見るめがある
だが、こちらもすんなりひきさがるわけにもいかない。
ガットは、汗ばんできた両手をあわせた。
「・・・・おれたちのパーティーの《勇者》が、どうして《リビングデッド》の状態で強くなってるのか、あんたなら予想はつくだろ?」
「なんとなくな。《黒魔術》の作用での状態が続いてるわけだから、 ―― 《魔族》としての『力』が強くなっていってるんだな?」
やはり、酒場での騒動をきいてこの兵長はわかっていたらしい。
「そうなんだ。おれたちは、・・・リミザのこの状態をまったく予想してなかったし、・・・この状態の原因もわかってないんだ・・・」こういう相手に嘘をつくのは得策ではない。だからといって、すべてを伝えれば、お互いの立場があやうくなる。
アントンはガットから目をはなさない。
ガットもアントンから目をはなさない。
「・・・つまり、じぶんのパーティーの《勇者》に、これ以上『力』をつよめてほしくねえんだな?」
それはつまり、《魔族》寄りになるということだから。
お互いわかっているその状況をくちにしないまま、ふたりは目を合わせ続けた。
「 ・・・わかった。おれは《黒魔術》についてはよくわからねえが、仲間をおもう気持ちはわかる。ここまでずっといっしょに戦ってきたんだもんな。あんなちいせえ《勇者》はいままでみたことねえが、パーティーをくんだのはいつだ?どの国からだ?」
「おれは《乾いた土地》と《谷川の土地》で傭兵をしてたんだが、まあ、縁があって《戦士》として声をかけられたのが、二年半ぐらい前だな。リミザは《崖の土地》出身だ」
「ああ、あの海際の土地か。あっちからドラゴン退治を受けてくる勇者なんてあんまいねえよなあ。『シードラゴン』とか、『リヴァイアサン』だとかの退治依頼のほうが近くて受けやすいだろう」
それらの海にいる魔獣たちの退治をリミザがうけなかったのは、彼が泳げないからだ。
ガットのこのこたえに、アントンはテーブルをたたいて大笑いした。
「なんだよ、おもしれえなあ。おまえんとこの《勇者》、ほんとに《勇者》一族かあ?」
「ああ。リミザは養子ってことだが、代々続いてる家系だって確認されたから、この《ドラゴン退治》にも登録できたんだしな」
「そっか、まあ、そうだな。『王様連盟』案件だもんなあ。・・・それにしても、あんなちいせえ坊主によく、『白銀のドラゴン』の退治依頼がいったよなあ」
「それだけ、『白銀のドラゴン退治』を受ける勇者が少ないってことだ。それなのに、この国の最終審査で落とすことが多いんで、さらに依頼を受けるパーティーが減って、リミザにまわったんだろ」
「まあ、それあるだろうなあ・・・。ムシールに変わってから、コルックには勇者たちを審査に通そうって気がまるでみえねえ。そりゃ、カシールさまに戻ってほしい気持ちはわかるが、タルトンにも、っと・・・、 ―― さてはおまえら、知ってるんだな?」
「牢獄につなぐか?」
ガットの問い返しに、アントンはうれしそうにわらった。
「だとしたら、秘密をもらした罪でタルトンもいっしょにぶちこまねえとな。あのぼうず、おれがむかしムシールをしごいてたときには、泣きそうな顔でいっつも柱の陰からのぞいてたくせに、ここにつれてこられて王の代理をするって宣言したとき、おれたちのことをにやみやがった。まるで、ムシール王子が行方不明なのも王が倒れたのも、おれたちのせいだろうっていう顔でな。 ―― 味方になってやってくれよ。あいつが信用できるのはいま、カレンしかいねえが、おれは、カレンも信用してねえ」
「・・・だからって、おれたちみたいなよそ者を信用してるわけでもないだろ?」
「タルトンだってよそ者みたいなもんだろ。だから、コルックたちはあいつを相手にしてねえんだ。おれは、仲間の兵士とタルトンいがいは、信用してねえが、仲間を守ろうとしてるおまえらの態度は信用できるとおもってる」
ゆびをさされたガットはおもわず安堵の息をついた。
「よかった。あんたを敵にまわさずにすんで、おれは運がいい」
アントンは刺青をたたいてまたわらう。
「運がいいんじゃねえさ。おまえさんに人を見る目があるってだけだ」
ほめられ慣れていないガットは、くちをもごもごさせて赤くなるしかなかった。




