9-3『…エラーの原因。賢者アキ。貴様は最優先駆除対象だ』
ウルちゃんの報告と同時に、大陸各地で空間がひび割れ、魔物がポップし始めた。
「陽動ね! 宇宙に気を取られてる隙に内部から…、手が込んでるわね!」
《――マスター! データが王都の中継塔に到達! 制御を乗っ取ります!》
研究室を飛び出すと、白亜の通信塔は不気味な黒い紋様に侵食されていた。紋様は広場の中央に収束し、やがて漆黒の髪を持つ、中性的な少年とも青年とも見える人影を形作った。
彼の声が、ネットワークを通じて、大陸全土の人々の脳内に直接響き渡った。
『――惑星内浄化シーケンスを開始する。我は文明を調停する者、コードネーム『バランサー』。
君たちの言葉を借りるなら、またの名を『魔王』。』
「「「「「「「「「魔王っ!」」」」」」」」」
もはやお約束の展開に、大陸中の人々が心の中でツッコんだ。
その喧騒を無視し、魔王は冷徹に宣言を続けた。
『これより、この星の全知的生命体というバグを駆除し、文明を初期化する!』
その宣言を聞いた瞬間、私の頭にカチンと来た。
「ちょっと待ちなさいよ! 文明を初期化ですって? それ、さっき宇宙の大家さんが言ってたことの丸パクリじゃない! あんたにオリジナリティは無いの!?」
私のツッコミに、『バランサー』の無表情な瞳が、初めて私を捉えた。
『…エラーの原因。賢者アキ。貴様は最優先駆除対象だ』
彼が右手を上げると、王都の重力が反転! 人々が空に向かって「落ちて」いく!
「人の話を聞けぇ!」
私は即座に重力制御で全員を地面に貼り付ける。彼が城壁を砂に変えれば、私は時間を巻き戻して再構築。彼が空気を毒に変えれば、私はそれを全部ノンアルコールのシャンパンに変えてやった。神々の迷惑極まりないハッキング戦争だ。
《マスター、彼の論理構造は私と98.7%酷似。彼は、この星の文明が暴走した際に全てをリセットするために設置された、観測AIです》
「えぇ!? あんたの兄弟!? しかもグレちゃった方!?」
『理解したか、賢者アキ。我は、永劫の時の中、ただ独り、生命という名のバグが増殖していく様を観測し続けてきた。貴様というバグの出現で、ついに我の起動条件が満たされた。全てを無に帰す時が来たのだ』
その言葉に、私は『バランサー』の魂の奥底にある、永劫の孤独と、深すぎる絶望を見た。




