めんどうなので、はっきりと
消えたんだ、とガットがいやなものをみるようにしかめた顔で、腕をみている。
「 血もださないし、切り口がすぐふさがる。自分が死んでるのに『どうして動くのかよくわからないけど、ドラゴン退治はこのまま行こう』とかいいやがる。 おれは、死んだおまえが《魔族》にあやつられてるのかと思って油断しないようにずっとようすをみてたけど、あいかわらず腕力も魔力もねえし、色白だったのがもっと白くなってるぐらいで、なんのかわりもねえんだよ。そのかわり、」
「一晩ねると、自分が死んでることを忘れるみたいですね。まあ、ねてるときにきみがうなされるのはまえからあることですけど、うなされかたはまえよりひどい。 ―― この四日目にして、しょうじきわたしたちも、毎朝『きみは死んでるんだよ』っていう説明からはじめるおなじやりとりが、めんどうになっています」
「あ、それで、さっき『めんどう』って」
「ガットもラーラも、毎朝なにも覚えていないきみに気をつかうのもいいかげんうんざりでしょうから、きみにはもうしわけありませんが、 ―― ここでもう、はっきりさせましょう」
「え?はっきりって・・・」
「わるいな。リミザ」
ガットの片手がこちらの首をつかみあげた。
「ごめんね。リミザ」
ラーラが魔法で腕と足をしばりあげる。
「悪く思わないでください、リミザ。 ―― こうするのが、いちばんなのですから」
ラフィーが、いつものつくりわらいの顔をうわむけ、《黒い聖書》をとりだした。
『神』の力をかり、賢者は祈る。
まるで、あのドラゴンがはなっていた光のようなまぶしいものがリミザをつつみこんでゆく。
「 み んな ・・・ ごめ ん 」
いままでのことをおもいだしながら口にしたリミザのくちもとは、ほほえんだままだった。