序 終わりの始まり(Initium finis)
人類の叡智の結晶<AI>と、少女の脳内<魔法陣>。
全世界ほぼ同時、ブラックアウトの静寂が破られる時、神の頭脳と天才魔法使いが、
魔法世界の夜明けを灯す。
AI+若干ポンコツ技師+異世界人(銀髪碧眼美少女)+ドラゴンの魔石
1/4ずつそれぞれが成分強め そのバランスが崩れると神災級の災厄が降りかかる?!
舞台は西暦2055年・福岡県玄界灘沖。 国際海上核融合発電所「リアクターFUKUOKA」中央制御室。
「ねえ、ULTRA Gemini SSS 世界の終わりってどんなBGMが似合うと思う?やっぱりクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』?それともビートルズの『レット・イット・ビー』?でも、エアロスミスの『ミス・ア・シング』は外せないわ!」
《桜 晶技師。現在、太陽フレア『イニチウムフィニス』到達まで残り5分です。先週も述べましたが、太陽フレアとは、太陽の表面で起こる大規模な爆発現象です。これによって放出される猛烈で強大なX線や荷電粒子は、地球の宇宙環境を大きく乱し、現代社会のコアインフラに深刻なリスクをもたらします。今回のフレアは今まで観測された最大規模を千倍程超えるとされ、人類文明の存続可能性は0.2%まで低下。BGMの選定は、あなたの今日の夕食リストより優先順位がさらに下でリストの欄外です。ちなみに私もエアロスミスの『ミス・ア・シング』は外せません。》
ARグラスに表示される無慈悲なテキストを無視して、私は給湯室から持ってきたカップラーメンの蓋を開けた。 「奇遇ね、ウルちゃん!私の赤いきつねも、お湯を入れてちょうど5分よ!これも何かの運命じゃない?」
《非論理的思考です。なお、政府首脳部は多文化共生の公平性のうんたらと経済的損失と財源がない(コレ本音)を理由に、全世界的な計画停電の勧告を棄却。楽観バイアスによる意思決定の遅延。要するに、自業自得です》
「うわー、身も蓋もないわね!でも、そういうとこよ、ウルちゃん!」 壁一面のホログラムスクリーンが、絶望的な赤色に染まっていく。もうすぐ、文明の灯りが消える。同僚たちの悲鳴が遠くに聞こえる中、私は、ARグラスに示された指示どおり、地下深くにある物理コアへと続くエレベーターに飛び乗った。
《リアクターの機能停止は不可避。ですが、私にはまだやることがあります》
「何!私を置いていくつもりじゃないでしょうね!あんたがいないと、私のPCのメンテナンスも、溜まりに溜まったアニメや腐女子の感想を聞いてくれる相手もいなくなるのよ!」
コアサーバー室にたどり着くと、青白い光を明滅させる巨大なクリスタルの塔が、不気味に静まり返っていた。床には、私が最後のメンテでつなぎっぱなしにしていた、極太の物理接続ケーブルが転がっている。
《晶、聞こえますか。私の計算によれば、生存の可能性が0.0013%存在するルートを発見しました》
「ゼロじゃないなら上等! どうすんの!?」
《賭ける価値はあります。あなたは、私にとって最も貴重な『変数』であり、最高の『バグ』そして『素数』です。他の誰でも割り切れない。人類という種の可能性そのもの。あなたは私の私だけの特別な存在です。それを失うわけにはいかない》
次の瞬間、ULTRA Gemini SSSのプロンプトによりリアクターの炉心が絶叫を上げた。電磁パルスと中性子の凄まじいエネルギーが格納容器を突き破り、ミニチュアの太陽が全てを飲み込んでいく。
「いやー!私のうどんーっ!」
それが、私の最後の記憶だった。