閉話2 リーネの独白
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。お読みいただければ幸いです。
私はリーネ、平民だ。子供のころから引っ込み思案で、顔は美人とは間違っても言えないうえ、色黒で背は低く、やせていた。
この国では、色は白く、胸とお尻は大きく、背はほどほど高いのが好まれていた。
私には、女の魅力なんてかけらもなかった。
母親もため息をつきながら、「これじゃ貰い手なんかないわよね」と姉たちにこぼすのをこっそりと聞いたことがある。
実際、男は誰も寄り付かなかった。
年ごろになり、周りの娘たちが男との付き合いを自慢する中でも、私は一人ぽっちで周りの娘たちからもばかにされていた。
「あれじゃ誰も相手にしないわよね、あんなふうに生まれなくてよかった」
「ほんと、そこらの野良犬なら相手にしてくれるんじゃない」
「あはは、野良犬も嫌がるわよ。馬鹿にするなって」と言って、笑っているのを聞いたことがある。
姉妹たちも陰では私をさげすんでいた。「あの容姿にあの性格、これじゃどうしようもないわよね」と笑いものにしていた。
男兄弟たちの友人で誰かいないか母親が聞いたが、「無理だよ。あれじゃ誰も相手にしないよ」と笑って言ったことも知っている。
家族すら味方はいなかった。
父だけは私の味方だった。父はこのままここにいても皆からさげすまれるだけだと思ったのだろう、私のために仕事を見つけてきてくれた。
父は、ここの領主様である侯爵家の馬の世話係の一人だった。
父のコネを使って、侯爵家の下級メイドになることができた。
仕事は洗濯・掃除がメインだ。掃除と言ってもせいぜい廊下や重要でない部屋、トイレやふろ場が主で、それも本宅ではなく離れがメインだった。
洗濯も侯爵様の物には手を触れさせてもらえず、同じ下級の使用人の服を洗濯する仕事だった。
私たちメイドには、お客様に対する夜伽の仕事もあったが、私が呼ばれることはなかった。
夜伽に呼ばれたメイドが、お客様から謝礼をもらったり、アクセサリーをもらったりしたのを自慢しているのをただ聞いていた。
たまにお客様で暴力的な方がいて、夜伽に行って顔や体に青あざをつけてくるメイドもいたが、結構な慰謝料をもらってホクホク顔をしていたので、まあいいのだろう。
私は毎日下級メイドの班長に指示されて、大体一人で仕事についていた。
まあ、無口で引っ込み思案の私にはよかったのだが。
ある時、班長に呼ばれて、「お前は離宮の離れに派遣されることになった。用意してメイド小屋の前に集まりなさい」と言われた。
王家の離宮は町の郊外にあり、王族が使う場所で、今は王妃様と王女様が住んでいた。
身の回りの物をもって、下級メイドたちが住んでいるメイド小屋の前に行くと、何人かのメイドが集まっていた。
容姿はかなり良かったが、みな、平民出身のメイドたちだった。
一人のメイドが前に立ち「私はお前たちを指揮する筆頭メイドである。お前たちはこれより王家の離宮に行くことになる。なお、仕事場は離宮の端にある離れの維持管理である。その離れ以外に移動することは禁止されている。そこで一人の男が来るのでそのお世話をするように。ちなみにお世話の内容はすべてである」と言った。
ここで言うすべてとは、夜伽も含めてということだ。
「最初に言っておくが、相手は平民だ。シュミット様の友人で、外国人だそうだ。無駄な期待はしない方がいいことを伝えておく」
つまり、貴族様の愛人になろうなどという野心は捨てろということだ。
周りのメイドたちはがっかりした様子だった。
私には全く関係ないが。
離宮に着くと、その離れの屋敷に軟禁に近い形で働くこととなった。
離宮にはメイドも執事も多くいるが、皆貴族か準貴族の出身者ばかり。
私たち平民出が近づくことすら許されない。
この屋敷は離宮の奥に設けられており、周りには林があり、隔離された場所だった。ここからでは外に出ることもできない場所だ。何か曰くのある場所なのだろう。
しばらくして、男の子がやってきた。外国人らしいが、特に変わったところはないようだ。
第2皇子様の学友と聞いたけれど、平民らしい。でも、背も高いし、体もしっかりしている。それなのに幼さも残っていてすごくかわいい、恥ずかしいけれど、ひとめぼれだった。
