第19話 王女の裏切り
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ルキア帝国に勝利したことについてダイグランドに報告し、ルキア貴族たちの扱いについて協議した。
人質としたルキア貴族をダイグランドの貴族たちに預けることで、交流が生まれ、親ダイグランドの貴族たちを生み出せる可能性について話をしたところ、レッドハンド公爵は乗り気になった。彼らにかかる費用がすべてルキア帝国の負担になることが決め手になったのかもしれないが、レッドハンド公爵は、すっかりこの作戦に夢中になり、ルキア貴族たちはダイグランドが預かることを約束した。
北方軍の指揮権を返し、ダイグランドとの国境線について定めると、俺は開発に乗り出した。
捕虜にしたルキア軍の下士官兵を未開拓のウラル州東部に入植させた。統治のための人材は、ルキア貴族の中から優秀そうなものをリクルートした。
俺は、ダイグランドの王宮と、領地の間を往復する日々を過ごした。
しばらくして、最近王女から手紙もお茶の誘いも来ないなと思った。
戦争やその後の領土の統治で忙しかったのは確かだが、王宮とはかなり行き来していたし、実際最初のころは会ってお茶をしながら話をしていた。
それがここのところ全くお誘いもなく、手紙も帰ってこなかった。
俺は王女の住む宮殿に向かった。
「王女に会いたいのだが」そう言うと、お付きのメイドの一人が、「今王女様は忙しく、お会いできません。またの機会にお願いいたします」と人を見下すような目で言ってきた。
そのメイドとは何回もあっており、今までそんな態度を取られたことがなかったので、これは何かあるなと思い、「わかった。また出直してくる」と言って、コッソリ宮殿に忍び込んだ。
すると、皇女はルキア帝国の第1皇子とお茶を飲みながら談笑していた。
「オリビア様の髪飾り大変似合っていますよ」と皇子は言った。
「王子様ありがとうございます。これは皇子様から頂いた髪飾りです。毎日つけていますわ」と言って、顔を赤くしていた。
「あなたのことを愛しています。婚約の件はどうなっていますか」
「私もあなたを愛しています。今、伯父上にお話して、先の婚約を無効にしてもらうよう手を尽くしてもらっています」
「あの男に未練はないのですか」
「あの時は熱に犯されていたのです。あなたに会って真実の愛に目覚めました。今愛しているのはあなただけです」
あっ、やっぱりそうなったか。まあ、そんなことだと思ったけどね。
俺は何となく納得した。
俺みたいな平民より、ちゃんとした皇子様の方がいいよね、顔もハンサムだし。まあ、このネタで何らかの譲歩をダイグランドから引き出すか、と思いその場から立ち去った。
翌日、シュミット様に「実は婚約者である王女が浮気をしているという情報が入りまして、シュミット様、ご確認いただければありがたいです」と言った。
シュミット様は、そんなことはないよと笑って言った。それではと調べてもらうよう依頼した。
シュミット様は側近にいろいろ聞いたり、レッドハンド公爵に確認したところ、その噂が事実であることが分かり、しばらくして青ざめた顔で言った。「君の言ったことは本当だ。ルキア帝国の王子と浮気をしていた。しかも、王子と結婚したいと言ってきた」
「これは不貞ですよね。この責任はどうお取りになるのでしょうか」と問い詰めると、レッドハンド公爵が間に入り、「わしも本人に聞いたら「真実の愛を見つけました。先の婚約はなかったことにしてください」とのことだった。申し訳ないが、婚約を取り消してくれないか」と苦虫を潰した顔で言ってきた。
「それは私に泥をかぶれということですか?」と怒った風に言うと、「決してそういうわけではない。円満に解決したいのだ」と言ってきた。
「現在私が治めている領土で独立を認めること。我が国とダイグランド王国の間に友好条約と軍事協定を締結し、対等の国として対応すること。何か要求した場合はその対価を支払うこと。あと、今回のルキア帝国との戦争で得た物はすべて我が国の物とすることを認めていただければ、今回の件は水に流しましょう」
