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覇弾の射手  作者: 華野 金曜
1章 悪魔が生まれた日
11/14

10話

「何だって!?気づけなかった!」

『さっきまで周囲には誰もいなかったはず!』


 突然現れた少女に、自身の能力で認識できなかったマリアは驚いた。ザキも街が魔獣で溢れている状況で何故、人が現れたのかが理解ができなかった。

 白狼は理解に追いつけないマリアたちの隙を突き、少女に向かって走り出した。戦っていて面倒くさい方より、倒すことができる方を優先したのだ。マリアは銃口を白狼に向けるが、一瞬引き金を引くのを躊躇った。


(当たってしまう!)


 白狼はマリアと少女の間の位置にいた。このまま発砲してしまえば、弾は少女に当たってしまうかもしれないと考えてしまったからだ。その一瞬の躊躇いが彼女の判断を鈍らせてしまい、少女に狼を近づけることを許してしまった。


『マリアさん!僕を全力で投げて!』

「えぇッ!?もうっ!知らないからな!!」


 ザキはマリアに自身を白狼へ投擲することを提案した。

 マリアは突然の内容に理解ができなかったが、余計なことを考えることもできなかった。だが、ザキの発する言葉から、危機的状況を乗り越える考えがあることを彼女は察し、信じてザキの言葉に乗った。


「おりゃあァ!!!!」


 マリアは全力でザキを白狼に投げつけた。自動小銃が凄まじい勢いで白狼へ向けて飛んでいく。

 白狼は自身へ向けて飛んでくる異物に見向きもしなかった。“人間がヤケになり、物を投げつけただけ。容易く叩き落とすことのできるものだ。所詮は人間の浅知恵である。”と処理してしまったのだ。


『こっち向けぇえ!!」


 注目する必要なはないと判断してしまった白狼にとって大きな判断の誤りとなった。

 白狼は声を聞いた。それは自身に近づいてくる。ここにいるのは、自身の自身に刃向かう満身創痍の人間、目の前の脆弱な人間、それ以外ならば、白狼にとって全く知らない第三の何かであった。

 白狼は未知に強制的に意識と体を向けさせられ、眼を大きく見開いて驚愕することとなった。 


「!?」


 白狼の眼に黒い悪魔が映る。マリアに投擲されたザキは魔神態へと変形し、白狼に突進を試みたのだ。


「ガァッ!!!?」


白狼は突然、魔神態となって現れたザキに驚き、体が強ばったことで身動きがとれなかった。そして、彼女の強化された肩から放たれた豪速の鉄塊が、白狼の脇腹に突き刺さった。


「よっしゃぁあ!」


 マリアの雄叫びが響く中、白狼は突然の激痛に動けなくなり悶絶した。肺の空気が無理矢理押し出され、呼吸困難に陥りながら痛みに耐えている。それは先のマリアと同じ状態であった。


「ちょっと失礼。」

「うぇ!?」


 白狼が痛みに耐えている隙に、ザキは少女を抱えてマリアの元へと戻った。そして、未だ痛みに苦しむ白狼との距離をとった。


(こちらも魔力を使いすぎた。マリアも気丈に振る舞っているが、残量を視る限り、厳しくなってきている。この子の安全も確保したい。幸い魔獣も動けなくなっているし、一時休戦だ。)


 ザキは状況の確認を行った後、少女に声をかけた。


「痛い所はある?」

「は、はいっ怪我はないので大丈夫です!ありがとうございます!」

「そうか。怪我がなくてよかった。…ッ!?」


 ザキは突き刺さるような視線を感じた。彼を見る少女の表情は安心したかのような様子であったというのに。特に少女が何かをする意図は感じられなかったため、彼はすぐに異変に気づいた。原因は少女自身ではなく、視線は彼女の目の奥から生じていたのだ。


「ど、どうかしましたか?」

「いや、なんでも。」


 その視線に耐えられず、目線をそらすザキに少女は首をかしげた。視線は、目をそらした時に消えたことは彼にとってありがたいことだった。


「マリアさん。この子はどうします?」


 ザキの問いにマリアは難しい顔をした。


「安全なところに避難させてやりたいが…ここに安全な場所なんて無いね。機動隊の到着にも時間がかかるだろう。…ところで何故君はここにいるんだ?危険だってことはわかっていただろうに。」


