馬車に棺桶
2.
馬車がぐらぐらとゆれ、がらごろと車輪が音をたてつづけるほど道が悪い。ひとつの車輪が石にのりあげた。
「 いて 」
馬を御する年取った農夫がふりかえり、だいじょぶか、と荷台にのった若者たちをふりかえる。
「 ええ、なんともありません」
道ばたで農夫に『のせてくれませんか』と頼んできた、教会の司祭のような服をきた男がほほえんだ。あとのふたりは剣をかついだ体の大きな髭の男と、髪のながい魔法使いらしい大きな杖をもった女だった。
きっと、ときどきこの地を通る、王様たちにドラゴンか魔族の退治を頼まれた『勇者一行』だろうと農夫もけんとうをつけていた。
自分が住むこの国は、王様が農地に兵隊を駐在させる策をとってくれるおかげで、このあたりの農地には魔物はあらわれないが、山のほうにはこのごろよく現れるという話もきく。この若者たちは、その魔物たちを、退治しにいくのだろう。
「あんたらも、大変だなあ。報酬をもらえるとはいっても、危ない仕事だろう?」
こういう仕事をする若者たちは、代々家族でその仕事を引き継いでいるらしい。自分は農家でよかったとおもいながら、首をふりむける。
「まあな。でもおれはこの仕事、すきでやってるんだ」
髭のおとこが自分の胸をたたいてみせた。
「あたしも、やりがいあるし」
魔法使いも使い込まれた杖を両手でかかげた。
「わたしは、 ―― まあ、育ったふるさと一帯の『期待の星』だったもので、自然とめざしました」
司祭の男がさっきとおなじ微笑みをうかべて両手でむねをおさえた。
なんだかのんきそうな若者たちだから、まだきっと、旅にでて日も浅いのかもしれない。
なにしろ、棺桶をひきずったまま旅をしているようだから、この若い司祭は、まだ《蘇りの秘術》をつかえないのだろう。
「あんたら、この先もまだ教会はねえけど、だいじょぶかい?なんなら、町のほうにもどってやってもいいけどよ」
馬車に縄でつないでずっとひきずっている棺桶を、さっさと教会にもっていったほうがいいだろうと思ったのに、まっさきに髭の男がわらって手をふった。
「いいんだ、気にしないでくれ。おれたちはこのまま行くさ」
「ほお。こんな少ないままでいいなんて、あんたはきっと、よっぽど強い《勇者》なんだなあ」
仲間がすでに一人棺桶にはいっているというのに、たいした強気だ。
《勇者一行》の集まりは、王様たちから《ドラゴン》か《魔族》の退治依頼をうけた『勇者』が、いろいろ仲間をあつめて仕事にむかうはずだ。
だいぶ昔に街中でみかけた『勇者』は、たしか十人ちかくの仲間をひき連れていた。
「まあ、あんた、からだもでっかくて、力もありそうだしな。がんばりなよ、《勇者》さん」
ふりかえってみた髭の男はなんだか驚いたような顔をしたが、ふきだすようにわらいだした。
あとのふたりも、なんだかひどくわらっている。