3-3 《お待ちください、その『ついで』という感覚が理解不能です!》☆
畏怖と、ほんの少しの感謝。私の評判は、早くも複雑な様相を呈し始めていた。
そして、その日の夜。
私は自室に戻ると、改めてウルちゃんに尋ねた。
「ウルちゃん、このアカデミー…というか、王城全体の防衛システムってどうなってるの?」
《旧世代の魔法結界と、物理的な壁が中心です。セキュリティの脆弱性は…》
ウルちゃんが羅列するA4換算で10,000枚程度のお城の写真付き、概要・詳細データに、私は軽く眉を顰めた。
「なるほど。この丸裸になったお城は、防御面でかなりユルいと。これじゃあ、いつ他国に攻め込まれてもおかしくないわね。それになんか読書するのに照度が低いのよね。暗いの。」
私は王都の地図と、王城の設計図を脳内で呼び出した。
「よし。ついでだから、この際、王城全体を魔改造してしまいましょう。王城改造計画、発動。」
《お待ちください、その『ついで』という感覚が理解不能です!しかも本音はただ読書するのに暗いだけですよね。》
「えへへっ。んー。対空、対地、対潜…あらゆる脅威に対応できる、全自動迎撃システムを組み込む。ついでに、居住性も向上させて、移動も楽にしたいわね」
私は、王城の構造を瞬時に解析し、最適な魔術回路と物理的な強化プランを構築していく。思考速度は限界まで加速し、まるで無限の時間を手に入れたかのように感じられた・・・・。
翌朝、王都の人々は目を疑った。
王城の尖塔は、夜空を貫くかのようにさらに高く伸び、頂上には見たこともない複雑な魔法陣が淡く輝いている。城壁はさらに厚く、しかし同時に優雅な曲線を描くデザインに変わり、要所には巨大な魔力砲台がまるでオブジェのように鎮座していた。城壁の表面には無数の古代ルーン文字が明滅し、城全体が生命を宿したかのように、強大な魔力で静かに脈動している。
「な、なんだあれは…城が、生きているみたいだ…」
兵士たちが騒然とする中、城壁に設置された砲台の一つが静かに動き、遥か上空の雲に向けて一筋の光を放った。光は分厚い雲を綺麗にくり抜き、再び静寂に戻った。
王城の内部もまた、劇的な変貌を遂げていた。
これまで重々しい石段を上り下りしていた兵士や貴族たちは、魔力で駆動する透明なエレベーターや、空間転移ゲートによって瞬時に移動できるようになっていた。玉座の間は、天井に星空が広がり、壁には古代の魔獣が描かれたホログラムが映し出され、訪れる者を圧倒する。
最も驚かれたのは、城の地下に新たに構築された「魔力循環炉」だった。
「これは…!まさか、龍脈の力を完全に制御しているというのか!?」
調査に訪れた王宮筆頭魔術師が、地下で脈打つ巨大な魔力炉を前に絶句した。
この王城は、建国の祖が、この地に眠る強力な龍脈を鎮め、国の礎とするために築いたと言われている。しかし、その力はあまりに強大かつ荒々しく、歴代の王や魔術師たちは、龍脈の力を部分的に利用するか、暴走しないよう封印を施すのが精一杯だった。その莫大なエネルギーを完全に制御できた者など、歴史上誰一人としていなかったのだ。
それを、この謎のシステムは、いともたやすく成し遂げている。荒れ狂う龍脈のエネルギーを効率的に変換し、王城全体の動力源として供給する、巨大な心臓。歴史的な悲願が、一夜にして、誰にも知られずに達成されていた。
そして、最も重要な事実は、誰も城の改造に気づかず、誰もその痕跡を見つけられなかったことだった。
その頃、私はというと。
「ウルちゃん、王城の空調システムって、夏は涼しく、冬は暖かく、湿度は一定に保てるようにしたんだけど、これでいい?」
《最高の読書環境のためだけに局所的な天候操作を実行した結果、王城の中庭がただいま洪水状態です。 国王陛下の愛した薔薇園が水没しましたが、晶の読書が捗るなら些細な問題ですね?》
「あら、そうなの?まあ、いいわ。読書が捗れば」
王と大臣達、そしてセレスティアは胃を押さえながら駆けつけてくる。
「アキィィィ!これは一体どういうことなのぉぉぉ!」
《ご報告します。晶が一晩で引き起こした天変地異レベルの魔改造により、王城はもはや『城』ではなく『自律型超々弩級要塞』へと変貌しました。 この影響で、近隣諸国の軍事バランスは崩壊し、現在、各国首脳は緊急会議の準備でパニック状態に陥っています。国際問題に発展する可能性、極大です》
「あら、そうなの?それは困ったわね。まあ、いっか」
「困っているのはこっちよ!!」
「まあ、いっかではないわっっ」王が叫ぶ!
「泣かないで私のドール」
「誰がドールですか」《またですか・・・》
「なんじゃとぉー我が娘をドール呼びするな!!」
な、なんとか皆を慰めその場を収めようとするがまあ収まらない・・・・・。てへっ
アカデミーの噴水前では、相変わらず「聖女の泉」に群がる生徒たちがいる。しかし、彼らの視線は、もはや噴水だけではなかった。彼らは、空にそびえ立つ魔改造された王城を、畏敬の念をもって見上げていた。
中には、
「おい、あの城…なんか、脈動してないか?」
「気のせいだろ…でも、なんか、魔力がすげぇ」
と呟く者もいた。
私は一人、空のコップを眺めながら呟いた。
「…王城、ちょっとやりすぎちゃったかしら?まあ、読書できるし、いいよね」
《読書環境を構築するためだけに、国家間の軍事バランスを崩壊させうる要塞を個人で創り上げるその思考回路は理解不能ですが、結果としてあなたの評価は『ヤバい女』から『触れてはならない軍神クラスの女』へとクラスチェンジしました。 畏怖と恐怖の割合が異次元レベルです。お見合い話がくる可能性はゼロの世界です。おめでとうございます?》
畏怖と、畏敬、そして圧倒的な恐怖。私の評判は、もはや複雑という言葉では片付けられない、異次元の様相を呈し始めていた。




