが絶対に間に合わないだろうと思っていた距離を一瞬で縮め、狼と花たちの間に割り込むことに成功させた。そして、攻撃射程圏内に入ると同時に、ザキは拳を力一杯振るい、狼に拳を叩き込むために腕を振りかぶった。対する狼は、突然現れたザキに目を大きく見開くが、対象が変わろうともやるべきことは変わらず、怯むことなく爪を彼に振り下ろした。
【キィン ドグシャァ】
弾かれたような音と、骨を砕くような鈍い音が響いた。
結果は、ザキの拳が狼に深く突き刺さっていた。狼の頭はひしゃげて眼と下顎がちぎれ飛び、牙はすべてへし折られた。狼の爪はザキが胸部で受け止めた。爪は確かに衝突したが、彼の体をに傷をつけることはできなかった。それどころか、攻撃した側であるはずの狼の爪は彼の装甲の硬さに負けたことで根元から砕けてしまった。
【ズドォォオッッ】
そして、拳が直撃したと同時に、ザキは右腕に溜められた魔力をすべて解放し、右腕の伸縮機構を起動した。瞬間、前腕部分が魔力で代替した炸薬が爆発することによって撃ち出されたのだ。魔神態の全力を籠めた拳に、更に破壊力が上乗せされた一撃は、周囲に腹の底を震わせるような重低音を響かせ、狼の頭を完全に砕き、消し飛ばした。
【カシュッ】
狼の生命活動を完全に停止させた後、溜まった熱と余剰魔力がザキの腕から排出され、前腕が引き戻された。
「無茶するねぇ。まったく。」
マリアはぼさぼさになった髪を直しながら、自分のいた位置と今いる場所を交互に見ていた。彼女が見ていた先程まで立っていた位置には、地を砕き、深く陥没させる程の跡が残されていた。
「あんたってやつは…」
「…しい。」
花は驚くも、笑みを浮かべながらザキを見つめた。彼女の隣にいた月紬は、先程まで命に危険が迫っていたというのに顔を赤くして、目を輝かせた妙な表情をしていた。
「これで、本当に…終わった。」
こうして、街と命は魔獣の脅威から、勇気ある者たちによって救われたのだ。




