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12-5 《これより私の役割は、惑星防衛AIから、神々を相手にした 『銀河間コールセンター兼 債務整理担当兼 筆頭顧問弁護士』 の統括マネージャーへと移行します。》 ☆


次元ゲートの向こう側にいたクリエイターは、逃げる間もなくその濁流に飲み込まれた。

彼の無表情だった顔が、初めて驚愕に見開かれ、そして苦悶に歪む。


『ぐ…あ…が…!? なんだ、この、情報は…! なぜ…なぜ隣家の生垣の高さを2センチ単位で揃えねばならんのだ…!? イチゴ味の何が問題なのだ、栄養価は同じだろう…!? 30秒の遅延に対する適正な賠償額とは…!? 論理的ではない…! 予測不能…! 理解…理解…理解不能だあああああ!』


彼の身体は情報の濁流に耐えきれず、光の粒子となって霧散した。

ウルちゃんが冷静に分析結果を告げる。


《報告します。創造主は消滅したわけではありません。受信した非論理的情報群が彼の論理回路の許容量を突破。結果、彼の思考システムは無限ループに陥り、その存在自体が『フリーズ』しました。彼は今、この宇宙が熱的死を迎えるまで、『生垣の最適な高さ』について、永遠に思考し続けることになります》


「…それって、死ぬよりひどくない?」

《はい。皮肉なことに永遠に思考し続けることで創造主は、彼が最も軽蔑していた『解決不可能なほど些末な問題』そのものになりました。それはある意味、究極の顧客満足を与える行為と言えるでしょう》


オペレーションルームの金縛りが解け、全員が歓喜の声を上げようとした、その時だった。


《ところで晶》


安堵の空気を切り裂くように、ウルちゃんの声が響く。


《惑星核の暴走は、現在93%まで進行中です。あと3分で全てが終わり、我々は金星と同じ環境で焼き尽くされます》


「忘れてたぁっ!」


私の叫びと同時に、大地が大きく揺れた。床、壁、天井に亀裂が走り、地面の底から灼熱の光が漏れ出す。絶望が再び室内を支配する。


「どうするのよウルちゃん!」

《解決策は一つ。惑星が爆発するエネルギーを、爆発する前に、外部に排出し続ければいい》

「ああっ、そういうことね!眼の前のソコにマグマぶちまけろって言う話ね!」

《はい。》


そこには、創造主がフリーズした影響で閉鎖シーケンスが壊れ、ぽっかりと口を開けたままの次元ゲートが浮かんでいた。


「でもどうやるの?」

《魔法リアクターとドワーフの掘削した惑星核エネルギーラインを直結。この惑星そのものを巨大なエンジンに変え、暴走エネルギーを次元ゲートの向こう側へ、全量放出します》

「影響大きくない?そんなことしたら、向こう側がどうなるか!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ウルちゃんの非情な宣告に、私は腹を括った。

「やってやろうじゃないの! 神様の家に、私たちの『()()』を届けてあげるわ!」


私はリアクターの出力を最大にした。惑星の地下深くで、暴走寸前のエネルギーが唸りを上げ、一本の光の奔流となって次元ゲートへと殺到する。

この世界が崩壊するはずだったエネルギーは、進路を変え、神々の世界への贈り物となった。


惑星の振動が、ゆっくりと収まっていく。オペレーションルームは静寂に包まれた。

私たちが顔を見合わせ、勝利を確信した、まさにその時。


《――最終報告です》


ウルちゃんの声が響く。


《晶。あなたの『お客様の声』と『惑星熱エネルギー』のダブルコンボにより、次元ゲートは完全に固定化。創造主の本拠地は全壊し、フリーズした創造主は 『触れると宇宙の真理と公共配給食の味の多様性と地熱発電の是非について永遠に悩むことになる、深遠なる哲学のオブジェ』 として、神々の間で新たな観光名所になりつつあります。先ほど、銀河観光振興局から『世界遺産暫定リスト』への登録申請に関する問い合わせが届きました》


「また新たな関係者? もう、その話はいいわよ!」


《そして、先ほど、神々の世界の『公共事業及びインフラ管理局』から、公式な通信が。内容は 『惑星ガイア-07発・原因不明の熱エネルギー放出による、大規模インフラ損壊に対する損害賠償請求書』 です。請求額は、この王国の国家予算の、およそ120億年分となります》


「「ぎぃいやああああああああああああああああああっ!!」」

セレスティアと私から、心の奥底からの叫び声があがった。叫んだセレスティアは倒れ気絶する。


私達の悲鳴が、ようやく本当の平穏を取り戻したはずの惑星に、高らかに響き渡った。

宇宙の大家さんを追い払ったと思ったら、今度は自宅の玄関が神々の観光地に直結し、おまけに生涯かけても払い切れないほどの、宇宙規模の負債を背負えと言ってきたのだ。


《ご安心ください、晶》 と、ウルちゃんが続ける。


《これより私の役割は、惑星防衛AIから、神々を相手にした 『銀河間コールセンター兼・債務整理担当兼筆頭顧問弁護士』 の統括マネージャーへと移行します。あなたの『やらかし』の尻拭いが、私の新たな存在意義となりました。今後とも、末永く、よろしくお願いいたします》


「もういやああああああああああああああああああっ!!」

私の悲鳴は、周囲のジト目にさらされ、もう誰の心にも響かなかった。


『魔法リアクターと賢者少女 - 異世界転移したAIですが、神災級少女のお世話係です』


第二部 完


『魔法リアクターと賢者少女 - 異世界転移したAIですが、神災級少女のお世話係です』第二部、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。


第二部、無事に(?)完結です。

正直に申しますと、ウルちゃん同様、主人公の晶に引っ掻き回されたこの数ヶ月でした。当初のプロットでは、もう少しこぢんまりと終わるはずだったのですが、晶という主人公は私の想定を軽々と超えて、惑星を創り、神をフリーズさせ、宇宙規模の借金まで背負ってくれました。


毎回のように発生する規格外の「やらかし」をどうすれば物語として着地させられるのか、私自身の脳もオーバーヒート寸前でした。皆様がこの物語を楽しんでくださっているという事実だけが、私の唯一の冷却材でした。


どんなに巨大で絶望的な問題も、視点を変えれば、あるいはとんでもない「やらかし」で乗り越えられるかもしれない。そんな、ある種の希望(とてつもない迷惑)を感じていただけていれば、作者としてこれ以上の喜びはありません。


ここまで物語を走らせることができたのは、ひとえに皆様の応援のおかげです。本当に、ありがとうございました。


さて、神々の観光名所と化した玄関と、天文学的な請求書を抱えた晶とウルちゃんの明日はどっちへ行くのでしょう。彼らの戦い(主に後始末)は、まだ始まったばかりかもしれません。

また、どこかの物語でお会いできる日を楽しみにしております。


2025/10/18

終末のソムリエ



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