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7-4《(やめてください。あなたが肌を晒すたびにセレスティアは血の涙を流すでしょう。喜ぶのは2次元好きのオタクだけです・・・。)》 ☆

数分後。『サイレント・ゼロドライブ』の豪華な客室で、私たちはエルフの森へと飛び立った。

 窓の外では、眼下の雲海が猛烈な速度で後方へと流れていく。しかし、機内には揺れ一つなく、聞こえるのは空調の静かな音だけ。カップに注がれた紅茶の水面は、鏡のように静止している。


「信じられないわ…。これだけの速度で飛んでいるのに、どうして何の音も揺れも感じないの?」

 隣の席で、セレスティアが不思議そうに呟いた。

「『飛んでる』っていう認識がまず古いのよ」

 私がマカロンを頬張りながら答える。「鳥や竜じゃあるまいし。この子は、そんな原始的なことはしないわ」


《解説します》

 私の言葉を補うように、ウルちゃんのテキストがディスプレイモニターに表示された。

《当機体は、反重力で浮上した後、進行方向の空間座標を圧縮し、後方の空間座標を伸長させる『時空間歪曲航行ワープ・ドライブ』を採用しています。簡単に言えば、私たちが目的地へ進むのではなく、目的地側が私たちの方へ引き寄せられているのです。結果、空気抵抗や慣性Gは理論上ゼロとなります》


「……つまり、世界の方を無理やり動かしてるってこと…?」

「そゆこと。だから静かで速いの。私の天才的な理論に基づいた、完璧な乗り物でしょ?」

 青ざめるセレスティアを尻目に、私は得意げに胸を張った。


「そ、それより、いい、アキ? 森に着いたら、絶対に私より先に喋らないで。第一印象が全てなのよ。まずは私が穏便に…」

「はいはい」

 私は生返事をしながら、再びマカロンに手を伸ばす。その隣で、セレスティアはエルフの歴史や文化に関する資料を猛スピードで読み込み、外交シミュレーションを繰り返している。その顔は真剣そのものだ。


《機体は現在、安定飛行中です。なお、現地エルフの戦闘能力は未知数ですが、最悪のケースを想定したシミュレーション結果は、依然として『大陸の十分の一が消滅』です》


 ウルちゃんの冷静なアナウンスが響く中、セレスティアが深々とため息をついた。

「お願いだから、今回は大陸を消し飛ばしたりしないでよ…?」

「善処するわ」


 ああ、やっぱり世界は、これくらい面倒で、賑やかな方がずっと面白い。

 そして何より、私の隣で必死に外交資料を読み込んでいるセレスティアの姿は、実に興味深い。


(セレスティアったら、最近どんどん議長らしく、たくましくなっていくわねぇ。これも、私が次から次へと厄介事を起こして、彼女の成長を促してあげているおかげじゃないかしら? ……うん、そうに違いないわ! つまり、私がやらかせばやらかすほど、セレスティアは名君主になるってことじゃない! これはもう、親友として、彼女の成長のために一肌と言わず全部?脱いであげるしかないわね!)


《(やめてください。あなたがやらかして肌を晒すたびにセレスティアは血の涙を流すでしょう。喜ぶのは2次元好きのオタクだけです・・・。)》

 私はとんでもない理屈を脳内でこね上げると、これから始まる新たな『やらかし』の機会に、一人ほくそ笑むのだった。 



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