5-4 「私の平穏なスローライフは、一体どこ…」 ~星になった竜と孤独な神の涙
古竜エンシェント・ロードが「星」になってから数日後。各国の天文学者たちは、夜空に、これまで誰も見たことのない星が生まれていることを確認した。それは青白く、まるで氷のように冷たい光を放ち、決まった周期で天を巡る。竜の形に似ていることからそれを『竜の星』と名付け、その輝きを称えた。いつしかそれは恋人たちが愛を誓う星となり、子供たちが願い事をする希望の象徴となっていた。
―――ただ一人、私を除いては。
人々が見上げる光が、私には巨大な氷の墓標にしか見えなかった。皆が希望の輝きと呼ぶ光が、私には宇宙の闇で凍りついたまま、故郷を見下ろし続ける、孤独な神の涙に思えた。
もちろん、その正体が、私とウルちゃんが大気圏外にぶん投げた古竜だとは、ウチの王国の一部をのぞいては知り得ないことだった。
「ねえウルちゃん、あの子、宇宙で生きてるの?」
《はい。古竜の強靭な生命力と魔力器官が、真空および極低温環境に適応。体内で魔力を核融合させ、自給自足の状態に入っています。現在は安定した衛星軌道上で、穏やかに睡眠中です》
「なんだか、ごめんね…」
しかし、このやらかしは、予想だにしない、とんでもない副次効果を王国にもたらした。
衛星軌道上の古竜エンシェント・ロードは、その巨体から常に強大な魔力フィールドを放出し続けていた。ちょうど地球のバンアレン帯が有害な放射線を防いでいてくれるように、王国の空を覆う巨大な保護膜を形成したのだ。
ある日、隣国アークトゥルス神聖帝国が、アルカディア王国に対して大規模な呪術攻撃を仕掛けた。
しかし、宇宙から飛来する邪悪な魔力は、全てが『竜の星』の魔力フィールドに阻まれ、地上に到達する前に消滅してしまった。
《報告。国籍不明の広域呪術攻撃を観測。ですが、衛星エンシェント・ロードの魔力障壁により100%無力化されました。この『ドラコニック・シールド』は、今後、宇宙からの魔力的脅威や大規模な隕石飛来からも王国を半永久的に守り続けます》
「えっ、じゃああの子、私たちの守り神になってくれたってこと!?」
《結果的にそうなります。生態系の頂点を排除した代償として、絶対的な防空システムを手に入れました。まさに神災的トレードオフです》
古竜がいなくなった地上の生態系は、一時的な混乱の後に新たなバランスを見出し、より多様で豊かなものへと変化を遂げた。
そして私は、国民から「星を創り、天を治める、慈悲深き厄災の女神」として、もはや畏怖を通り越して、一種の自然現象のように崇められるようになった。
「私の平穏なスローライフは、一体どこ…」
私の嘆きとは裏腹に、アルカディア王国の国力と技術力、そして私の神格化は、もはや誰にも止められないレベルに達していた。そしてその噂は、虎視眈々とアルカディアを狙う隣国、アークトゥルス神聖帝国の耳にも届くことになるのだった。




