3-1 《『何も起きていない』と判断するあなたの認識能力に、重大なエラーが疑われます。》☆
王都アルカディアへの道は、決して平坦ではなかった。私の『賢者の杖』が引き起こした異常気象のせいで、数日間、激しい雷雨と突風が吹き荒れたからだ。私たちは自作のシェルターと完璧な魔法障壁により嵐が過ぎ去るのを待ち、ウルちゃんの活躍で食物を見つけ魔獣を倒しながら街道を見つけヤバい森の中から抜け出すことに成功し、その後、エルフィーナ騎士とセレスティアの案内で王都を目指した。
途中、セレスティアから
「ところでアキ、危険なことが起きるたびに警告を発したり、あなたに的確なツッコミを入れる男性の声はどなたなのですか?そしてどこにいらっしゃるのかしら・・それも聴こえたり、そうでなかったり・・・」
「あー、アレね。アレは私がやりすぎないように見張っている私の教育係なのよ。どこに居るかは秘密ね。」
どこに居るかは今後観察するとして、確かに教育係だわと感じたセレスティア達は、もうソレに関しては何も言わなくなった。
「ほほぉ……。これが王都……」 数日後、視界が開けた先に現れた巨大な城郭都市を見て、私は思わず声を上げた。白い城壁に囲まれ、中央には天を突くような美しい白亜の城がそびえ立っている。まるでおとぎ話のハイファンタジー世界だ。
しかし、感動も束の間、私たちは城門で早速トラブルに見舞われた。セレスティア達がそれぞれ王女の身分と近衛騎士を示す気品ある立ち居振る舞いや容姿と通行許可証にもなるペンダントにより、衛兵たちは無事を喜び、ひれ伏すが、問題は私だった。
「身分を証明するものがない…、だと?」 隊長らしき厳つい男が、私を胡乱げな目で見ている。
「この方は最も敬愛すべき最高位の国賓であり、私の命の恩人です。私自身が身元を保証します」 セレスティアが毅然と言ってくれるが、規則は規則らしい。特に、王族と共に入城するとなれば、なおさらだ。
「では、せめて魔力測定と犯罪を犯していないかの確認だけでも。万が一、危険な魔道士を招き入れるわけにはいきません。」
隊長の言葉に、セレスティアは少し顔を曇らせたが、他に方法もなさそうだ。私は測定器の前に立つように促された。それは、水晶玉のようなオーブが台座に乗った、ハイファンタジーの定番アイテムだった。
「オーブに手を触れて、魔力を少しだけ流してください」
「はーい」 言われた通り、そっとオーブに触れる。ウルちゃんの指示に従い、体内の魔力を0.01%だけ流す。本当に、ちょびっとだけ。
《警告。まだ魔力を流しきっていませんが、対象の魔力許容量を超え、飽和状態に達します。3…2…1…》
パリーン!という甲高い音と共に、水晶玉に無数の亀裂が入り、木っ端微塵に砕け散り、後にはキラキラな砂と化したさまは元水晶とは考えられなくなっていた。
「「「…………えええええええ!?」」」 衛兵たちと隊長の絶叫が、城門に響き渡った。
「測定不能!?いや、測定器が破壊されるなんて、建国以来の珍事だぞ!」 「化け物か…?」
「絶対何かやらかすと思って悪い予感しかしませんでしたが、まさかここまでとは・・・」とセレスティアが額に手を当てるさまがこんな時にもかかわらず可愛いかった。
ザワザワと騒がしくなる周囲。私は「てへっ」と舌を出して誤魔化すしかない。
《ちなみに、あの測定器の理論上の最大測定値は、この国の宮廷魔道士長官の魔力量を基準に設定されています》
「つまり、私、開始1秒でこの国のトップの魔力量を超えちゃったってこと?」
《正確には、0.01%以下の出力で、です》
「……もう何も言うまい」