 まだ自分が生きていることが信じられない様子であろう少女にマリアの会話の矛先が向く。


「ご、ごめんなさい。避難した人のなかにおばあちゃんがいなくて、街の人も見てないっていうから

逃げ遅れたんじゃないかって!」

「そうか。家族を思う気持ちは良くわかるよ。」


「それでも、君の行いは無謀だ。武奏者を目指すなら気をつけたまえよ。」

「え?なんでそれを…」

「ここまで来たのならもう逃げられない。私は手を離せないから、君がおばあさんを助けてあげてくれ。」

「っ!はい!!」


 少女は急いで壊れかけている建物の中へ入っていった。


(商店街のお菓子屋…やっぱり、花さんもいるんだ。…2人を守らないと!)

「心配しなくても良い。あの子は強いよ。」

「え?」


 ザキはマリアの指摘に理解ができなかった。


「君が強ばった顔をしているからね。あの店のご婦人。最初に君と一緒にいた人だよね。守りたい気持ちはわかるよ。大丈夫だ。孫であるあの少女…多分、私と同じ風属性に適正がある。」

「そうか。音で探知すれば、魔獣に見つからずに行動することができますね。」

「それに自身から発生する音も消せる。私が気配を掴むことができない水準の隠密性だ。実力者だよ。彼女は。」


 少女の能力はマリアに気づかれない練度があった。同属性のマリアの力を間近で見ていたザキには納得ができた。


「そこまでわかるんですか?」

「私も長くこの仕事に関わってるからね。前にも言ったけど、人が魔力を操作するのは難しいこと。見えない何かを扱おうとするんだからね。あの若さであそこまで練り上げるのは相当なことだよ。練習でも間違えば手足が吹っ飛ぶというのに。」


 マリアは、少女は魔力の暴発を恐れることなく、自ら進んで身をすり減らすような努力をして高い技術を身につけたと推測した。 


「そこまでの努力をしてまで、何があの子を突き動かすんでしょうか。」

「執念だね。多分、私と一緒さ…おっと、敵さんも回復したようだ。2ラウンド目開始といこうか。」

「?…了解。』


 ザキは銃へと戻り、マリアは起き上がった白狼に銃口を向ける。白狼は痛みを怒りへと変え、歯を剥き出しにしながら突撃した。両者は再び激しい戦闘を繰り広げるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 少女、月紬(ツムギ)は祖母を助けるために、月紬は店の中へ入った。


「おばあちゃん!どこにいるの!?」


 月紬を出迎えたのは、彼女が慣れ親む日常を営む空間ではなく、物が壊れ、散乱した非日常が広がっていた。破壊の限りをつくされた空間は彼女にとって、これからの自身の将来を暗示しているかのように思わせ、不安な気持ちにさせた。月紬は崩れかけの建物がいつ崩落するのか怯えながらも、大切な人を失いたくないという気持ち一つで逃げ出したい気持ちをぐっと堪え、祖母を探した。


「月紬かい!?どうして来たんだ!」

「おばあちゃんが心配で。助けに来たの!」


 月紬の祖母、花の声が聞こえた。月紬は花が生きていることを知って喜び、声の元へ走った。


「そりゃあ、嬉しいね。…すぐにお前だけでも逃げな。」

「どうして!?」


 月紬は花の居場所は奥の物置部屋だと特定し、近づこうとするが、花は月紬は逃げろと言った。花の安否で頭の中がいっぱいとなっている月紬には、花自身が最も危険な状態であるのに、救助を拒否し、彼女に逃げるように諭す考えが理解できなかった。


「今行くからね!…あれ?」


 物置部屋に到着した月紬は、部屋に入ろうとするが扉が開かなかった。魔獣の襲撃によって建物が損傷し、基礎が歪んだことによって扉が開かなくなってしまっていたのだ。


「この!」


 月紬は少女に似つかわしくない怪力で扉を強引にこじ開け、室内を確認した。


「おばあちゃん!一緒に逃…そんな…」

「何やってんだ!逃げろと言っているだろう!…見ての通り、あたしは動けないんだ。」




花は倒れた棚や、備品等に体を挟まれていた。


「か、体がっ!」

「運が良かったよ。挟まって出られないだけだから大丈夫だ。」

「それって悪いことだよ!!」


 倒れた物が積み重なっただけで、花の体は押し潰されることなく、固定されるだけで済んでいた。しかし、割れ窓が魔獣の侵入経路になることや、軋む床、壁、天井が、崩れる兆候を示し、花には時間があまり残されていないと月紬に教えていた。


