2-3《いえ、あなたをドール呼びするヤバい生き物です。》 ☆
「お姉・・さま・・・」とセレスティアはうわごとを言い、朦朧とした意識の中、か細い声で呟き、私の腕の中で気を失った。金色の髪がはらりと乱れ、その顔は気品と、今は失われた血色とが痛々しいコントラストを描いていた。
セレスティアを気遣う女騎士は「回復している・・・」と絶句し、気丈にも意識があったがこちらへの警戒はmaxとなっていた。
「さて、どうしましょうか、ウルちゃん。このままじゃ野宿確定だけど、お姫様を土の上に寝かせるわけにもいかないわよね」
《その通りです。対象の「ドール」のバイタルは安定しましたが、依然として安静が必要です。しかも誰かさんがドール呼びしたことによる混乱した症状も現れています。また、気絶させた黒装束たちが奇跡的に意識を回復する可能性、さらに追っ手が来る可能性も考慮すべきです。早急に安全な拠点を確保することを推奨します》
「だよねー。ドール呼びはさすがに調子に乗りすぎたわ。近くに洞窟とかないかしら?」
《半径2キロ以内に適切な洞窟は存在しません。しかし、代替案があります。錬金術、系統的には土属性魔法の応用によるシェルターの即時構築です》
「錬金術!いいわね、お金の匂いがする的な響きが!お金持ちになれそう!」
《可能です。ただ本当に儲かる話は教えずに独り占めするのが人なので、ウマい話というものはその情報を売っている人をお金持ちにする仕組みということを理解することが大事です。そういうものに騙されなければお金持ちになれる可能性が2%向上します。それではあなたの周囲にある岩盤及び土壌の構成物質を分析。最適な構造設計を提示します》
脳内に流れ込んでくるのは、地質データと、それを基にしたドーム型の建築設計図。応力計算から内部の湿度・温度管理システムまで、完璧なデータが揃っている。私の仕事は、やっぱりスイッチを押すだけ。 セレスティアをそっと地面に横たえさせ、私は両手を地面につけた。
「魔法リアクター、発動!」 魔力が足元から大地へと流れ込んでいく。すると、地面が生き物のように蠢き、盛り上がり始めた。土や岩が形を変え、組み合わさり、滑らかな曲線を描いていく。
こちらに注意を払い姫さまの傍にいた女騎士から「おおっなんだこれは」という声がきこえる。
轟音も振動もなく、まるで粘土細工のように、静かに、そして迅速に。 数分後、目の前には直径10メートルほどの、美しい白亜のドーム型シェルターが出現していた。継ぎ目一つない、シームレスで滑らかな壁。入り口には、自動で開閉しそうな石の扉までついている。
「……やりすぎたかしら」
《計算通りです。内部には除菌浄水機能付きの水道、全熱交換換気システム、さらにはオールエアの冷暖房空調システムや簡易のふかふかベットとウォシュレット付きトイレも実装済みです。快適な夜を過ごせるでしょう》
「完全にオーバースペックね!でも、快適も正義よっ!」
気絶した黒装束たちから剥ぎ取った(ウルちゃんの指示です)マントで包んでいたセレスティアをドームの中に運び込む。中はひんやりとしていて、外の湿った空気とは別世界だった。
しばらくして、セレスティアが目を覚ました。
「……ここは?」 翠の瞳が不安げに揺れている。
「気がついた?私の即席ハウスよ。傷はもう大丈夫?」
「あ、はい……。あなたが治してくださったのですね。ありがとうございます。ですが、この建物は一体…?」
「ちょっと魔法でね、チャチャっと」 私の言葉に、セレスティアも女騎士も絶句していた。
彼女の知る土魔法は、土の壁を作ったり、地面を少し隆起させたりするのが関の山らしい。こんな建築物を一瞬で、しかも詠唱も魔法陣もなしに創り出すなど、神話の領域だという。
「お腹、すいたでしょ?ちょっと待ってて。今、ご飯作るから」
《警告。備蓄食料は少量の薬草や樹の実、指向性の災害のときに空から落ちた鳥の二羽だけです。》
「分かってるわよ。だから『創る』のよ」 「ドームの井戸や周辺のものを集めて、人体に必要な栄養素、完璧なPFCバランスでお願い。メニューは、コンソメスープと、メインは鳥の照り焼きのテリマヨバーガーを。」 《無茶な要求ですが、理論上は可能です。分子再構成の魔法陣を投影します。ただし、これは熱力学第二法則及び質量保存の法則に抵触する可能性のある、極めて高度な事象改変です。小規模ですが、これもまたドール呼びに続く…》
「事案、なんでしょ?もう慣れたわよ!」
簡易ベット横の小机に意識を集中し「魔法リアクター」を展開すると脳内の魔法陣が駆動し、魔素が物質へと変換されていく。光が収まった時、小机には温かいスープ皿と、湯気の立つ照り焼きバーガーが乗ったプレートがあった。
「はい、どうぞ。名付けて『調味料ゼロから創る賢者のディナー』よ」 毒見するという女騎士を制し、恐る恐るスープを口にしたセレスティアは、その翠の瞳を今度こそ最大に見開いた。 「おいしい……。こんなに優しくて、深い味わいのスープは初めてです。エルフィーナあなたも食べなさい。」 「何だこのパンにはさんだ鳥は!めちゃくちゃウマい」その後、彼女達は夢中で食事を平らげた。その食べっぷりを見ながら、私は満足感に浸っていたが、ふと向けられたセレスティア達の視線に気づく。 その瞳に宿っていたのは、感謝だけではなかった。畏怖、困惑、そしてほんの少し懐疑心。 「あなた…アキ、でしたわね。あなたはいったい、何者なのですか…?神の御使いですか」
《いえ、あなたをドール呼びするヤバい生き物です。》
「さらっとヤバい生き物呼びするなぁっ」
私はただ、彼女に美味しいものを食べてほしかっただけなのよ。




