保険はおりる
いやいや、まってよ。ほら、ドラゴンは目の前だよ
言ってから、それが声として自分の耳にも届かないことに気づいた。
「おれたちで退治してもいいけどよ。あいつの『勇者のつるぎ』はおれがもってるから。・・・でも、それじゃあアイツの名前、残らねえしなあ・・・」
「うん。ほら、あたしたちは、退治しなくても保険金がおりるからね。とりあえず、・・・いいんじゃない?」
「そうですね。なにしろあのドラゴンも、狂暴凶悪で名高い白銀のドラゴンですし。無駄な戦いはさけましょう。 ―― と、いいたいところですが、 ・・・あのひとの墓前にそえるために、むだに輝くあの銀の鱗でも、はぎっとってみますか?」
もったいぶったように、聖職者は法衣の中から、きたない聖書をとりだした。
いや、ちょっとまて。いま ――
「ちっ、なんだよ、ここでおまえがそういうこと言うか?おれがほんとは言いたかったのによ」
戦士がにやりとして、土をほじっていた剣をそこへ突き刺すと、背中にあった別の剣をつかみだした。
あ、それ、おれの。
「あ、あたしだって、ほんとは、言おうとしたんだからね。そりゃ、『勇者が死んだパーティー保険』はおりるけど、 ―― あの、虚弱勇者のぶんも、ドラゴンにぶつけてやろうかって、思ってたから」
すっと、魔法使いの顔つきがかわり、両手で杖をかまえた。
まてまてまてよ、まってくれ。
・・・『勇者が死んだパーティー保険』?
それってつまり・・・・・。