見たくなかったから
「でも、あれってリミザらしいし、」
「それがダメだっていうんです。 ―― さっき、ガットもいいましたよね?『下僕』っぽくなかったと。 ・・・わたしが黒い聖書で魔族の神に願ったのは『この旅がわたしにとってより良いものとなるよう』という『私欲』で願うもので、そこにおいて、死んだ仲間を使役するため『リビングデッドにする』という《魔術》を選んだわけです。 いいですか、この《黒魔術》は、リミザを生き返らせたわたしが《主》で、生き返ったリミザは《従》という関係の《契約》になるんです。そういう《術》としてなりたっているはずなんです。なのに、・・・指示をきかないとか、意見するなんて、ありえない・・・。『リビングデッド』で動く死人は、その中身の魂はないはずなんです。なのに、あんな、リミザみたいなこというなんて、・・・ありえないはずなんだ。だってそれじゃあ、・・・《契約》がなりたってないみたいじゃないか・・・」
最後はひとりごとのようにつぶやき、ラフィーはいきなりうなだれた。
「・・・だから・・・、もしかしたらわたしの《黒魔術》が、うまくいかなかったのかもしれません・・・もしかしたら、あと数日して、リミザがいきなり腐って倒れるかもしれない・・・」
この《賢者》がいままでみせたことがない『後悔』という感情をはじめてめにしたラーラは、かける言葉がおもいつかない。そういえば、いつもえらそうにしているこの《賢者》は、ガットよりも年下なはずだ。救いをもとめるようにガットをみると、髭をさわるのをやめた《戦士》が困ったような笑顔をうかべ、《賢者》の背中を力強くたたいた。
「それは、まあ、そんときに考えようぜ。魔術がうまくかかってねえっていうなら、そこまでだろ。そしたら今度こそ、リミザを教会につれていって埋めてやりゃあ、すむはなしだ」
ラフィーは顔をあげ、ガットとラーラをみくらべて、まあそうですね、とたちなおった。
「 ―― ほんとうはすでに腐った死体になっていてもいいリミザがいまあのきれいな状態をたもっている、というところは、わたしの魔術のおかげでしょうから、いまのところ目的は果たしているわけですし」
「そうだな。おまえの魔術がすげえのはわかってるが、・・・まさかおまえも、目の前でリミザが腐って死ぬのを見たくないなんて、意外すぎたわ」
「汚いものをみたくなかっただけです」
すっかりいつもの調子をとりもどした《賢者》がそっけなくこたえる。
「まあ、そうか。 ―― 《自分の寿命をけずって》でも、みたくなかったってことだろ?」
ガットがにやけてきいたが、《賢者》は棺桶を縛るためのロープを投げよこしただけだった。




