『そっち』
「そうだ、わたしは『そうとう』な魔族だぞ!それゆえこの《再生の魔法》も自分にかけられるのだ! ―― ・・・ところでおまえたち、ほんとうにこの罠を起こしたんだろうな?どうにも数がすくないうえに、それほど強そうにみえないが・・・。 この罠をぬけたあとに何がまちかまえているか、わかっているのか?」
「当然だ。それを退治しにきたんだからな」
「『退治』っ!?」
ガットの返事に裏返った声をあげた魔物が、「おまえらで?」と大笑いする。
「 なにがあるかもわからず、ここまできたのか?まったくまぬけな人間どもだな。この世界で《魔王》さまをたおせるものなど、」
「いや、そっちはもう、とっくに退治された」
「 ―― ん?『そっち』?」
「おれたちがここに退治しにきたのは《白銀のドラゴン》だ」
「っば、ばかな!!なにをおかしなことを!わたしは《魔王》さまをお守りするためにこの『忘却の山』をつくり、さらには、そこを抜けた人間がでた場合にそなえ、魔王さまのおやすみを邪魔させるわけにはいかぬとかんがえたからこそ、こうしてみずから《再生の魔法》をおのれにかけて罠もつくっておいたのだ!! この先にねむるのは、《魔王》さまであってけっして《ドラゴン》などではない!」
ガットに指をつきつけ、魔物がさけぶ。
「いやいや」と手をふったのはラーラだった。「《魔族》が好き勝手はじめて《人間》との仲が悪くなって、あたしたち《魔法族》も人間のほうについて、《魔王》は倒されたんだって」
「この《魔法族》の女め!なんという嘘をつくのだ!」
「ほんとだって!もう二千年いじょうまえのことだよ」
「《魔王》さまが《人間》などにたおされるわけはない! ちくしょう!おまえたち《魔法族》がうらぎったせいだな!」
魔物が片腕をふると、空間がななめにゆがんだ。




