あの日の衝撃
ガットとラフィーは目だけで会話してから、こっちをみた。
『だってよ、どうする?』
『ええ、こまりましたね』
きっと、こういう会話だったんだと思う。
「うーん、とりあえず、風呂にはいったほうがいいかもな」
「ぼくは、鏡をみることをすすめます」
「は? なに、それ、あたしが臭いってこと?鏡ってなに?おい、こら、」
怒ってるあいだに、二人はさっさと出て行ってしまった。
文句をいいながら隣の部屋にはいり荷物をおろす。
「・・・・あたし・・・くさい・・・かも・・・」
そういえば、リミザが死んでから、お風呂にはいっていないし、からだもふいていない。
魔法で鏡を浮かせて顔をみてみると、しんじられないほど、汚くて暗い顔が見返してきた。
「・・・やだ。肌が死んでる・・・」
触った自分の肌は、それでも暖かかった。このまえ触れたリミザの肌は、ほんとうに冷たかったのをおもいだし、視界がぼやける。
泣く前に、お風呂だ。
だが、からだはさっぱりしていい匂いになったし、顔も血色がもどったし、肌もいい状態にもどしたのに、鏡にうつる顔は、暗い。
どうしたらいいのか、わからない。
魔法族の中でも、ラーラは由緒ある古い家系にうまれ、魔力にもめぐまれ、学校での成績もよく、苦労もないままに卒業し、そのままとある国の王宮につかえる魔法使いとしてえらばれた。そこでの日々は、王宮内での魔法使いによる魔法使いのための歴史と魔術を整理して細分化し、保存するというもので、ひとつの魔術を永年研究し続けたり、論じ合う魔法使いたちがたくさんいて、ラーラも、ラーラのかぞくたちも、そこを魔法使いの最高峰の仕事場とみなしていた。
ところがあるひそこに、なんだか薄汚れた格好をした見かけない男がやってきて、眉をひそめてきいた。
「あいかわらず『魔法研究所』とよぶにはほど遠い古臭さだな。ここにいま、ドラゴンが入ってきて火をふいたら、おまえら、ここを守れるのか?」
そのいきなりな問いかけに、仕事場の責任者である最高齢の魔法使いはわらいながら、そのドラゴンが入ってこないように退治するのがおまえの役目だろう、とこたえた。
じつは質問した男はその責任者の孫で、彼は祖父とはちがう道をえらび、《勇者のパーティーにはいる魔法使い》の道をえらび、毎度、仕事の旅が終わると顔をだし、おなじことをくちにするらしい。
ようは、孫と祖父の、ちょっとしたあそびの『挨拶』なのだ。
だが、ラーラはその言葉に、衝撃をうけた。
あたし・・・、ここを守れない・・・・・。