「年って嫌だもんだねぇ。自分の力で何もできなくなっちまう。」

「そんなこと言ってないで、私が持ち上げるから、はやく!」


 焦る月紬とは反対に、花は落ち着いた様子で冗談混じりに話し始めた。それが神経に障ったのか、月紬は口調を荒げさせながら、花の救助を阻む棚をどかそうとした。


「やめな。」


 花は月紬の行動を制止した。


「おばあちゃん!」



「月紬、聴きな。」



「うぅ…」


 月紬は初めて祖母に反抗した。しかし、月紬もこれまで感じたことも聴いたこともない花の雰囲気とドスの効いた声に、言葉を止めてしまった。


「…外であたしたちのために誰かが戦ってくれているんだろ。ここで物音をたてたら状況がもっと酷くなるかもしれない。

余計なことをしちゃあいけないよ。」

「でも、…ここはいつ崩れるかわからないよ。」


「あたしなら大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃない!根拠が無いよ!」



「あるさ。いつか必ず誰かが助けに来てくれる。今も私たちのために、戦ってくれている人たちがいるじゃあないか。

「!」


 花の言葉に月紬はマリアと黒い悪魔の姿を思い出した。自身の危険を顧みずに全力で助けてくれた者たちの姿が、確かに彼女の心に刻まれていた。


「希望を信じて、あたしたちはあたしたちにできることをするんだ。」

「…できること。」

「そうさ。できること、為すべきことは必ずある。」


 花は月紬を真っ直ぐに見つめ、月紬を諭した。

 月紬は花の言葉と彼女の目を見て気づいた。目は諦めておらず、今も輝き続けていることに。


「月紬、あんたにできることは何だい?」

「…。」

 

 月紬はどうしたらいいのかわからず、顔を下に向けてしまった。


「月紬はあたしのかわいい孫だ。しかも賢い子だ!あたしは月紬を信じているよ!…答えなら、あんたのここがもう知っているはずだ。」


 花が手を伸ばし、月紬の胸に手を添えた。


「私は…。」


 少女は顔を上げた。その顔つきは何かを決心したようだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 白狼は息を切らすことなく鋭い牙と爪を織り交ぜた連撃を繰り出し、マリアとザキを後退させ、じわじわとを追い詰めていた。


「また避けられた!当たったとしても掠めただけだぞ!」


 マリアも負けじと、ザキを連射し、弾幕を張ることで白狼との距離を保っていた。


「私も君も魔力は有限だ。今は弾幕を張っているが、尽きたらやられるぞ!」


 どれだけ試しても当たらない射撃に、マリアは魔力の無駄だと考え、引き金から指を離そうとした時だった。


『撃つのをやめないで!』

「!」


 ザキが大きな声を上げて、マリアの行動を引き留めた。


「だが…」

『このまま退きながら撃ち続けて。あいつには僕たちがそれしかできないように思わせるんだ。』

 

 ザキはマリアに撃ち続けさせようとした。彼女の狙いは正確だ。並の魔獣なら、既に命中して命を奪っていただろう。しかし、今目の前にいる魔獣は学習し、弾道を完全に読んでいた。


(やれるかどうかわからないけど…この体は何でもアリなんだ。僕のやりたいことをやってみせるしかない!)


 追い込まれた状況を打開するには、白狼にとって意表を突く方法で攻めなければならなかった。


「何か、考えがあるんだね。」

『1つだけ。やってみたいことがあります。』

「……わかった。君に賭けよう。」


 やってやると格好良く言い切りたかったが、これはザキにとっては、その場で考えたできるかどうかも怪しい博打に等しい勝負であったため、そこまでの自信はザキにはなく、根拠のない返事しかできなかった。だが、信じてくれたマリアのためにも必ず通さねばならなかった。


「来るぞ!」


 マリアは白狼に向けて弾丸を撃ち放った。白狼はまたかと言いたげな表情で弾丸の雨を余裕を持って掻い潜り、軽快な速度で接近し、マリアに爪を叩きつけようとした。


『当ててみせる。』


「ガァッ!!!???」

「!?」


 白狼が突然、血を噴き出しながら倒れた。マリアは白狼に最も大きな負傷を与えられたことに驚いた。


(どういうことだ?)


