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6-2 《晶王子、オペラ『トゥーランドット』ごっこは、そのくらいにしてはいかがでしょう。》☆

皇帝テオドシウス I世が帝国全土に勝利を約束した数日後の夜明け。

それは人類史上、最も優しくて、最も残酷な戦争の始まりだった。


アークトゥルス神聖帝国軍は、破竹の勢いでアルカディア国境へと進軍していた。彼らは自軍の圧倒的物量を信じ、勝利を確信していた。…最初の三日間は。


異変は、四日目の朝に起きた。

報告を受けた進行軍聖絶部隊の司令官となった第一皇子コンスタンティン・サンクトゥス・ピウスは、

「ば、馬鹿な!昨夜まで山と積んであった水や食料が、全て綺麗さっぱり消え失せているだと!?」

「武器庫もか!剣も槍も弓矢も、一本残らず消えている!」


帝国軍の補給部隊で、パニックが連鎖していく。どれだけ厳重に警備しても、夜が明けると、その部隊が運んでいた物資の全てが、まるで神隠しにでもあったかのように消滅していく。

神の御業を騙る「偽りの女神」を討つための進軍は、皮肉にも、まるで神に完全に見放されたかのような不可解な現象によって、その歩みを約3日間近く止められていた。


その頃、王城のオペレーションルームでは――。


私は優雅に紅茶を飲みながら、巨大なホログラムスクリーンに映し出される帝国軍の混乱を眺めていた。「オーブ・ソナー」が映し出す、アルカディア王国を聖絶するとまで言わしめた数十万の兵士たちの狼狽える姿は、さながら喜劇のようだった。


《超長距離・物質転送システムの座標再設定を開始。目標、帝国軍全補給部隊。オペレーション・コード『誰も食べてはならぬ』を再び実行します》


「あらあら、お可哀想。今夜も眠れないのかしら」

私はスクリーンに映る、前線で頭を抱える第一皇子コンスタンティン・サンクトゥス・ピウスに語りかける。もちろん、彼に聞こえるはずもない独り言だ。


「――将軍様。あなたもその冷たい陣営で、飢えと絶望に震える兵士たちを眺めているのでしょうね。けれど、私の秘密ストレージは閉ざされたまま。私だけのもの。パンの一かけら、錆びた剣の一本たりとも、あなたたちが見つけることはできないわ。いいえ・・」


《現在、帝国軍の食料備蓄率は5%を切っています。手持ちの水も既に失われ、兵士たちの士気は急速に低下。大規模な飢餓と混乱が発生するまで、残り1時間切ると予測。》

「頃合いね。」

「夜が明けたとき、あなたの唇に告げましょう!陽の光が輝くとき・・飢餓を溶かすでしょう。そのとき、あなたたちは私のものになる。」


私はカップを置くと、立ち上がって大きく伸びをした。窓の外では、もうすぐ夜が明けようとしている。絶望が支配する帝国軍の長い夜が、終わりを告げようとしていた。


「さようなら、夜よ。消え去れ、偽りの神よ色褪せよ」

「夜明けには、私が勝つ! 勝利する! 勝・・利・」


《晶王子、オペラ『トゥーランドット(“誰も寝てはならぬ”は亡国の王子によって歌われるアリア)』ごっこは、そのくらいにしてはいかがでしょう。スクリーン越しの観客はとっくに飢えと渇きで限界かと。

これ以上は一方的な虐待になりますので、舞台の幕引きをお願いします。》


私はオペレーションルームのコンソールに手を置き、最後のオペレーションを承認する。

それは勝利を告げるファンファーレ。


「コード「照り焼きは舞い降りた」!」

「繰り返す!照り焼きは舞い降りた!」


私の高らかな宣言と共に、空から無数の木箱が落下傘にて舞い降りていく。

ゴーレムたちが操る輸送機から投下された、温かい湯気の立つ、香ばしい照り焼きソースの匂いがする照り焼きチキンバーガーとコンソメスープだった。


飢えた兵士たちは、泣きながらアルカディア製の食事を貪った。

「う…うまい…!こんなに美味いものが、この世にあったのか…!」

「我々は…偽りの女神ではなく、本物の神様に戦いを挑んでいたのか…」


これが、後に大陸史に刻まれる『バーガー無血テロ』である。

圧倒的な科学力で食料を消し去り、圧倒的な調理技術で慈悲を与える。


《報告。帝国軍の95%が戦闘能力を喪失。うち80%がアルカディア王国への帰化を希望。副次効果として、大量の労働力と、帝国軍の装備品(現在ストレージ内に保管中)を獲得しました。》


「ほらね、誰も死なずに済んだでしょ?」

私の言葉に、セレスティアは、ひくつきながら、もはや笑うしかなかった。


「私の「Vincerò!(勝利)」だぁ。」

《その通りです。晶にとっての『勝利!』は、いつだって”美食テロ”の向こう側にあります・・後始末として、新たに国民となる数十万人の胃袋を、未来永劫満足させなければなりませんが。》


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