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第18話 帝国の逆襲とカールの奇策

毎日18時に投稿しています。お読みいただければ幸いです。

 帝国が攻めてきた。12万の兵を集め、内10万をカスヒ内海東側から攻めさせ、5千を西に向かわせた。

 残り1万5千が王都防衛に着いた。

 10万の兵は、カスヒ内海の東側を順調に進み、上カスヒ川にたどり着いた。

 俺はここに城砦を作り、2万の兵を入れていた。川の北岸と南岸にいくつか砦を築いていて、相互に連動して敵を打つ体制を整えていた。

 敵は、この要塞を避けて、さらに上流から川を越えてくることも想定し、川底にトラップを設置するとともに、見張台を設け、敵が上陸してきたら、城砦から騎兵を中心とする遊撃隊が出撃して、橋頭保を築かれる前に敵を粉砕することになっていた。

 こちらからは攻め込まず、ひたすら防御に徹して時間を稼ぐよう指示していた。

 ちなみにここの指揮官は、カルロス殿から推薦してもらったミッターマイヤーという男だ。

 彼はカルロス殿の部下で、今は中将に昇進し、ダイグランド王国軍北部方面軍司令官となっていた。

 カルロス殿曰く、陣地防衛戦が得意で、城砦を守らせたらめっぽう強いらしい。

 彼ならば俺が作戦を実行するまで、よく守ってくれるだろう。


 敵は川の北側の砦に攻めてきた。砦の前には、幾重にもトラップが仕掛けてあり、さらに水を流して沼地にしていた。

 それでも敵は正面から攻めてきた。兵の犠牲も顧みず、トラップを食い破り、砦に攻め込んできた。

 申し訳ないが、あとはミッターマイヤー殿にお任せしよう。


 我々は、隠してあった船に乗り込んだ。数は2万5千で大船団だ。風魔法使いと水魔法使いを使い、すごい勢いで内海を進んでいった。

 すごいスピードで突き進んだので、夕方にはアストラに到着、直ぐに軍を展開し、敵が対応する前に町を占領した。

 この街はルキア帝国の進攻軍の補給物資の集積所になっており、警備兵が500ばかりいたが、あっという間に粉砕し、こちらの軍に組み込んだ。

 商人や市民には町から出ることを禁止し、敵に情報が洩れないよう注意を払った。

 来る商人たちはそのままこの街に軟禁した。まあ、持ってきた物資は定価の1.2倍で買ってやったから許してくれ。

 ここに5000の兵を残し、進攻軍が進んだ街道にトラップを仕掛けるよう命じて後の25000でさらに北に進んだ。

 この街からは北にカスヒ内海から川が流れており、船が通れるので物資輸送の大動脈になっていた。

 俺たちはこの川をさかのぼり、いきなり帝都モスコブルクにたどり着いた。

 兵たちは船を降りると、船着き場から一番近い大きな門に殺到した。

 兵たちの姿を見て、敵の兵たちは門を閉めようとしたが、門は大変大きく簡単に閉まる物ではない。兵士たちは門が閉まる前に町に突入し、敵兵を攻撃した。

 門は大きく開かれ、兵は町になだれ込んだ。

 第1城壁の敵たちは混乱しており、次々と打ち取られるか、降伏していた。

 俺は兵3千ばかりを連れ、第2城壁に向かった。

 一足遅く、第2城壁の門はすべて閉まっており、兵士たちが警戒に当たっていた。

 間もなく夜になろうとしている。あちこちにかがり火が焚かれていた。我々は城壁を包囲するように布陣した。敵の兵たちの姿を見ると、軍服がバラバラだった。

 つまりここの指揮官は、第1城壁の兵たちの救援をあきらめ、直ぐに第2城壁の門を閉め、正規兵のほかは貴族の私兵を集めて防御に当たらせたらしい。決断の速さと、高い行動力、なかなか手ごわい敵がいるなと思った。

 しかし、第1城壁には1万3千人以上の兵士がいて、それがまるまる損なわれたわけだ。

 中にいるのは、貴族の私兵も含めて5千程度だろう。

 

 俺は、一個中隊程度を城外のある場所に行かせると、見張を置いて兵たちに食事と休息をとるよう命じた。


ルキア王宮内部にて

 帝都防衛軍指揮官ゲオルグ・ジェーコフ大将は苦悩していた。

 敵のいきなりの侵入は、単なるゲリラ的なテロではなく、軍を率いた進攻だった。

 帝都に侵入されるまで、まったく気づかなかったことに、大将は自分に対して怒りを覚えていた。


 敵の進行に気づいた時、ジェーコフは第1城壁にいた。すぐに兵に対処するよう命じたが、兵たちはかなり混乱しており、更に次々と倒されていく味方から、このままでは王宮が危険だと判断、少数の兵を率いて、第2城壁に後退した。

