災難
「 ―― ガット・サラマンドラ・ブラウンだ。あんた、ずいぶん若いときから傭兵をしてるんだな」ガットは、じぶんより十歳は上だとわかったアントンに自分も手をひろげてみせてから、むこうの手とたたきあわせた。
「 ま、得意なのがそれしかなかったんでな。それに、『知ってる』っていっても、砂漠の魔物を連合隊でみまわりにいったときの隊長が『サラマンドラの戦士』だったんで、一回見ただけだ。あれ、あんたの親父さんだろ?」
「たぶんな」
「 ―― 残念だな。火事で死んだってほんとうか?」
「ああ」
「それで、王室付きの戦士じゃなくなったって?」
「ああ。魔物に屋敷を襲われて火事になったんだから、魔物に殺されたって言うのも同然だろ。王室付きの『戦士』のままじゃいられるわけないさ」
「そうかあ?おれはそうは思わねえけどな。・・・にしても・・・、次の『サラマンドラの戦士』は、たしかおれと同い年くらいの男だと思ってたんだが・・・、あんた、おれより若いよな?」
「兄貴の代わりにおれが継ぐことになった」
「あ・・・親父さんも兄貴もなくしたのか、そりゃ、災難だったな・・・」
悪いことをきいたかのような顔で頬をかく。
「・・・それと、酒場でうちの騎兵がへんにからんで悪かったな。《賢者》に唾吐きかけたって?ちょっと酒癖がわるいやつで、まわりのやつに注意するよう言ってあるんだが、その、指輪をみたほかのやつらも、止めに入らずにいっしょにヤジをとばしてたってのが、おれはきにいらねえ。おれは普段、兵士の心構えがどうとかってのには、いっさいくちをださずに自由にやらせてるんだが、『妬み』っていう感情だけは、兵士にいらねえもんだと思ってんだ。相手を妬むひまがあんなら、そいつの上をいくよう鍛錬すりゃいい。『妬み』の感情は魔族がいちばん手をつけやすい心の隙だ。連隊で作戦をたてていても、その心の隙を見抜かれて操られた兵士から作戦がくずれることがあるぐらいだ。 だから、今回のことも小隊長から報告をうけて、おれがじかに騎兵隊をしごきなおして終わらせたはずだったんだが、 ―― どうやら騎兵隊の中に、エイジェスにはなしをもらした奴がいるらしいな」気にいらないように自分の頬をたたいた。
どうやらカレンのほかの大臣格すべてが《王様部隊》としてまとまっているわけではなさそうだ。兵士が自分のしらないところで司祭に近しくなるのをこの兵長は喜んでいない。




