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7-3「コードネーム『歩く神災』が、東方へ進路を取ったわ。……そう、いつもの『アキ・やらかしマニュアル』通りよ」

「アキ! 見たわね、エルフからの果たし状!」

 統治連合議長兼王宮特別顧問 補佐官セレスティアが、血相を変えて飛び込んできた。

以前のようにただ泣きそうな顔をしているだけではない。その瞳には、大陸の指導者としての覚悟と、厄介ごとを前にした確かな疲労の色が浮かんでいた。


「ただの迷惑メールよ。ウルちゃん、鎮圧シミュレーションの結果は?」

《三時間以内に鎮圧可能です》


「ほら見なさい。問題ないわ」

「そういう問題じゃないの!」

セレスティアは私の机をバンと叩いた。


「相手は数千年の沈黙を破った伝説の種族! 彼らがその気になれば、大陸のパワーバランスが崩壊するわ! それに、あなたには『前科』がありすぎるのよ!」

 セレスティアは指を折りながら、私の輝かしい功績を列挙し始めた。


「空に大穴! 国土を塩の道に! 全国一斉・脳内映像放送! 古竜の衛星化! これだけ世界を引っ掻き回しておいて、『私のせいじゃない』なんて、どの口が言うのよ!」


「ぐっ……事実だけど、言い方ってもんが…」

「だから、お願い。これは私個人の頼みじゃない。大陸統治連合議長として、あなたに正式に依頼します。彼らと対話してきて」

 セレスティアは頭を下げた。だが、その顔は既に次の手を読んでいた。


「はいはい、分かったわよ」

 私は彼女の思惑通り、不敵な笑みを浮かべた。

未知の種族、未知の呪い。最高の『面倒ごと』の匂いがした。


「しょうがないわねぇ! この私が直々に、森の謎を解明(もっと面倒なことにして)してあげるわ!」

「……ええ、そう言うと思ったわ」

 セレスティアは諦観の混じったため息をつくと、懐の通信魔導具を取り出した。だが、その声は冷静だった。


「シルヴァン、聞こえる? 私よ。……ええ、最悪の事態。コードネーム『歩く神災』が、東方へ進路を取ったわ。これから私が現地で直接監視・誘導する。あなたは王都に残って、関係各所への根回しと、被害想定レベル『S』に基づいた危機管理計画を実行して。……そう、いつもの『アキ・やらかしマニュアル』通りよ」


 セレスティアの口から出たのは、助けを求める声ではなかった。被害を最小限に食い止めるための、冷静な指示だった。

 数秒後、王室首席書記官シルヴァン・アークライトが研究室に現れた。彼の完璧な笑顔は、既にビジネスモードに切り替わっている。


「拝聴しました、議長。それで、アキ様。今回の『遠足』の概要をお聞かせ願えますか? 私が留守中の損害賠償請求書の宛先を整理しておきますので」


「あんたは留守番なの? つまらない男ね」

「貴女の『面白い』は、国家予算を軽く吹き飛ばしますので。セレスティア議長、どうかご武運を。貴女の胃薬の備蓄は、私が責任をもって補充しておきます」


「ありがとう、シルヴァン。頼んだわよ」


 短く、しかし的確な打ち合わせを終えたセレスティアは、私に向き直った。

「いいわね、アキ。私も同行する。ただし、これはあなたの個人的な旅行じゃない。大陸統治連合の公式な外交使節団としての訪問よ。私の指示には従ってもらうわ。いい?」


「えー、面倒くさい」

「面倒でもやるの! まずは手土産! ウルちゃん、さっきの虹色マカロンを最高級の化粧箱に詰めて!」

《了解。贈答品用パッケージングを実行します》


 かつてのように私の暴走に振り回されるだけだった少女は、もうそこにはいなかった。彼女は、私の「やらかし」を前提とした上で、それを「外交」という枠組みに無理やり押し込み、被害をコントロールしようとする、したたかな政治家へと成長していたのだ。


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