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閉話5 王女の誤算

これで第1章は終わりになります。お読みいただければ幸いです。

 私、オリビアは後悔していた。


 私は、ダイグランド王国第1王女として生まれた。いずれは、どこかの王家若しくは有力貴族に嫁ぐことが決められており、そのための教養や礼儀作法を学んだ。学園でも私はいつも中心にいた。取り巻きがいっぱいおり、中には親友と言えるものもいた。


 10歳の時、婚約者ができた。隣国の皇太子だ。小国だけど重要な産物もあり、軍事的にも要衝な場所にある国だった。

 皇太子は、たびたび訪れては、交流を深めていた。

 私はこの人と結婚するのだなと、子供心にほんわかな思いがあった。


 すべてが狂ったのは、15歳の時だった。馬車で事故に遭ったのだ。本当は弟が向かうはずだった貴族の屋敷に、弟が急に発熱したため、代わりに私が挨拶に訪れることになったのだ。


 土砂崩れに巻き込まれて、馬車ごと谷に落ちた。

 一命はとりとめたが、右足は失われ、顔の半分がつぶれた。

 お見舞いに来た皇太子は私を見て、「化け物!」と言って逃げてしまった。婚約は解消された。

 取り巻きはいなくなり、友人と思っていた者も私を見て、「近寄らないでくださる。気持ち悪い」と吐き捨てた。

 私は、お爺様の領地にある離宮に引きこもるようになった。

 母は心配して一緒についてきてくれた。


 私は心が折れて、ただ生きていた。

 そんな時、弟がカールを連れてきてくれた。

 カールは平民だったが、弟と仲良くなり、一緒に離宮に遊びに来たのだ。

 カールはすぐに私の足を治してくれた。足の先は補助具であったけど歩けるようになった。すごくうれしかった。

 私はカールと仲良くなった。すると、私のカールの間で婚約話が出てきた。

 こんな顔が半分つぶれた女なんて、誰がお嫁にしてくれるの、きっと何か魂胆があるに違いないと思い、カールを呼び足し問い詰めた。

 カールは優しく微笑んで、全然かまわないと言ってくれた。

 私は嬉しさのあまり泣きそうになりながら、婚約を受け入れた。そうしたら、私の顔に触れる許可を問うてきた。

 本来、夫以外の男性に顔を触れさせるのは、みだらな行為とされている。しかし、カールは婚約者だ。その婚約者が触れる許可を求めてきたのだから、受け入れても何ら後ろ指をさされることはないと思い、受け入れた。そうしたら、カールはなんと顔を治してくれた。

 前の通り美しい顔だ。私はすごくうれしかった。


 しばらくして、カールがメイドを一人愛人にしたいと尋ねてきた。

 メイドを愛人にする?一々そんなことは尋ねなくても何の問題もないことを伝えた。

 要はカールの処理の道具でしょ?

 メイドを処理に使うのは貴族ならよくあることだ。実際、シュミットでさえ複数のメイドと関係を持っているが、隠すことすらしていない。

 貴族の女性としては、その程度のことは許容すべきことであり、まして私はまだ婚約者で、カールのそちらの方について対処できる許しを得ていない。せいぜいが手をつなぐとか、足や顔に触れる(それもかなりグレーなラインだ)ことを許可できるぐらいだ。

 キス?そんな破廉恥なことは身分ある女性として婚姻まで認められるものではない。

 私に触れて我慢できくなったのだろう、道具を使うぐらいは何の問題もない。


 とにかく、カールと私は正式に婚約した。来年春には結婚する予定だ。夏休みが終わったので、カールとシュミットは学園に帰っていった。

 それからは、いろいろなことがあった。

 カールとシュミットが戦争に行ったと聞いてから、お爺様が王家に反乱を起こしたとか、王が殺され、第1王子が行方不明だとか、シュミットが王になったなどがあったらしい。

 らしいというのは、すべて人づてに聞いたからだ。はっきり言うと貴族の女として政治や軍事にかかわることはあまり好ましくない行為だと、教えられてきた。

 女でも、家の関係でそれらにかかわる者もいるが、それはあくまで特別な例だ。

 私は貴族の女らしく、成り行きを見守っていた。

 ただ、結婚式が春から夏に変更になったのは少し残念だった。

 ただ、離宮から王宮に戻ることができたのは嬉しかった。それまで、顔が治ったのに、離宮から出ることは禁止されていた。よくわからないが危険だからと言っていた。それが戻っていいとなったので、久しぶりに戻ると、宮廷の顔ぶれがかなり変わっていた。

