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2-2 「おだまり!可愛いは正義なのよ!!」  ☆

森に不自然なハイウェイを建設してしまってから数日後。私はガラス結晶化した地面を歩きながら、今後の食料事情を憂いていた。


「塩はバカみたいに手に入れたけど、肝心のお肉が……」


《警告。前方150メートルに複数の人型生体反応。うち2つは急速に生命活動が低下。残りは敵対的意図を感知。武装しています》


「えっ、人間!?」


慌てて物陰に隠れながら近寄ると、豪華なドレスを泥と血で汚した少女と近衛と思われる女騎士が、一本の巨木に背を預けて荒い息をついていた。少女の歳の頃は私と同じくらい。キラキラと輝く金髪のハニーブロンドと、強い意志を宿した翠の瞳が印象的だ。女騎士は魔獣にやられ甲冑が凹み切り割かれており、それでもなお、少女を守ろうとしていた。彼女の周囲を、黒い鎧を纏った十数人の黒装束が包囲していた。


「セレスティア様、供回りのものは魔獣が始末してくれましたし、女騎士殿も今回は油断召されましたな。しかし、突然城から抜け出すなど・・くくっ。諦めていただこう。」「天に召される前にたっぷり可愛がってあげますよ。」


「誰の差し金か…誰が、お前らに屈するものか!姫様にはこれ以上決して触れさせん。」女騎士が威嚇し打開策がないか思考しているようだ。

少女――セレスティアは、脇腹を押さえながらも、毅然とした態度で黒装束を睨みつけている。どうやら、絶体絶命のピンチらしい。


「ウルちゃん、判明してる状況は?」


《ドレスの意匠、近衛騎士、黒装束の言葉から、少女は王族、あるいはそれに準ずる高貴な身分と推測。黒装束たちは、暗殺を目的としたプロではなく欲望を優先していることから私兵の可能性が高い。魔獣の介入がなければ供回りだけで退けられたレベルです。少女と女騎士の出血量は危険水域に達しショック症状の兆候があり、我々が介入しなければ数分以内に死亡します》


「助けるしかないじゃない!」


《推奨プランを提示します。敵兵士の無力化、及び対象の保護・治療。最適魔法は…》


「待って!今度は『気化』とか『消滅』はなしよ!ちゃんと手加減してよね!?」


《了解。出力を10%に抑制した『電磁パルス投射』及び『音響スタン』を実行します》


私はそっと物陰から出ると、黒装束たちに向かって指を指した。


「お兄さんたち、その愛らしい人形みたいな・・そう私のドールから離れてもらえないかしら?」


「はぁっっ、なんだこのぶっとんだ小娘は。まあいい、ついでに楽しませてもらおう」

突然現れた銀髪の美少女とセレスティアをドール呼びする言動に、黒装束達は呆気にとられたが、すぐに下卑た笑みを浮かべた。


一方、セレスティア達は自身や姫をドール呼びする行為にドン引きし、空いた口が閉じることはなかった。


「だそうよ、ウルちゃん。許可するわ」


《即座に実行します》


思考と同時に、目に見えない衝撃が黒装束たちを襲った。彼らは一瞬にして白目を剥いて崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。


「え、死んでないわよね?」


《大丈夫です。脳に直接作用する特殊な音波と電磁パルスで気絶させただけです。例によって晶がドール呼びしたことで興奮状態になったことにより威力が2割増しています。後遺症として、鼓膜が破れ永久的な聴覚障害を負い、三半規管が破壊されて平衡感覚を失い、まともに動けなくなっています。さらに体内で血液が沸騰・気化し、内臓や血管に深刻なダメージを与えました。まさに指向性のある災害です。

また副次的効果として、特定の周波数が周辺の地殻の岩盤、結晶体などの固有振動数と一致し、対象物が内部から崩壊し、魔法結晶が露出したようです。》


「それはそれで、えげつないわね・・しかしなんでまた魔法結晶って・・」


私は気を失った黒装束たちを横目に、セレスティアと呼ばれていた少女と女騎士の傍らに膝をついた。

「大丈夫!?今、治して差し上げるわ!」

脳内に展開した魔法陣に従い、左手をセレスティア、右手を女騎士の傷口に手をかざす。温かい指向性のある光が彼女達の脇腹や傷口、捻挫・打撲を包み込み、みるみるうちに傷が塞がって症状が回復していく。あまりの出来事に、セレスティア達は瞳を大きく見開いていた。

「な・なんだとこれは回復しているのか。」

「あ…なたは…?まさか…古の…魔女…?」


意識が混濁し朦朧とする彼女達に、わたくしは妖しく微笑む。

「わたくしは晶。そうね…しいて言うなら、気まぐれな魔法使いかしら?わたしの可愛いドール。」


《可愛くて目がくらんたのでしょうが、キャラが崩壊しています。その妖艶な微笑みと「人形ドール」呼び、完璧に事案です。善意からの行動だとしても、あなたの危険人物度が50%上昇しました。セレスティア嬢、逃げてください。》


「おだまり! 可愛いは正義なのよ!!」

こうして私は、この国の第三王女、セレスティア・フォン・アルカディアと運命の出会いを果たしたのだった。


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