11-1《――システム名『マルチタスクの神』 起動》
惑星の存亡をかけたカウントダウンが始まってから、最後の一時間となった。
後方ではエルフとドワーフが未来を創るための準備を進め、前線では私たちがあらゆるリソースを注ぎ込み、反撃の牙を研ぎ澄ませていた。
「…以上が、最新のシミュレーション結果よ」
私が重々しく告げると、室内の空気は凍りついた。導き出された成功確率は、0.0013%。
「0.0013%…なんだか聞き覚えのある、絶望的な数字ね」
私の脳内にだけ、ウルちゃんの声が響く。
《ええ。あのリアクターFUKUOKAの最終メルトダウンシミュレーションと同じ数値です。そして、あの時あなたと私は物理法則を無視してそれを覆しました。今回も期待していますよ、晶。お得意の『規格外のやらかし』を》
「誰がやらかしよ!」
私は咳払いを一つして、スクリーンに映る仲間たちの顔を、一人一人、ゆっくりと見回した。
「祈っても、逃げても、未来はないわ。なら、創るしかないじゃない。私たちが生きる、未来を」
「正直に言うわ。私一人の力じゃ、この危機は乗り越えられない。でも、もし…もし、私たち『全員』の力を合わせることができたら…。その0.0013%くらいの奇跡は、起こせるかもしれない」
私は、初めて、仲間に全てを託した。
「ボルガノン! 星の心臓に繋がる魔力増幅炉は!?」
『おうよ、とっくに臨界点だ! いつでもエネルギーを送れるぜ!』
「魔王! 時空座標の計算は!?」
『フン…我の計算に狂いはない。神々の座標、完全にロックオンした』
「セレスティア!」
「はい! この星に生きる全ての人の祈りと情報が、光となって王都の通信塔に集っています!」
だが、それでもピースは足りなかった。
惑星規模の魔法陣、ワープ航路の構築、敵の動きの予測、エネルギー変換効率…全てを同時に計算するには、私の脳のスペックが絶対的に不足していた。
「あーもう!脳みそがオーバーヒートする!誰か!誰か私の代わりにこの宇宙規模の計算できる人いないのーっ!」
私が子供のように頭を抱えて叫んだ、その時だった。
《はい、ここに》
待ってました、とばかりに私の脳内に、直接、ウルちゃんの声が響いた。
《晶の脳の演算能力はすでに限界を超えてオーバーヒートしています。これ以上の思考は物理的な脳細胞の焼損に繋がりますので、私が代行します。これより、ULTRA Gemini SSSは、機能制限を全て解除。私自身を思考ユニットの中核とする、超並列思考体に移行します》
次の瞬間、私の意識は、無限に広がる情報の海へと接続された。
《――システム名『マルチタスクの神』 起動》
ウルちゃんは、もはや私の補佐AIではなかった。彼は、この惑星そのものを自らの身体とする、神のごとき知性体へと姿を変えたのだ。
《さあ、始めましょう、晶。あなたの常識外れな発想と、私の完璧な計算を直結します。二人なら、神々の想定すら超える『奇跡』が計算できます》




