勇者は《リビングデッド》に
四日前に、やはり森のなかでこうやってこの棺桶に死んだ《勇者》を押しこんだことをおもいだしながら、《戦士》であるガットは縄をとき、棺桶の重い蓋をひらいた。
なかに眠っている《勇者》の顔色はもちろん白いが、出会ったときから白かった。
「ねえ、さっき『いて』って言ったのって、リミザだよね?」
かがみこんだ《魔法使い》のラーラが、その白い頬をつまんでみせる。
「まあ、またなにか夢をみてるんじゃないですか。では、起こします」
《賢者》のラフィーが《黒い聖書》の《祈り》を省略して棺桶にねむる『死者』の胸をたたいた。
棺桶によこたわっている《勇者》がぱちりとめをさます。
《勇者》といっても、リミザはみかけ、成長途中の十五、六歳にしかみえない。色は白くからだは細く小さく、ひげもみえずにこどもにしかみえないが、実年齢は二十歳越えの《勇者》だ。
「・・・あれ・・・。またちがう森まできた?」
ねぼけながら頭をかき、あたりをみまわすリミザの様子に、ガットはいまだに慣れない。というか、腹が立つ。
「 あたりめえだろ。おまえがねてるあいだにおれたちはそのくそ重い棺桶をひきずりながら進み続けてんだからよ」 また、棺桶を蹴った。
この棺桶をひきずりはじめてから、なにかというと蹴るのがくせになってきている。
はじめは、棺桶の中のリミザが、『やめてよ』と言い返すのかのおもっていたのだが、蹴っても棺桶の中から反応はない。
「起こすまでねむりっぱなしなのはしかたないじゃない。リミザは《リビングデッド》になっちゃったんだから」
ガットの考えをよんだように、ラーラがリミザの両手をつかみ、棺桶からひっぱりだした。
「そこなんだよ、そこがなんか、・・・なんつーか・・・」
ガットだって、それはわかっている。なにしろ《勇者》であるリミザを《リビングデッド》にするために、協力したわけだし。
「まあ、いちおうリミザは了承してたわけですし、あなたが罪悪感をかんじる必要はないとおもいますけどね」
ラフィーがいつものすました微笑みをむけてきた。この件に関しては、実際にする前日までに(覚えてるかどうかはべつとして)、リミザ本人とは話し合い済みだ。
「ンなもんかんじてねえよ。だって、こうしてなきゃ、しょうがなかったんだし。ただ、そのー、なんつーか・・・いちいちめんどくせえっていうか、もっと、こう、前みたいに」
「『前みたいに』リミザといっしょに歩くのは無理だって説明しましたよね?」
「わかってる。わかってんだが・・・」
ラーラが思いついたように、代ろうか?とガットの顔をのぞく。
「あたしがリミザの棺桶を魔法で浮かせて持って行ってもいいけど」
「いや、そうじゃねえよ。棺桶はべつにいい。必要なんだし、リミザなんて入ってるのかわかんねえぐらい軽いんだしよ。だけど、ほら、そこからだしたあとが、なんでこうなるんだよ?」
ラーラが棺桶からだしたリミザは、この棺桶にいれた初日の夜。つまり《リビングデッド》の術をかけた当日の夜と同じように、じぶんの魔法をつかって華奢なつくりのテーブルと椅子をだし、ティーセットも用意して、ラフィーにお茶をいれるべく、ポットにお湯を用意しはじめる。




