4-1 《役職:王宮特別顧問。職務内容:国家規模のやらかし》
アカデミーでの一連の騒動・・ゴホンもとい、私の功績により、私は「アカデミーに置いておくには規格外すぎる」という、至極真っ当な理由で卒業(という名の強制退去)を命じられた。そして、国王陛下直々に、前例のない役職を与えられることになった。
その名も、『王宮特別顧問・賢者アキ』。
「アキ殿には、その類稀なる知識と魔法で、王国の発展に尽力していただきたい。予算も人員も、可能な限り融通しよう」
「えー、面倒くさいのはちょっと…。でも、顧問専用の厨房とか、おやつ食べ放題とか付きます?」
「…つけよう。国一番の料理人を」
《相変わらず厄介なポンコツですね。ちなみに役職を辞退した場合、あなたの存在そのものが国家機密兼戦略兵器と見なされ、地下深くの施設に厳重に幽閉される確率が92.8%でした。賢明な判断です》
「危なかったわね!美味しいご飯のためなら仕方ないわ!」
《あなたの行動原理が食欲で統一されている点は、ある意味で非常に扱いやすいと各方面で評価されています》
こうして、私の王宮ライフが始まった。セレスティアが私の補佐役(という名のお目付け役)となり、専用の研究室まで与えられた。しかし、与えられた最初の仕事は、山積みの陳情書に目を通すことだった。
「うーん、干ばつ被害、街道整備の遅れ、隣国との情報戦…。どれもこれも地味で時間がかかりそうね」
私が書類の山を前にうんざりしていると、セレスティアが疲れた顔で入ってきた。
「アキ…、北方の領主からやっと返事が来たわ。手紙を送ってから、もう三週間も経ってしまった…」
その言葉に、私はピーンと来た。
「セレスティア、この世界って、もしかしてスマホないの?」
「すまほ…?とは、何かしら?」
《晶、文明レベルが違いすぎます。彼女たちの通信手段は、手紙か伝書鳩、あるいは高位の魔法使いによる限定的な『遠話』のみです》
「ありえない!じゃあ、セレスティアが実家に帰ったりしたら、三週間もおしゃべりできないってこと!? 無理! 絶対に無理!」
《公的な問題より先に、個人的なコミュニケーションの不備を嘆くとは、さすがです》
「ちょっと待ってて」 私はそう言うと、手のひらに魔力を集中させる。きらめく光が収束し、手のひらには手のひらサイズの滑らかな水晶玉が二つ錬成されていた。私はその一つを、呆然とするセレスティアの手に握らせた。
「はい、これ持ってて。じゃあいくよ?——もしもし、セレスティア? こちらアキ。聞こえますか?」
私が手元の水晶玉に話しかけると、セレスティアの手の中の水晶玉が淡く光り、私の声がクリアに響き渡った。それだけではない。水晶玉の上には、私の顔が小さなホログラムとして立体的に浮かび上がっている。
「なっ…!?」
「きゃっ、アキの声が聞こえるわ!それに、姿まで…!」
セレスティアが驚きに目を見開く。周囲で作業をしていた文官たちが
「な、なんだその魔道具は!?」
「肖像画が喋っておるぞ!」と椅子から転げ落ちた。
「アキ殿!!」
部屋の奥から、今まで静観していた国王陛下が、目を輝かせて駆け寄ってきた。
「その魔道具…『魔晶球』とでも名付けようか。それを、この国の全ての役人や騎士に持たせることは可能か!? これがあれば、我が国の情報伝達速度は飛躍的に向上する! まさに革命だ!」
国王の興奮ぶりに、私は少し面倒くさそうに答えた。
「えー、全員に? うーん、まあ、できないことはないけど…。どうせなら、もっとすごいの作る?」
「「「もっとすごいの!?」」」 国王と側近たちの声がハモった。
「よし決めたわ!私が、この国に通信革命を起こしてあげる!目指せ、魔力光ファイバーによる超高速通信網、『オーブ・ネットワーク』の構築よ!これがあれば、動画も見放題だし、セレスティアといつでもおしゃべりできるしね!」
私の脳内では、ウルちゃんが設計した壮大な計画が、すでに立ち上がっていた。アカデミーでの時間停止騒ぎで得た精密な空間座標データが、今こそ火を噴く時だ。
《役職:王宮特別顧問。職務内容:国家規模のやらかし。個人的な寂しさを解消するためのプロトタイプ制作が、国王への完璧なプレゼンテーションとなり、即日で国家プロジェクトの承認を取り付けました。素晴らしい営業手腕が火を噴きましたですね》
「誰がやらかしよ!」
私の叫びは、世界を根底から作り変える、新たな神災の序曲となった。