 マリアにとってそれは不可解な現象であった。理解が難しかったが、彼女はしっかりと白狼を負傷させた瞬間を視認していた。それは、白狼に向けて撃った弾丸の数発が軌道を変え、異様な角度で曲がり白狼の腹に突き刺さったのだ。物理法則をねじ曲げて予想外の方向から、白狼の体に撃ち込まれた弾丸は肉を抉り、白狼に激しい痛みと出血を与えた。突然襲いかかってきた狼として生きてきた中で、最大の痛みと驚きに白狼は耐えきれず、地をのたうち回った。


「弾道が曲がった?」

『弾を動かしてみたんだ。初めてだったけど、うまくいった。』


 ザキがマリアに撃ち続けさせていたのは白狼を油断させるためであり、弾道を変えることに集中する時間を作ってもらっていたからだ。


「くふふ。魔法の弾丸(Freikugel)か。面白いものを魅せてくれる。」

(笑ってる?この状況で?)


 傷を負わせることができてもまだ白狼は健在だ。そんな中でも楽しそうに笑うマリアに少し困惑した。


『まだ動けるようだ。油断せず、一気に終わらせよう!』

「おっと、とどめは私に任せてくれないか?私からも君にお返ししたくてね。」

『わ、わかった。って、とどめ?』


 白狼は負傷していても、弾を避ける余力はあった。マリアには白狼にとどめを刺す自信があるというのだ。根拠も理由もわからなかったが、考えなしに彼女が動くはずはないということをザキは理解していた。


『これは…』


 マリアの魔力がザキの魔力の弾丸に注ぎ込まれた。それはザキにとって、今までにない感覚だった。魔力の放出によって、マリアの立つ場所を中心に強い風が巻き起こり、さらに魔力が弾丸に籠められていく。


「グゥ…」


 白狼は回避しようとしたが、出血と負傷によって上手く体が動かず、体幹を崩した。


「とどめだ。」


 マリアは準備を終え引き金を引いた。対する白狼の眼はまだ諦めていなかった。


【ウオォォォオオォオオオオオオォォォオオオオオン】


 白狼は遠方にまで響く遠吠えをあげたのだ。しかし、それは発射された弾丸を対処することはできない。弾丸は突風と共に空気抵抗を無くした弾丸が放たれた。それは音を置き去りにし、白狼が回避不能の速度を叩き出した。


「グギュェ」


 圧縮された空気を纏った弾丸は、獣の頭部に直撃した。外皮と体表が硬すぎるせいか、弾丸は貫通することなく頭蓋骨に残った。


【パアァアアン】


 周囲に発砲音が遅れて響いた。


「……。」


 弾を受けても白狼は倒れることはなかった。鳴き声は発さず、眼は焦点の合わなくなっているが、顔はマリアたちに向いていた。


『まだ生きてる!?』

「大丈夫。」


「グァ…ア?」


【ボゴォ バキャッ】


 白狼の頭が膨張し、風船が割れたかのように爆発して、血と脳漿を撒き散らしながら肉片と化した。

 原因は白狼の頭部内に残った弾丸に籠められたマリアの魔力によるものだ。彼女によって解放された魔力から溢れ出した致死量を超える、考えただけでも恐ろしい量の空気が白狼の血管に入り込み、頭部を内側から吹き飛ばしたのだ。


『やった!終わっ…た?』

「いや、まだだな。」


 倒したことに喜びそうになったザキは、近づいてくる音に現実に引き戻された。周囲から、夥しい量の足音が聞こえてきたのだ。最初、彼は部隊が到着したのかと思った。しかし、それは人間の足音ではなかった。


 獣だ。獣が4本の足で地を駆ける音だ。白狼は死に際に、子の狼たちに最後の命令を出した。



 “我を殺した者を必ず殺せ”と。



 マリアたちに向かって、白狼の殺意を学習した無数の狼たちが走ってきていたのだ。


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