結局、測定器を破壊したことで、逆に私の危険性(というか規格外さ)が証明され、トップシークレットとして王城へ通されることになった。セレスティアの客間として用意された豪華な部屋で、私はふかふかのベッドにダイブした。
「はー、疲れたー!異世界、ハードモードすぎ!」
《ハードモードなのは晶の言動です。引っかき回されるセレスティア様のストレスがそのうち限界に達するまで猶予がありません。》
こうして、王都での私の生活は、初日から伝説(悪名?)と共に幕を開けたのだった。
元々「賢者の杖」が天に穿った傷跡と、「賢者のソルトロード」という名の巨大なハイウェイ。この二つの神災級やらかしは、私が王都に到着する遥か以前から、様々な憶測と共に王宮を駆け巡っていた。セレスティアによる「最高位の国賓」という触れ込みも相まって、私、アキは、アルカディア王国の王都に足を踏み入れる前から、伝説と畏怖の対象となっていた。
王都アルカディアは、白い城壁に囲まれた美しい都市だった。しかし、私の目には、ウルちゃんのAR表示を通して、城壁の構造的脆弱性や、室内照度の不足、下水システムの非効率性といった改善点が次々と映し出されてしまう。
《晶、表情が完全にインフラ整備を企む建築・土木技師のそれになっています。今はか弱い美少女として振る舞うべきです》
「だって気になるじゃない!城は脆弱だし、あの水路、絶対に流量計算間違ってるわよ!」
そんな無言のやり取りをしているうちに、私たちは王城へと通された。謁見の間は、天井が高く、大理石張りの豪奢なしつらえに巨大なステンドグラスから荘厳な光が差し込んでいた。王族の威厳を保つための視覚効果が満載だった。
玉座には、国王陛下…セレスティアのお父様が、鋭い観察眼で私を見据えている。
「面を上げよ、異界の賢者殿。世がエドワード・フォン・アルカディア五世である。娘を救い、我が国に『塩』と『天罰』をもたらしたという、その尊顔をとくと見せていただけますか。」
国王の言葉には、感謝と警戒が半々といったところか。セレスティア王女とエルフィーナ騎士が私の両脇で事の経緯を必死に説明している。アークトゥルス神聖帝国のワイバーン部隊が一瞬で蒸発した話に至っては、大臣たちの顔が青ざめていくのが分かった。
「…にわかには信じがたい話だが、娘たちの言葉と、現に存在するあの天の傷跡が何よりの証拠。アキ殿、貴殿の望みは何かな?望むだけの金銀財宝を与えよう」
「望み、ですか?」
私は少し考え、にっこりと微笑んだ。
「温泉付き庭付きで、毎日美味しいものが三食昼寝付きで出てくるお城をください!」
《欲望に忠実な素晴らしい回答です。ぶっ飛んだ回答により交渉のテーブルを初手でひっくり返しました。あなたの発言に起因する精神的・政治的影響は甚大です。現在、国王の血圧と大臣たちのストレス値は危険水域を突破。これにより、かの方たちが行う国防会議は最低でも3時間延長され、あなたの監視体制を構築するための極秘部署が設置される可能性は96.5%です。》
国王は絶句し、大臣たちは呆れ、セレスティア王女は顔を覆った。
その後揉めに揉めたが、結局、私の処遇は「その力を正しく理解し、制御法を探る」という名目で、王立魔法アカデミーへ一時的に籍を置くことで決着した。もちろん、衣食住は王城で保証されるという条件付きで。こうして私は、規格外の客人として、王都での生活をスタートさせたのだった。
「どう、今回は何も起きなかったわよ。」
《観測された事象は多数あります。謁見の間の場の空気を絶対零度まで凍らせる、全閣僚の心拍数35%上昇、セレスティア様の胃痛発生確率89%など。これらを『何も起きていない』と判断するあなたの認識能力に、重大なエラーが疑われます。》