 まだ敵の姿はない。すぐにすべての城門を閉じさせ、兵を集めた。王宮の近衛兵500を除き、ここにいるのは1500あまりだった。

 すぐに皇帝に具申し、貴族の私兵をすべて指揮下に治めることの許可をもらった。

 一部貴族は反抗したが、皇帝の勅命として無理に従わせた。

 何とか5000近い兵を指揮下に治めることができた。


 貴族達はみな王宮に避難させ、ジェーコフは第2城壁とある意味砦のような貴族の屋敷を使い、敵の進行を遅滞させ、その間に進攻軍を呼び戻し、挟み撃ちにする作戦を立てた。


 しかし、伝令として風魔法使いに飛んでいかせようとしたが、魔力警戒にかかり、ことごとく撃ち落とされてしまった。

 そのため、皇帝に相談して、皇帝家の抜け穴から伝令を送ろうと考えた。

 王は、黙ってそれを聞きながら、言った。

 「一緒に第1皇子を逃がそうと思う」

 「第1皇子ですか」ジェーコフ将軍は尋ねた。

 「敵をうまく挟み撃ちにできればいい。でも間に合わなかったら皇帝家が絶えてしまう。そのための保険として第1皇子を逃がそうと思う。西のベライナ州のリビウ侯爵のもとに落ち延びさせよう。あの男は第1皇子の祖父でもある。悪いようにはしないだろう」

 ジェーコフは黙って、首を縦に振った。何も言うことができなかった。


 夜のうちに第1皇子と連絡の使者を皇帝家の抜け穴から出した。

 朝になり、第2城壁で敵襲に備えていると、突然大爆発が起こった。

 第2城壁の何か所かは吹き飛び、兵も多くが死傷した。

 そのすきに敵は攻め込んできた。第2城壁は突破され、味方は次々と討たれた。

 「将軍、早く第3城壁に向かってください」幹部の一人が言った。

 「しかし……」

 「もう第2城壁も守備兵たちも持ちません。少しでも抵抗して、敵を引き付けますので将軍は早く行って下さい。我々にはまだ第3城壁があります。将軍がいなくては守れません」とその幹部は涙を流しながら言った。

 「すまない」ジェーコフ将軍は一人貴族街の裏道を抜けて、何とか第3城壁に着いた。


 第3城壁の中は最悪の状況だった。

 食糧庫、武器庫が吹き飛んでおり、城壁にもひびが入っていた。

 第3城壁はかなり堅牢に作られていたので、崩れずにすんでいたが魔法攻撃を受ければ1日も持たずに崩れるだろう状況だった。

 兵もここには500名ほどしかおらず、あとは逃げ込んでいる貴族たちを動員するしかないと思われた。

 「将軍大変です!」兵の一人が来た。

 「どうした」もうこれ以上ひどいことはないだろう、と内心思いながら聞いた。

 「城内の井戸の内、かなりの場所が汚染されています。毒を流し込まれたようです」

 「水もだめか……」そう言って、ふらふらと皇帝のもとに行った。


 「陛下、申し訳ありません」ジェーコフ将軍は皇帝に土下座した。

 皇帝は何もしばらく言わず、ぼそりと「とりあえず外務大臣を向かわせろ。講和を結ぶ」と言った。


貴族街にて

 貴族街はところどころに煙が出ていた。街は静寂に包まれていた。

 ルキア帝国の守備兵たちは殺されるか、捕虜になるかしたようだ。

 俺は、とりあえず本日の作戦行動はここで終了とし、敵の城壁に警備兵を置くと、交代で食事と休息をとらせた。

 俺も何人かの幹部たちとともに乾燥パンと簡易スープで食事をとっていた。

 「カール辺境伯様、ルキア帝国の外務大臣と名乗る者が参りました」兵が報告に来た。

 「会おう、ただ食事中だと伝えておけ」と兵に行った。

 帝国の外務大臣と数名の事務官がやってきた。

 「帝国の重責にある私に対して、食事をしながら会おうとは、ずいぶんな態度だな。おまえ、わしをなめているのか!」とその男は叫んだ。

 「おい、こいつらお帰りだそうだ。さっさと叩き出せ」と兵士たちに伝えると、「今日のところは使者だから生かして返してやる。そうだ、せっかく来たんだ。いいことを教えてやろう。明日の夜明けとともに全軍で総攻撃をかける。その時は皆殺しにしてやるからな」と言って、そいつらを叩き出した。

