古の魔物
ぶるぶるとふるえる柔らかい灰色の『魔物』は、床に落ちたせいなのか、薄い皮膚の表面がずっと、ひくひくとうごいている。まるで、皮膚の下にある《なにか》が震えているかのようだった。
「み、たく・・・ない・・・」
つぶやいたラフィーはあらためて片手をあげ、緑色の聖なる炎をだした。
とたんに、灰色の『魔物』の《たてがみ》から、また水があふれた。
あせったようにラフィーは片手に祈りを集中させる。
「 ―― やだ・・・ 」ラーラがこえをこぼしたときに、その『たてがみ』が二つに分かれてひらくのを見た。
「 『古の魔物』、《アイリド》ってやつだよ。きいたことない? 」
リミザがいつのまにかこの魔物の卵がおさまっていた台座の上にしゃがみこみ、床をゆびさす。
そこには、『アイリド』といわれた魔物の《たてがみ》がふたつに分かれて開ききり、さきほどまで灰色のうすい皮膚がまもっていた《中身》が姿をあらわしていた。
「どお? ―― 美しいよね」
リミザがまるでじぶんでつくりあげたもののように両手をひろげてたたえる。
ゆかに丸くひろがったそれは、濡れていて、もりあがり、表面に透明なゼリーをまとった美しい宝石のようにかがやいていた。 《たてがみ》だとおもった棘のような毛はまるい表面を滑り落ち、中身であるその美しい宝石を、まつ毛のようにとりかこんでいる。
「 ・・・マジか・・・、だってそれ・・・、むかしの魔族の宮殿で『見張り番』をしてて、宝物のそばにはどこでも《アイリド》がいたっていう、あれか?」
ガットがちょっと感激したように口元をおさえた。
「ガット!のぞいちゃだめ!」
近寄ってのぞこうとしたガットの額すれすれに、ふりまわしたラーラの杖が音をたてふりおろされた。
「っぶねえな」
「そう、あぶないんだって。《アイリド》の宝石部分をのぞくと、魂を盗まれるんだから」
ラーラの説明にラフィーも思い出したようにうなずいた。
「あれだ、いにしえの『宝石の魔物』か。『その美しい石は万華鏡のようにさまざまな色で輝き、人を惑わし魂をとる』と伝わっていますね」




