それ、おれです
王のこたえにうなずいた司祭は、あきらかにラフィーのほうをむいた。
「 ―― なんでも、騎兵隊のひとりがこのあたりでみかけない者にケンカをしかけたらしいのですが、あいてがひどく禍々しい魔術を返してきたとか」
「なんだよ、エイジェス、それについちゃ、もうはなしは終わってるだろ?」
『王様部隊』の中で見るからに兵士あがりだと思えるからだの大きな男が、うんざりだというように肩をすくめた。この国での役職の名はしらないが、あれが兵隊長だろうとガットは認識した。
司祭はその男に片手をあげてみせ、はなしを続ける。
「その魔術の『禍々しさ』は、まるで魔族のはなつ魔術のような気配だったときいております。 ―― そういえば、ラフィー・ゴンダッド、きみは『あの』ゴンダッドの弟子のひとりですよね。《黒魔術》にも慣れ親しんでいるはずですが、まさか酒場でつかったりしていませんよね?」
「いいえ。わたくしはつかっておりません」
こたえたラフィーは、エイジェスをにらんでいた。
なるほど。この二人、いわくつきの『知り合い』ってわけか。
ガットは髭をひっぱりながら、さて、リミザの状態をどうきりだすか、と考えた。
ラフィーは自分の魔術の失敗だと申告するといったが、この空気ではとても無理だろう。ラーラもラフィーの感情をむきだしの表情に気づき、ガットの脇腹をつついてくる。
「あ~、ごめん、それ、おれです」
いきなり、いつもののんきさでリミザが謝った。
ガットとラーラは思わずそろってリミザをにらんだ。
事前会議でリミザが提案した案は、きっとよけいなこともくちにするだろう《新しいリミザ》の存在を無視できないので、却下されたのだ。あれだけ、きかれたことにだけこたえろ、と念押ししたのに、自分から手をあげやがった。
リミザは、やさしい笑顔をはりつけてラフィーをみているエイジェスにむきなおると、あげた手のゆびを一本立てて、その《笑顔》をゆびさした。
「そのひと、『黒魔術』を魔族との戦闘いがいでつかっちゃいけないって、しらないんじゃないの?もしくは黒魔術に偏見あるのかな? でもさあ、黒魔術のおかげで人間たちがここまで魔族とわたりあえてるんだし、むかしたくさんいた力の強い魔族なんて、たいてい黒魔術系の必殺技じゃないと倒せなかったんだし、いまでも強敵には勇者パーティーって、黒魔術系、つかうよね? だいたいさあ、酒場で《勇者パーティー》にからんでくる騎兵隊ってどうよ?おれたちとしては、事を荒立てたくないと思ってたんだけど、そっちがそんなかんじでくるんなら、ま、 べつに、いいけどさあ。 ―― おれたちは、ここでこの《凶悪狂暴ドラゴン退治パーティー》解散ってことでも」
さいごは、王様をふりかえり、口の片側だけでリミザはわらう。




