問題の中心
「 ・・・り、ミザ・・・それ、じぶんで、出したってことですか・・・?」
ラフィーが浮かんだリミザを見上げ、めまいにたえるように、窓枠にもたれた。
「いや、ハネは勝手に生えてきてた。ってかんじかなあ。でも気づいてからは、ラフィーがいうみたいに自分で出し入れしてるってかんじ。なんかさ、ハネがでてるときって、ほんとうに《魔力》があがってるなあって、自分で感じるんだよね。 ―― だからつい、無礼なヤツをみると、ちょっと脅かしたくなったりするんだ」
くすくすと肩をゆらすわらいかたは、リミザではないものだった。
額にゆびさきをつけたリミザがつづける。
「 ―― つまりさ、『戦闘中に死んだ勇者を《リビングデッド》で生き返らせたら、ただの勇者だったころより戦闘時の魔力がバカ高くなったんで、せっかくだからこのまま凶悪狂暴ドラゴンを退治に行きます』って言えばいいんじゃないかな?ドラゴンを倒したら、この《リビングデッド》の術は解くけど、どうしてここまで魔力があがったのかはよくわからないから、それを調べたいっていえば図書館も研究所も入れてくれるよ。安心していいよ。王宮にはいったら、おれは黒いハネもださないし、へんな魔術もつかわない。おとなしくしてるから」
あぐらをかいたまま空中からゆっくりとベッドにおりたリミザは、《まえのリミザ》とおなじような困った顔をしてわらったが、ラーラーはそれを避けるようにベッドを立つと、うなり声をもらしてリミザのまえに立ったガットのよこへと移動した。
そんな二人をみあげたリミザは、ひどくうれしそうに肩をすくめる。
「すると・・・いまのきみはもう、・・・《まえのリミザ》じゃないのですね?」
ため息のようにラフィーがきくのに、あぐらをかいたリミザはまた困った顔になり、からだを左右にゆらした。
「どうなのかなあ。 ―― でも、『まえ』のおれって、もう死んじゃってるわけだよなあ。で、いまのおれも死んでる。だけど、・・・みんなは、死ぬ前のおれをもとめてるってこと?それ、むずかしいなあ。だっておれ、・・・死ぬ前の記憶、あんまり残ってないからさ」
やっぱりこまったように首をかしげるリミザに、ラーラがいきなりだきついた。
「ごめんね、リミザ。 あたし、やっぱ、どっちでもいいよ。前のでもそうじゃなくっても、リミザだもん。いちばん困ってるの、リミザだもんね」
リミザは顔をふせ、ラーラの抱擁に身をまかせるようにしていたが、殴るのはへらしてほしいんだけど、と顔をあげて注文をつけた。ラーラに抱きしめられているからと言って、照れるでもなく、嫌がるわけでもない。
「これは、まえのリミザだな・・・」
「まいりましたね。リミザ自身がまえの自分をはっきり覚えていないので、新しいリミザとの境界が自分ではわからないのでしょう。このぶんでいくと・・・」
「おれたちがよく知る『前のリミザ』はいなくなる、っていうか、どんどん変わっていくってことか・・・」
戦士と賢者のやりとりがきこえた勇者があいまいな笑顔をむけてきた。
「とりあえずさ、王様にあうときに、みんながおれの角とかハネのことさえ黙っててくれたら、どうにかなるよ。みんなで『凶悪狂暴白銀のドラゴン退治パーティー』登録をこのまま守り抜いて、しっかり報酬をもらおうよ。せっかくここまできたんだから、百パーセントの払いでほしいよなあ」
どうやら、問題の中心人物が、『問題』を問題としてとらえていないことが、問題であるということが判明した。