 叩き出される時、何か言っていたがまあ大したことではないだろう。


 食事を終えて、最後の打ち合わせをしていたら、今度はルキア帝国宰相と名乗る者が来た。

 「まあいい、会おう」と幹部数名と兵たちを連れて、宰相が待っている天幕に行った。

 「私はルキア帝国宰相……」

 「こっちは忙しいんだ。さっさと用件を言え。さっきも外務大臣とかいうやつらがケンカを売りに来たが、お前もそうか」

 宰相は怒りに身を震わせながら、それでも丁寧に言った。

 「講和を結びにまいりました。将軍」

 「講和か、まあいいだろう。じゃ条件を示すぞ」と言って、一枚の紙にすらすらと書いて、宰相に渡した。

 宰相は、その紙を見ると一瞬で青ざめた。

 「これはいったい何ですか!」

 「講和の条件だが」

 宰相は声に出して条件を読み始めた。

 「ハバル州、東部のウラル州、西部のベラウナ州の南ベラウナ郡と西ベラウナ郡および北カスヒ川以東の極北地方の割譲、賠償金として100億マルをダイグランド王国金貨かそれに匹敵するもので支払うこと、ルキア帝国の全軍隊は全面降伏し捕虜となること、ルキア帝国軍が所有する軍馬、狩猟を含む全武器の引き渡し、ルキア帝国内での商売に対する一切の規制を行わないこと並びに関所の自由通行及び無税とすること、賠償金支払いまで王族及び貴族の家族を人質として預けること、なおそれにかかる経費はすべてルキア帝国が支払うこと、モスコブルク城壁内に治外法権を認める地域を設け、そこに軍の駐屯を認めること……」宰相は読み上げると、「最初だとはいえ、少し吹っ掛けすぎではないですか」と苦笑いしながら言った。

 「何を言っている。本気だ」と俺は真顔で返した。

 「まあ、これをたたき台として、交渉をいたしましょう」宰相は言った。

 「さっきの外務大臣と名乗る奴にも言ったが、夜明けとともに攻撃を開始する。私はこの条件からひとつもまけるつもりはない。私は忙しい。あとは皇帝と相談しろ。あと一回、夜明けまでなら会ってやる。この条件を飲むか飲まないかだ」そう言って、「さっきの奴にも一つ情報をやったからおまえにもやろう」そう言って、部下に一つ命令した。

 部下たちは一人の男と複数の首を持ってきた。

 男は宰相の顔を見て、「宰相すまない」と言ってうつむいてしまった。その男は第1皇子だった。

 前に探りに来た時、怪しい農家があったので、隠れて包囲していたら、まんまと出てきたそうだ。

 それで王子は捕らえて、あとは皆殺しにした。

 宰相は青い顔をしていた。

 「攻撃開始直前に神への捧げものとして、こちらの王子様の命をささげてから攻撃に入る。後の首はお土産だ。持って行ってくれ」と言って、渡した。

 宰相はふらふらしながら帰っていった。

 作戦会議が終わると、俺は仮眠をとった。

 夜明けまで少し間があるとき、俺は兵に起こされた。皇帝が自ら来たという。

 「わかった。すぐ行く」そう言って、簡単に身なりを整えると、皇帝のいる幕舎に行った。「皇帝陛下自らお出ましとは痛み入ります。それで答えはいかがですか。イエスかノーかでお答えください」と俺が言うと、皇帝は一言、「イエスだ。すべて吞もう」と言った。

 戦争が終わった。


 条件は確実に履行されていった。すべての軍は皇帝の命令で武装解除され、捕虜となった。軍の中で貴族は客人として扱われ、兵たちは捕虜として収容された。

 領地は速やかに回収された。割譲された土地に領地を持っていた貴族たちはモスコブルクへ全財産をもって向かった。

 俺はダイグランドで雇用した者と、現地で働いていた下級官僚をそのまま採用して辛うじて人材を整え、新規に手に入れた領地の統治を始めた。


お読みいただきありがとうございました。もし少しでも気になりましたら星かブックマークをいただければ大変ありがたいです。

星一ついただければ大変感謝です。ブックマークをいただけたら大大感謝です。ぜひとも評価お願いいたします。


正月休みは今日までの方が多いのではないでしょうか。私は年度末は忙しいうえ、休日出勤も多いので、作品が書けないかもしれません……

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