後継者
「え?じゃあ、ずっと城にもいなかったの?」
リミザのあっけにとられたように問いに、王様はきまずそうに肩をすくめた。
「そういうことなんだ。まあ、自分から出て行ったんだからしかたがないけど、いままでは月に一度、王様のご機嫌うかがいで城に来てただけのわたしが、急に代理をしなくちゃならなくなって、わたしより大臣たちの方が大変だったかもね。最初はそれこそ、言われた通りにしていただけなんだけど、そのときから魔法使いのカレンだけが、わたしのほんとうの意見をきいてくれたりしてね」
「でも、ほかの大臣たちはそれがイヤなんだろう?だいたいさ、王様の教育をうけた兄さんはどうしちゃったんだよ?」
リミザがもっともなことをのんきにきくと、《ムシール王》は指をたて、シっ、とあたりをうかがった。王様の部屋でお茶の用意をした使用人たちは、もうとっくにひきあげている。
「あのねえ、きみたちだから話したんだけど、わたしが第二王子だということは大臣たちしかしらないことなんだ。うかつに口にしてそれを城のなかできかれたら、きみたち牢屋にはいることになるから気をつけてね」
「『気をつけなきゃならない』ようなはなしを、どーしてあたしらにしやがった? ―― いい?このリミザはね、今、何をくちにするのかあたしたちでも予測できなくて、毎日がドキドキなのに、さらによけいなことをふきこんでくれたわね?」
ラーラが焦げた杖の先を王様の額に狙い定める。
「待ってください」
ラフィーはラーラではなく、王様のほうをむいていた。
「『大臣たちしかしらない』って・・・いくらなんでもそれは無理でしょう?元の王子と違うのは、ひとめみればわかるんですから」さきほどお茶の準備をした使用人たちはみんな王子に礼をしてさがっていったではないか。
「ああ、だってみかけはいっしょだからねえ。わたしら、『双子』なんだよ」
「へえ、そうなんだ」
納得したような声をあげたのはリミザだけだった。
「・・・なんか、珍しいな。双子だと、たいてい片方を遠くの寺院に出して、双子だったことじたい、なかったことにする国が多いだろう」ガットは髭をひっぱりながら、あらためてムシール王をながめた。
あとを継ぐ者が同時に二人いれば、国内の紛争につながることが多いため、たいていの国ではそういうことをしてきたはずだ。大昔には双子のどちらかを殺していた国もあるときいたこともある。ラフィーとラーラもこのさきをきくべきかどうかまよったような顔をみあわせている。
まさかとおもうが、この国の後継者争いに巻き込まれはじめているのだろうか?




