研究魂
「ここの王様付きの魔法使いは、まえからあのカレンなのですか?」あれだけ大臣や司祭と溝があって、いままで平気だったのだろうか?
「まえはいなかった。カレンはカシール王が王子だったころ、旅先で助けてもらったといって連れ帰った魔法使いです。《ノース》に属する魔法族で、家柄はそれほどでもありませんが、たしかに『魔力』はすごいものです。きっと幼いころから修行したのでしょうな。研究所でもなんどか知恵もかりたことがありますが、コルックが、研究所と王様付きの魔法使いが近くなるのはよくない、なんていうので、表立って力をかりるのは控えております。カレンもそれをわかっているので、研究所にはめったに来ません」
「それで、王様の病気は、ほんとのところどうなんです?研究所でも原因がわからないとか、そんなことってあります?」ちょっと怒ったような口調になってしまったのは、それだけラーラが魔法術にたいして誇りをもっているからだ。
う~ん、とドウドは長いひげを抱き込むように腕をくんだ。
「問題はそこでして。人間の病の元になっていることがわたしたちにわからないなんて、いままでなかったことでねえ・・・」
「カレンが魔族の呪いじゃないかっていったんでしょう?」
「わたしもね、じつはそっちの方面からたどったほうがいいんじゃないかって思ってるのですよ。なにしろ、王様はたしかに倒れて動けないししゃべれないんだけれど、意識はしっかりしている。わたしが毎日診にいくと、いつも力強い眼で見返してくる。まるで怒ってるみたいな視線だ。そりゃ怒りたくもなるかもしれん。脈も呼吸も体温もすべて正常なのに、指先すら動かせず、くちを何度もあけてみせるが、声がだせない。その原因が、いまだにわたしでもつきとめられないんだから」
「でも、エイジェスが魔族の呪い説を蹴ったって」
「そう、あの男はカレンの意見がいつも気にいらない。まあ、おわかりの通りカレン自体が気にいらない、という理由ですな。じぶんよりとしうえなのに、シワがひとつもないカレンの顔がきにいらにのかもしれないな。司祭のくせに、『生けるものすべてを平等に』みるということができないらしい。わたしが司祭なら、あの教会にある文献に片っ端からあたって、かんけいありそうな聖魔術をすべて試すでしょう」ドウドも怒っているような目を、ラーラにむけた。
「ドウドさま、こちらの研究所には、この国秘蔵の文献もありますか?」
「そりゃ、もちろん、・・・あの、あなたのパーティーの《リビングデッド勇者》ですな?わかっております。あんな不思議な者をそばで見ていて、魔法族としての研究魂がうずかないはずはない。できれば、わたしも彼の研究がしたいくらいです。もちろん、わたしもすでにこの国にあるすべての本にあたってみましたが、《リビングデッド》の状態で旅をするどころか、長時間その状態を保った者のきろくなんてどこにもなかった。つまり、彼がはじめての研究材料となるんです。ここにいる間に、ぜひ、わが研究所に協力していただきたい。《リビングデッド》の《黒魔術》をかけたという賢者にも協力していただきたいですな。ああ、エイジェスのことは気になさらないでいい。わが研究所は王国付きとはいえ、魔法族と人間の協定のうえにつくられたものだ。たかが大臣や司祭のひとことで研究をとめるわけもない」
ドウドは誇らしげに胸をはってみせた。
「ドウドさま、わたしもここにいる間、研究をお手伝いしたいのですが」
「もちろん。あなたのパーティーなら白銀のドラゴンを倒せるかもしれないというカレンのあの発言、わたしもありえるかもしれないとかんじておりますからな」
この、過度な期待には、ラーラは開きたいくちをぐっと閉じ、小さいころから身に着けた控えめな笑顔だけででこたえることにしておいた。




