《黒魔術》
「『なんで』って、そりゃ、彼にかけてる《リビングデッド》の魔術が、わたしがかけた《黒魔術》だからですよ」
これもなんども説明してますよね?とラフィーはほほえんだ。かんぜんにばかにした表情で。
こいつの、こういうところがむかつくんだ、と拳をにぎるガットを、いつも『まあまあ』とおさえていたリミザは、いまや完全にラフィー側についていて、このまえはラフィーを殴る真似をしたガットに(ラフィーに命じられたとはいえ)、《リビングデッド》がつかえる『呪いのしびれ』の魔法をかけてきた。
なので、今回も歯をくいしばり、ガットは耐える。
ラーラが、やるせないようなため息をつき、「ラフィーさま、お茶のしたくがととのいました」と得意げにテーブルをしめすリミザをながめ、魔法使いにはつかえない魔術なのよ、と、これも何度目になるかわからないため息をつく。
「・・・くやしいけど、司祭には『聖書』の力があって、『黒い聖書』のおかげで《黒魔術》もたくさんうみだしてるのよ。でもねえ、それのおかげでリミザがここにいられるわけだし・・・」
宿屋で《勇者》が死んでから勝手に生き返った次の日の朝。
ラフィーは朝食の時点で、リミザに肉体の死をおくらせるためのお茶を飲ませていたらしい。これは呪いで仮死状態にされた者用のお茶だが、ふつうの状態で飲むとその苦さから絶対にむせるであろうそれをリミザは一気に飲み下したので、ラフィーの中での『リミザ死亡』は、ここで確定となったようだ。
ラーラもそのお茶の匂いには気づいていたが、まったくいつもとかわらないリミザのようすに、死んでいるのを認めたくなかった。
だって、ここまできて、そんなのひどい。
だから、ラフィーからの、『とりあえずリミザを《リビングデッド》にしよう』という提案にもすぐにのった。
仮死状態の《呪い》ではなく、ほんとうに死んでいるリミザには、お茶の効果だけでは限界があるだろうし、肉体の死というのは、すみやかに、いろいろなところに目にみえるかたちであらわれる。
《賢者》のつかう《黒魔術》の《リビングデッド》は、死者を、死んだときの鮮度のままで当人に魔力をあたえ、魔術をかけたものが使役できる『便利な手駒』とするものだ。
大むかし、魔族がまだ貴族の一員として宮殿に呼ばれていたころ、権力争いでつかわれていたともきいている。
魔法使いにはないおもいつきでつくられたそのての《黒魔術》を、ドラゴンや魔族を退治しに行く《賢者》は、いまだにつかうことを許されている。




