『かりもの』の魔術
「んう? ・・・『魔族の司祭から』・・・って、ちょっとまって・・・」
ラーラがなにかにおもいあたったように指をたてた。
「・・・え? だって・・・それって・・・なんか・・・あれ?それってよく考えると、魔族の『神』の力をかりることになっちゃわない?」やだ、そんなことないか、とつけたして笑ってみせるが、口元がひきつる。
なにしろ《賢者》の魔術というのは、魔法使いが伝え続けたものを元にして、《聖書》をつかい『神』の力をかりてかけるものなのだ。
その『聖書』が魔族のものだとしたら・・・?
「そういうことです」
ラフィーがいつもの冷静さをもどした顔で断言した。
「え?やだ、なに言ってんの?それじゃあ、まるで、」
「まるでじゃなくて、ほんとうに、《魔族》の《魔術》をつかうんですよ。 それが、わたしたち《賢者》がつかう《黒魔術》の正体です」
「ま・・・ぞくの魔術って・・・いやいや、そんなの簡単につかえないって。あたしら魔法使いだって、簡単にできないんだよ?」
「ですから、・・・いつもあなたが言うじゃないですか。ぼくら『賢者』なんて、《魔法使いがずっと伝え続ける魔法術に教会の『神』のパワーをのっけてかけてるだけだ》って」
「そりゃ、魔法使いが賢者におくるお決まりの悪口っていうか・・・」
「いえ、あたってます」
「はあ?」
「《賢者》がつかう《魔術》は、まさしくその通りなんです。 もともとは魔法使いが司祭になったのが始まりなので、とうぜんといえば当然ですが。《賢者》は、《魔法使い》と同じ術式を土台としてつかいます。それに、司祭の日々で『祈り』としてためた魔力で、『聖書』によって『神』へとつながり、その『神』の力をかりて、またちがう術式の魔術へと変えてつかうわけです。それゆえ、精霊の召喚などもできる。 しかしよく考えると、悪口のとおり、すべてが『かりもの』なんです」
ラフィーはいつもの冷めた口調で、いつもとちがってどこかなげやりな態度で両手をひろげてみせた。
「 ―― だから、《禁断の聖書》をてにいれた司祭も、魔族の『聖書』も、おなじようにつかえると考えたんです。そうして実際につかってみた『黒い聖書』は魔族の『神』とつなげてくれて、その『神』からも力をかりることができた。 それからわたしたち《賢者》は、《黒魔術》とよばれるそれをつかえるようになったってわけです」
ラフィーはひろげていた両手をあわせた。
「・・・だから、ドラゴンや魔族を退治しにいく《賢者》にしか、つかえないってわけね?」
ラーラがなにかまずいものを食べたような顔をする。
「ええ。だって、死人を生き返らせて操るとか、あたり一帯に毒霧の嵐を巻き起こすとか、炎をまとった巨大な岩の群れをよぶとか、こんな魔術、人間のぼくらにとっては《魔族と戦うとき》にしか必要としませんよね?」
「ま、本来はな。だが、その《黒魔術》のおかげで、うちのパーティーの勇者は、いちおう存在し続けてるわけだしな・・・」
ガットがなにかいいたそうに髭をひっぱるのに、「あ そうか」と、ラーラが棺桶をみた。
「まだ、《王様連盟》に《勇者》のリミザが死んだこと知らせてないから、あたしたちまだ《契約中》の、『ドラゴン退治中のパーティー』だもんね」
「そうです。だから、わたしもまだ《黒魔術》をつかえる状態だったから、リミザにかけようとおもいついたんです」