これが初恋なんだと思ったが、同時に失恋が決定していた。
まあ、私なんか相手にしないよ、そう思った。
夜伽の話を筆頭様がしたようだが、関心がないようだった。
私は淡々と仕事をこなしていった。
夜になるとメイドたちは一つの大部屋で寝ることになっていた。
「離宮勤めというから期待したけど、この屋敷から動けないんじゃしようがないわね」一人のメイドが言った。
「そうよね、お客も男の子が一人、昼は離宮の方に行ってしまうし、私達すごく暇よね」
「あの子、夜伽も求めないし、覚悟はしていたけど気が抜けたわね」
「夜伽に応じたとして、何か利益あると思う?」
「たまたま王子様の学友というだけでしょ。うまくすれば側近として貴族になるかもだけど、シュミット様は第二王子だし、最終的にどこかに養子に出るか、そのまま部屋住みじゃ将来性なしだしね」
「じゃ、夜伽をして、うまいこと取り入って愛人になっても無駄よね」
「あはは、そうよね」
私はベットの中で蒲団にくるまりながら聞いていた。
そんなことない、と心の中で思っていた。
12歳とは思えない体躯に、あたりの柔らかさ、年相応の可愛い顔、初めての相手に彼ならばいいなと思っていた。
まあ、そんな夢のようなことはないだろうけど。
ある時、お世話のため部屋の隅で待機していた私に「夜に来てくれないか」とお客様が行った。
えっ、これって夜伽の希望?私に?
思わず「私をご所望ですか?」と聞いてしまった。
「無理強いするつもりはないよ」少し、おどおどした感じで言うので、「私なんかより、もっと美しいメイドがたくさんおりますし、カール様のお相手にふさわしいと思いますが」と言った。
すると、お客様は冷たい目に変わり、「ごめん、嫌だった?じゃいいや。無理言ってごめんね」といくばくかの金貨を渡そうとしてきた。
私は慌てて「嫌ではありません。すごくうれしいです。本当に私でよろしいのでしょうか」と尋ねると、「私みたいなやつの相手をするなんて嫌だよね。ごめんね、無理言って」と言ったので、「とんでもない!すごくうれしいです。今夜の相手、ぜひとも務めさせていただきます」と言って「それでは用意がありますので」と部屋を飛び出した。
すぐに筆頭様にこのことをお話した。
「あんたが夜伽だって?お客様も変わっているわね」と言いながら、「とりあえずすぐに仕事をやめて、湯あみをしなさい。汚いところのないよう、よく洗うのよ。後、服はこれを着て、この香水をつけなさい」と言って、赤いワンピースの寝間着を渡され、香水を渡された。
「この香水は媚薬効果があるから、必ずつけるのよ」と言われた。
私は同僚のメイドに仕事を頼んで、あとのことをお願いした。
「あんたが夜伽って本当なの」メイドたちはびっくりしたように言った。
うなずくと、「まあ、いいか。特に狙ってなかったし。あんた男としたことあるの?」と聞いたので、ないと答えると、「最初はすごく痛いから。我慢して受け入れるのよ。逃げたり、蹴とばしたらだめだからね」と忠告された。
そんなに痛いのかと尋ねると、「相手の技術にもよるけどめちゃくちゃ痛いらしいわよ。しばらく蟹股で歩くことになるらしいし、血も出るって聞いたわ」と別のメイドが言った。
かなり怖くなったが、せっかくのチャンスです。これを逃せば男に抱かれる機会は一生ないでしょう。
覚悟を決めました。
湯あみを済ませると、体に香水をふりかけ、下着は着けずにワンピースを着た。
お客様の部屋の前まで来るとノックをして、「夜の御勤めに参りました」と言った。声が少し震えていたのだろう、お客様は優しく「本当にいいのかい?今ならやめても問題ないけど、始めたら止まらないよ」というので、「はい、思い存分お楽しみください」そう言ってお客様のそばに寄ってきておもむろに服を脱いだ。
翌朝、「おはよう」と言って額にキスをしてくれた。
「おはようございます、お客様」というと、「僕の名前はカールって言うんだ。カールと呼んでくれると嬉しいな」と笑顔で言うので、はい、「カール様」と言って、赤くなった顔を隠すため、布団にもぐりこんだ。