 私の取り巻きで、私を化け物扱いした娘たちは虜囚として、平民以下の身分に落とされたらしい。いい気味だ。


 春になり、また戦争になったらしい。結婚式が秋に延びてしまった。私はため息をついて、いつまで伸びるのかと不満に思った。

 しばらくして、ルキア帝国の王族や上級貴族が我が国にやってきた。

 客人扱いらしい。

 王宮にも一人やってきた。ルキア帝国の皇太子だった。金髪に蒼い目の美形で、スタイルもよく、なおかつ大人だった。

 私は、一目見た瞬間恋に落ちた。

 彼も大変私にやさしく、とても紳士的だった。

 贈り物もいろいろいただいた。

 私はすっかり夢中になった。

 お爺様にカールとの結婚をやめて、皇太子と結婚したいとお願いした。

 最初、お爺様は烈火のごとく怒ったが、何回もお願いすると、苦虫をかみつぶしたような顔で「なんとかしよう」と言ってくれました。


 秋になり、弟のシュミットがダイグランド王国の王として戴冠式を行った。

 同時に私と皇太子の結婚式も行われました。

 運命の人と結婚出来てすごく幸せでした。運命の人と出会う前に、カールと結婚しなくてよかった、と思った。

 カールが平然とした顔で、式に出席していたので、うれしさのあまりそのことを言うと、「それは良かったですね」と微笑んでくれた。

 カールも許してくれたんだと思うと嬉しくなった。


 私は、夫となった皇太子と一緒にルキア帝国に行くことになった。

 ルキア帝国の貴族と結婚した女性たち数名と一緒です。

 ルキア帝国は北の大国として有名だったので、どんなに栄えているのだろうと、皆で噂をしていました。

 王室の馬車で北の地まで行くと、そこにルキア帝国の馬車が待っていました。ごく普通の馬車です。なんか拍子抜けしました。もっと豪華な馬車が来ると思っていたからです。

 気を取り直して、死者の山脈を超えます。なんと、山脈にはトンネルが掘ってありました。

 こんな大きな山にトンネルを掘るなんて、すごい技術を持っているんだと、ルキア帝国の力に感動しました。

 「こんな山にトンネルを掘るなんですごいですね」と皇太子に言うと、不機嫌そうな顔で「そうだな」と一言だけ言って黙ってしまいました。

 何か間違えたかしら、と私は思ってあとは黙っていました。

 山を抜けると、町に出ました。しばらく行って、港町まで出ると、大きな海がありました。

 かなり栄えている街で、船がたくさん止まっていました。中でも目を引いたのが、白色で塗られた豪華な船でした。これに乗るのかとワクワクしていたら、皇太子は別の普通の船に乗り込みました。

 あの船じゃないの?と思ったのですが、トンネルの件で不機嫌させてしまったことがありましたので、何も聞かないことにしました。


 船に乗り込むと、中ははっきり言ってかなり古めかしい作りになっており、船員たちの態度もあまりよくはありませんでした。

 狭い船室に三段ベッドが二つある部屋に入れられ、私達ダイグランドから来た女たちはそこに押し込まれました。

 食事は朝と夕の二回、冷めたスープと固いパンが一切れの食事でした。

 さすがにこれはありません。私たちは苦情を言いに船の食堂に向かいましたが、皇太子たちの食べている物も同じものだったので、何も言わずに引き返しました。


 船は川に入ると、そのまま北上を続けました。

 もう一晩船で過ごして、やっと帝都モスコブルクに着きました。

 船着き場には馬車がいて、それに乗り込みました。

 馬車というより荷車で、私たちは荷物のように荷台に乗り込みました。

 軍の駐屯地を過ぎると、市民の街に入りました。とても賑やかでした。ところどころバラックのような場所もありましたが、人の行き来は盛んで、市場にはモノがあふれていました。

 ああ、豊かな国なんだと思いました。貴族街に入るまでは。


 壊れている城壁跡の中に入ると景色は一変しました。

 貴族の屋敷だったのでしょう。破壊された屋敷がそのままになっていて、壊れた壁から見えた物はというと、庭にバラックのようなものが建てられ、他の庭には畑のようなものができていました。

