なんで怒ってる?
床に顔をつけたままだった《勇者》は、ゆっくりと顔をあげると、力をなくしたように顎を床につけてため息をついた。
「あのさ、・・・しょうじき言うと、それには答えられないって言うか、おれ、死ぬ前の記憶、そんなにないんだよなあ。ただ、このパーティーで、戦ったり、歩いたり、焚火囲んだり、っていう場面はちょっとは覚えてるけど、なんかあいまいっていうか、・・・でも、こうやっていっしょにいるのは、楽しい。さっきのラーラが話してくれたおれとの関係とかも、初めて知ったことだから、なんか、楽しい」
わらったその顔は、みんながよくしっているリミザのものだった。
「でも、 ―― ラーラに色目つかったつもりはなかったし、あのときのポーズも、つい自然にでちゃったっていうか、 ―― 」いいながら仰向けにころがったリミザが、勢いをつけて立ち上がった。
からだは縄にしばられたままで。
ガットがまえにでようとするのをラフィーはとめる。それをみながら、リミザは困ったような顔でつけたした。
「ほら、いままでかくしてた部分が出てきちゃってるのかも。 ―― ここにきての、きみたちふたりみたいにさ」
《戦士》と《賢者》へ、にっこりとしてみせるその笑顔と、腹のたつ『いいかた』は、いままでのリミザのものではない。
「 ―― とりあえず、わたしは全力でこいつをねかせてみます」
ラフィーが『黒い聖書』を取り出す。
「そうだな。おれも全力でこいつを棺桶にもどすぜ」
ガットが両手をあわせてひきつった笑顔をみせた。
「ええ!なんで二人とも怒ってるんだよ?おれいまなにかへんなこと言っちゃった?」
「 ―― これは、まえのリミザですね」
「みたいだな。 なんだよ、これじゃあほんとは、リミザがどうなってるのかわかりゃしねえ」
《賢者》と《戦士》が《勇者》の扱いに一瞬とまどったとき、その二人のすき間をまっすぐに突いて出た杖が、リミザの腹にくいこんだ。
「 っゴぶ っ、 」
へんな音をだしたリミザがまえのめりにゆっくり倒れる。
杖をひっこめたラーラが戦った魔族にとどめをさすときの顔でいった。
「これ、もう棺桶に寝かす必要ないでしょ。そんで、 ―― リミザがどうなちゃってるのか、あたしたちでしっかり見極めてやらないとね」
「なんか~、なんでみんな怒ってるんだよ~、痛くないけど、仲間にたいしての暴力ハンタ~イ」
床につっぷしたリミザがなさけない声をあげ、同情したガットに服の背をつかまれて起こされたが、縄はとかれないままだった。




