起き上がった死人
「 いや、こんなふうに言うと、ほうっておいたみたいだが、いまのがほんのちょっとの間で起こったんだ。おまえ、ここんとこ病気になってなかったし、食欲もあったみたいだし、ラフィーに薬もつくってもらってなかったろ?だからさ、苦しんでてもとりあえずラフィーも回復の呪文唱えるくらしいしかできなくて、風呂にいってたラーラを呼びに行く前に、死んじまったんだって」
「そこでわたしが『蘇りの秘術』をほどこしてみたのですが、それはやっぱり無駄でした」
ラフィーが棒読みのようにつけたした。
「『むだ』?」
「ええ。なにしろわたしたち《賢者》のつかうそれは、『神』に『邪悪なるものたちによって命をうばわれしものを蘇りさせたまえ』と祈る、魔物と戦う《勇者一行》のための術ですからね。ほかの理由で死んだ者には、まあ、きかないはずです」
「ええ?そういうこと?・・・いや、うん、よくかんがえたら、そうだよなあ」
「で、よんできたラーラもびっくりして、いくつか魔法を試したり、薬も飲まそうかとしたんだけど、やっぱおまえが死んだままだったから、おれたちのパーティーもここまでだなってはなしになって、《王様連盟》に知らせようとおもったら、とつぜん、生き返ったんだ。いや、これだとややこしいな。 ―― おまえが、『起き上がった』んだ」
髭をかくガットの説明に、ラーラが、そうよそれ、と手をうちあわせた。
「ガット、その表現、ほんとぴったりだわ。あたしたちが、宿屋の人にたのんで、村の教会に棺桶を用意してもらおうとしてたら、とつぜん、ベッドのあんたが起き上がって、『ランプ消したかな?』とか言って、また、ばったり倒れたの。で、もういちどみんなでおそるおそる確認したら、やっぱりちゃんと死んでた。それなのに、」
「つぎの日の朝、きみはまた起き上がって、動き出したんですよ・・・」
ラフィーが眉間を指でつつきながら目をとじた。
「・・・信じられないことだけど、きみはしっかり死んだままでした。そのくせ、しゃべり、食事もして、おまけにいつものように、食べ終わってからすぐ腹が痛いとトイレにはしっていった・・・。わたしたちは黙ってきみのようすを見守っていましたが、宿をでてしばらくいったところでガットががまんできなくなって、きみの腕を軽く切りました。そうしたらきみは血もながさず、『痛い』ともいわず、なにするんだ、と言いましたよ。 ・・・これらのなにか、おぼえてますか?」
「いや、・・・いわれてみれば、なんとなく、そんなこともあったような・・・」
両腕をよくみてみると、右腕の袖がきれているところがあった。まくってみたが、腕に傷跡はない。