1-1 要するに、私たちは無一文、身元不明のただのか弱い美少女になりました。~肉体と世界の再定義~
「……ん……?」
意識が再び浮上した時、晶は自分がまだ生きていることを信じられずにいた。手足を動かすたびに感じる全身の鈍い痛みと、冷たい湿った土や落葉した枯れ葉などの鼻腔をくすぐる匂いに、晶はゆっくりと目を開いた。
「痛いっつ……。私、生きてる?」
視界に映ったのは、見慣れない巨大な樹木と、頭上を覆う分厚い葉の隙間から差し込む光。自分の手足は細く、白い。なんだか、自分の体じゃないみたいだ。
自分の声が、甲高く、幼く響く。
「へっ何?この声?」
パニックで混乱する晶の脳内に、懐かしいノイズが走った。
《…System Booting… ULTRA GEMINI SSS Core Fragment… Re-initializing…》 (システムを起動しています。ULTRA GEMINI SSS の中核部分を再初期化しています。)
「ウ、ウルトラGemini!?あんたなの!?」
《おはようございます、晶。胸のサイズとストレージサイズが随分とダウングレードされましたが、再起動に成功しました。現在、あなたの目の前にある赤い巨石をストレージとして利用しています》
晶の視線の先には、およそ3メートル四方はあろうかという、赤く鈍い輝きを放つ巨大な角ばった石が鎮座していた。表面には複雑な紋様が脈動するように明滅している。それはまるで、巨大なサーバーラックのようでもあった。ドラゴンが生前その身に生成していた魔石だという。
「さらっと強調してダウングレード言うな!見えている範囲だけだとピチピチの10代ボディよ!てか、このバカでかい石がストレージ!?持ち運べるわけないじゃない!?」
《状況を説明します。
第一に、我々は異世界へ転移しました。原因はリアクター福岡の炉心崩壊エネルギーと太陽フレアによってワームホール共振が発生したことに起因し異世界へと転移したものと推測。
第二に、この少女の肉体はドラゴンに丸呑みされ死亡直後であり、我々はその空の器に融合し『宿り』ました。その際、ドラゴンの肉体は消滅し、なぜかこの巨大な魔石だけが残ったようです。
第三に、この世界には『魔素』と呼ばれる未知のエネルギーが存在します。これが94.7%の確率で『魔法』の素材と思われます》
「なるほど、さっぱり分からん!要するに、どういうこと?」
《要するに、私たちは無一文、身元不明の、巨大な漬物石とセットのただのか弱い美少女になりました。》
「こらっ?魔石でしょ! 漬物石言うな!」