 古びたというよりぼろの貴族服を着た男女が、無気力そうな顔で、道端に座り込んでいました。

 そこで、私以外の貴族に嫁いだ女たちは降ろされました。

 私だけ残って、城に向かいました。

 城の城壁は傷ついていましたが、とりあえずありました。

 その城壁を通ると、城がありました。

 城の庭には畑が作られており、とても大国の城とは思えませんでした。

 皇太子とともに城の中に入りましたが、廊下には美術品の一つもありません。

 というか、何もないのです。

 王の間に通されると、王と王妃がいました。

 「父上、ただいま帰りました」皇太子が礼をしたので、「初めまして、ダイグランドより参りましたオリビアと申します」と礼を取りました。

 王は、「長旅に疲れたであろう。部屋に案内させよう」と言って、侍女を呼びました。

 皇太子を見ると、「私は父と話がある。部屋に行っていなさい」と言いました。

 やむなく、私は侍女に連れられて部屋に赴きました。

 部屋に行ってびっくりした。確かに広さはあるが、簡易ベッドが一つあるだけの部屋でした。あとは何もない。びっくりして問いただそうとしたが、「ゆっくりお休みください」と侍女は言って退出していきました。


 何かとんでもないことになっているのではないかと、さすがの私も思いました。

 さて、部屋を見回してみたが、私の私物が何一つおいていない。

 私は母国から服や愛用の化粧品などの私物のほか、ドレスやネックレスなどの装飾品、あと私の財産として1000万マルの公債をもらっていました。

 この公債は、年1%の利息が付くことになっており、それは別途私の財産として使えることになっていた。

 私は、侍女を呼んで荷物の件を聞いてみました。

 「今確認しますので、しばらくお待ちください」といって、去っていきました。

 しばらくして、荷物が届いたが、普段用の服が数枚あるほかは何もありませんでした。

このことを問い合わせたところ、「さあ、私は知りません。直接王が皇太子にお尋ねになられたら」と冷たく言われました。


 思わず侍女のほほをはたこうかと思ったが、来たばかりの新参者がいきなり暴力をふるったら使用人たちを敵にしてしまうことになります。こいつの立ち位置も分からない。下級のメイドなら叩いて構わないが、上級のメイドの場合、貴族の子女の可能性もあります。ここは注意しなくては、と思いました。

 「わかったわ、旦那様に聞いてみます」と言いました。

 もし、こいつが盗んだのなら、顔色を変えるだろうと思ったのですが、まったく平然としている。

 うん、このメイドは関係なさそうね、と思いあとで旦那様に聞いてみようと思いました。


 「夕食の時間です」と侍女が呼びに来たので、行くことにした。

 本来ならきちんと礼服を着ていくのだが、何一つなかったので、普通の平服で言った。


 食堂には、王と王妃、皇太子とその兄弟姉妹が座っていた。

 「初めまして、私オリビアと申します」と礼を取ったが、誰も無反応だった。

 「此方にお座りください」と言って、座らせられたのは、一番の下座だった。

 皇太子の妻である私に対しこれはどういうこと、と思ったが、皇太子が何も言わないので様子を見ることにした。

 食事が用意されたが、暖かいが何も具の入っていない塩のスープと小さい固いパンが一切れだけだった。

 え、これはどういうこと?私の歓迎会のようなものは何もなし?


 皆淡々とスープとパンを口に運んでいた。

 スープは塩味しかしなかった。パンを浸して、やわらかくして食べた。あっという間になくなってしまった。

 私は口を開いて、尋ねた。

 「大変申し訳ありません。私の荷物が部屋に届かないのですが、どうなっているのでしょうか」

 「荷物のうち、公債とアクセサリー、ドレスなどの金目のものはすべてこちらで徴集した。それ以外の物はすでに届けておる」と王は言った。

 「それはどういうことですか」私が驚いて聞くと、「わが王家に嫁に来たのだからお前の物はすべて王家の物だ。それからお前に命ずる。ダイグランドに手紙を書き、金や物資の援助、あと領土の返還を求めるのだ」と言って、席を立った。

