愚痴と期待
7.
「 ―― まあ、そういうわけで、わたしとしてはきみたちにここの審査を通ってもらって、クチコミで『新しい王様しっかり審査してくれた』とか『うわさよりぜんぜんよかった』とかの、いいクチコミをひろめてもらいたいわけなのだよ。 やっぱりさ、『新しく』なったってだけで、前とくらべられちゃうだろ?だけど、そこで父と比べられても、しょうじきわたしとしては困る話でね。大臣たちはみんなわたしを重くみていないし、それぞれ個性も強いし。まとまりがないっていうのかなあ。きみたちもみていてわかったろう?とくにエイジェスとコルックはカレンのことを嫌ってるみたいで、あの二人だけで決めてことをすすめようとするのが多くてね。わたしも決まったことをさいごに聞かされるとかいうことが多くて、こまってるんだよ」
なげきながら椅子にあぐらをかくムシール王は、お茶のカップに砂糖をつぎつぎとたし、それをながめるラーラの眉間のしわに気づくと、砂糖壺のスプーンでお茶をかきまわした。
細長いテーブル奥の先端に王様が座り、むかいあっておかれた四つの椅子に勇者一行はこしかけている。王様から直々に《お茶》に誘われ、ようすをうかがいながら揃ってでてきたのだが、部屋には王様しかいなかったので、とりあえず力を抜いて座ることができた。
「 ―― それってつまり、王様ぬきでいろいろすすめられてるってことなんだよね?」
リミザが困り顔の王様にいつもののんきさで聞き、「仕事しなくていいなら楽でいいじゃん」とのんきにわらった。
「よくないですよ。代理とはいえ、いちおう王様はいるんですから、大臣であろうとだれであろうと、その『代理』の王様にうかがいをたててから、ものごとをすすめないと」
ラフィーがむかいのリミザに説明するが、ちょっとトゲがある。
「そうよ。いくらたよりない『代理』だからって、王様をのけものにするんじゃ、国として機能してないわよ」
ガットのむかいのラーラがムシール王の肩をもつように力むが、すこし問題ある言葉がはさまった。
ガットはここで王様代理の肩をもつべきかまよったが、極甘にしたてたお茶をうまそうに飲む若者は、ちょっとだけ額にしわをよせ困ったような顔をしているだけで、賢者と魔法使いの発言に対しての反応もないので、やめておいた。
さらに王様は砂糖を三杯ほどたしながら、「そうなんだよ」とこまったようにうなずき、「のけものなんだ」とあっさり認めた。
「・・・いやいや、そういうわけじゃねえだろ。あんた、こうなってなくても、つぎの王様なんだし・・・」
さすがに『可哀そう』が勝ったガットはおもわずたちあがる。
お茶によばれて入ったのはなんと王様の自室で、続き部屋にすえられたお茶会用のテーブルには、甘い匂いがする菓子がのった皿がいくつも置かれ、お茶用のポットと華奢なカップも用意されていた。すぐに奥の部屋からでてきた若い王様が席についてはじまったのが、《現時点における自分の立場とひろまっている噂について》の愚痴。そして、このパーティーに彼が期待しているのは、新しい王様に対しての新しい(「すごくいいよ!」)評価だった。