「すまない、恩に着る」とレッドハンド公爵は言った。
「そうだ、俺たちは今日から義兄弟だ」とシュミット様は突然言った。
「王女との結婚は無くなったのですよ」と訝し気に尋ねると、「違う違う、姉上との結婚がなくなって、兄弟になり損ねたのだけど、お互いの深い友情の証と協力し合う仲間としての意味で義兄弟になるんだよ」とシュミット様は胸を張って言いました。
「まあ、別に構わないですが、さつきも言いましたが、不当な要求は拒否しますし、場合によっては敵になりますよ」
「わかっているよ、そんなこと義兄弟にはしない。絶対だ。約束する」
「わかりました。じゃ私たちは義兄弟ということで」
「これでカールはこの国では王族並みとなるからね。当然、カールはクトー王国の王でもあるから対等の関係だよ」とにこにこしながら言った。
レッドハンド公爵からは、あの孫娘が迷惑をかけて本当にすまなかった、と謝られた。
いえいえ、慰謝料としてこの条件なら別に王女との婚姻ぐらいどうでもいいですよ、と思った。
しかし、これで三度目か、前世で妻に捨てられ、今生ではジェーンさんと王女に捨てられた。俺にそんなに魅力がないのかな、と鏡を見た。
秋に入り、シュミット様は国王の即位式を行った。14歳の新国王だ。みな大変な歓声で王を迎えた。
同時に王女と、ルキア帝国の第一皇子との婚姻が行われた。二人とも幸せそうで、まあよかったというべきだろう。
でもルキア帝国で起こっていることを知ったらどんな顔をするだろう、そう思いながら式に列席した。
一応「おめでとう」と言ったら「カール、私は幸せです。あなたと結婚しなくて本当によかったです」とほほえみながら、そして俺を見下すような目で見てきた。
こいつと結婚しなくてよかったと、心底思えた。
ルキア帝国では賠償金の支払いのためにお金をかき集めたが、税収では足りず、各貴族たちに財産税をかけた。
更に属国にも資金の供出を求めた。
王室の財産も供出し、何とか100億マルを支払ったが、この国の戦争前の国家予算まるまる1年分で、事実上の破産一歩手前だった。
更に沢山の貴族が領地を奪われて帝都に元領地から帰還し、王家の保護を求めたため、政府の貴族費は爆発的に増大した。
皇帝は宮廷貴族の家禄は従前の10分の1に削減し、更に領地貴族達の領地を国に接収する方向に動いた。
それに反発したのが領地貴族たちで、その中心となったのは皮肉なことにベライナ州のリビウ侯爵だった。王が戦争中皇太子の預け先として信頼を置いていた彼は、ベライナ州の東部郡を支配していたが、その領地も没収されそうになったことで、このことを不満として反乱を起こし、独立を宣言した。
まともな戦力はすべて俺が解体してしまったため、反乱を抑えることができず、たちまち、ベライナ州の北と東、モスコ州の西が占拠された。俺の介入で何とか講和を結んだが、ベライナ州の北部郡と東部郡はリビウ侯爵が独立して名乗ったリビウ王国の領土となり、その地域に領土を持つ領地貴族たちはリビウ王国に従った。また、モスコ州南部郡はわがクトー王国とルキア帝国の共有となり、そこにモスコ州の領地貴族たちが領地替えで集められ、共同で管理することとなった。また、クトー軍の派遣と講和に対する労力の代償として極北地方のすべてを我が国が領有することとなった。
このため、ルキア帝国は実質モスコ州の北部と東部、西部の3郡を支配する中レベルの国に落ちぶれており、その上、元からいた沢山の宮廷貴族に、元領地貴族たちを抱えて、財政的にも破綻していた。
目端の効いた下級貴族や準貴族たちは帝国を見捨てて俺に仕えたが、大多数はそのまま帝国に残っていた。
あの国に嫁いでも、いいことはないだろうと思うが、真実の愛を見つけたというのだから頑張ってもらいましょう。
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