 皇太子以外は全員席を立って何処かに行ってしまった。

 私は皇太子にすがるような目で見たが、皇太子は冷たい目で「父の言ったとおりにしろ。後で便箋と封筒を侍女に届けさせる」と言って、いなくなってしまった。


 私はふらふらと部屋に戻った。侍女が封筒と便箋、あと筆記用具を持ってきた。

 「何で私の持ってきたものをすべて取り上げられたの。なんで皇太子はあんなに冷たいの。なんで……」と涙が出てきた。

 侍女も気の毒に思ったのか、少し説明してくれた。

 ルキア帝国は戦争に敗れて、領土のほとんどを失ったのだという。残されているのは、モスコ州のうち、3つの郡だけだそうだ。更に賠償金が課せられ、王家の資産はすべてなくなったらしい。使用人たちもほとんどが王宮からいなくなり、残っている者は、行くところのないものか、王に対する忠誠に篤いものだけだそうだ。

 食べる物にも事欠く状態で、今は少しでも援助を求めたいとのことだ。


 私は愕然とした。ルキア帝国は破産していたのだ。私はとんでもないところに来てしまった。皇太子が優しかったのは、私を金づるにするつもりだったからだ。

 とりあえず、私は実家にお金を送ってほしい旨と、奪った領土を返して欲しいと書いた。私の現状を書きつつ、お金が欲しいことを強く要求した。

 その手紙を便箋にしまい、侍女に持たせた。


 しばらくして、手紙が返ってきた。開封済みであり、先に中身を読まれたようだ。

 「持参金を渡したのに、そのお金はどうした。とりあえず10万マルを送る。あと、領土はカールの物だから渡すことはできない。今度使いを送るので、詳しく教えてくれ」と書いてあった。手紙にはお金は同封されていなかった。きっと、先に取ってしまったのだろう。

 しばらくして皇太子が来て、私をなじった。

 「たった10万マルしか引き出せないのか。この無能め。もっと手紙を書いて、金を引き出して来い。今日は罰として飯抜きだ」と言って去っていった。


 私はまた手紙を書いた。お金が欲しい、私のためにもっとお金を送ってくれと書いた。

 しばらくして、カールが軍を率いてやってきた。

 カールと会うのは久しぶりだ。カールはあきれたように言った。

 「痩せましたね。おまけに薄汚れている。かなりひどい扱いを受けているようですね」といって、「おい、彼女を外の馬車に移動させろ」と言った。


 カールは、ルキア帝国の王に「仮にもダイグランド王国の王女に対しこの扱い、許されるものではないですね。連れて帰らせていただきます。外にもダイグランドから来た娘たちはすべて回収します。わかりましたね」と言っていた。

 「このことに対する賠償はあとで通知します。反乱を起こしてもいいですよ。皆殺しにしますけどね」とうすら笑いを浮かべて言っていました。


 私はかなり立派な自動馬車に乗せられて帰国することになった。途中貴族街で、他の女性たちを拾い上げて行った。皆、ぼろを着て手はひびだらけで、やせ細っていた。

 聞くところによると、すべての持ち物を取られた挙句、朝から夜遅くまで働かされ、ご飯もまともにもらえなかったようだ。

 自動馬車で船着き場に着くと、あの時見た白い船体の豪華な船がそこにいた。

 私たちは、船内に案内されると、シャワーを浴びるように指示され、きれいに衣服をあたえられ、久しぶりのまともな食事にありついた。

 部屋は個室で、ベッドと書見用の机椅子のほか、鏡台もあり、化粧品も一通りそろっていた。

 船は悠々と進み、来た時と逆の経路で王都に着いた。

 その間カールは一度も姿を現さなかった。


 私やほかの娘は、各々家に帰り家族に迎えられた。

 私は、お爺様とシュミットにかなり叱られた。しばらく謹慎だそうだ。

 私はカールにお礼を言いたいのだがと言ったら、その必要はないと言っていたと言われた。

 カールとの婚約を再度結びなおしてくれないかと聞いたら、弟は呆れた顔で、「一度ひどい振り方をしながらそれは通らないよ。第一カールなら結婚したよ。すでに3人の妻がいる。そこに姉上が入る余地はないよ」と言われた。


私は、どこで間違えたのだろう。


お読みいただきありがとうございました。もし少しでも気になりましたら星かブックマークをいただければ大変ありがたいです。

星一ついただければ大変感謝です。ブックマークをいただけたら大大感謝です。ぜひとも評価お願いいたします。


お読みいただいた読者の皆様ありがとうございます。これにて第1章は終わりになります。星やブックマークをつけていただいた方、本当にありがとうございました。これからもいろいろ投稿していきますので、お読みいただければありがたいです。

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