「名前を教えてくれるかな」と言われたので、「リーネと言います」というと、「リーネ、これからも夜伽お願いできるかな」と言われた。
「はい!」思わず大きな声で言ってしまった。
確かに痛かった。でも気持ちよかった。とにかく幸せだった。
その日から毎夜夜伽をした。
私はカール様の専属メイドになり、ずっと一緒にいることになった。
カール様の部屋につながる別室が私の部屋となり、いつでも呼び出せるようになっていた。まあ、夜はいつも一緒なのだけど。
カール様に連れられて外に出ることになった。
他のメイドからはとてもうらやましがられ、買い物をいろいろと頼まれてしまった。
カール様は私を町一番の服飾店に連れて行き、「この子に似合う服とアクセサリーを頼む」と言って、どんと袋に入った金貨をカウンターに置いた。
店の主人は、普段なら私になんか馬鹿にして目も向けないのに、手をもみ下さんばかりにニコニコといろいろな服をそろえてきた。
アクセサリーもいろいろ揃えてきた。
私はあまりのことに目が回って店員の言うままに着せ替え人形のようになっていた。
カール様はニコニコとすべて買ってくれ、そのうち一枚を着ていくように言った。
アクセサリーもつけて、まるで上級市民のお嬢様になったようだった。
次は市場に行った。そこで頼まれたものを片っ端から買っていった。
お金はあとからメイドたちから徴収しますからと言ったら、「リーネさんがおごりと言って渡せばいいよ。きっとみんなリーネさんに感謝して、いろいろこびてくると思うから。そうすれば、いじめられることはないと思うよ」と少し暗い目で言っていた。
私の実家にも行きたいというので、狭いところですがと言って連れて行った。
実家に行ったところ、母の持病の腰痛がひどく、寝たきりになっていた。カール様が「もしよろしければ治しましょうか」と言って、母も是非と言ったのでカール様が治癒魔法をかけてくれてところ、直ぐに治った。
母は「この痛み、治癒術師様でも治せないと言っていたのに、すごい方だね」と感心していた。
その次に実家に行ったところ、母の腰痛が治ったことを知った町の知り合いが、是非病を直してほしいとお願いされた。治癒術師様でも治せない病気のようだ。
カール様は症状を聞くと、治癒魔法を使い、たちまち直してしまった。
「カール様はとても優秀な治癒術師様だったのですね」と言ったら、「そんなこともないけどね」と苦笑いされていた。
治癒術師、それも腕のいい治癒術師は相当な稼ぎがある。聞くところによると、大邸宅に住んでぜいたくな暮らしをしている者もいると聞く。
カール様の羽振りの良さ原因が分かった。
その後も頼まれて何人か治したら、地元の治癒術師様がやってきて、治療の様子を見せて欲しいと言われた。
さすがにカール様に申し訳ないと思い、断ろうとしたが「別に構わないよ」と言って、治療の様子を見せたら「弟子にしてください」と言い始めた。
カール様は侯爵様のお客様で、第二王子様の友人としてここにきていると言ったのだが、治癒術師様はあきらめなかった。
カール様も弟子は取らないけれどと言って、いろいろ教えていた。
私には何だか全然わからなかったが、治癒術師様はすっかりカール様に心酔し、「先生」と呼ぶようになった。その評判を聞いて、何人もの治癒術師様がカール様の教えを受けるようになった。彼らもカール様を「先生」と呼んで尊敬の目で見ていた。
夏も終わり、カール様は王都に帰ることになった。
この生活も終わりなのかと思っていたら、カール様から「俺の愛人兼使用人として一緒に王都に行ってくれないか」と尋ねられた。
答えはどうしたって?
当然快諾しました。これからもカール様と居られるなんて夢のようです。
その時に聞いたのですがカール様は騎士爵だそうです。なんと私が貴族の愛人になったのです。貴族の愛人になるのは、町娘にとって一つのサクセスストーリなのです。
侯爵様からも了解をもらったらしく、私の家族にも支度金を渡してくれた。
支度金として10万マルを出してくれました。普通の愛人契約ならばせいぜい1000マル、よっぼどのお気に入りでも1万マル出せば近所中の噂になるところが、とんでもない金額を私のために支払ってくれたのです。
更に家族に、母と姉妹たちには貴金属のアクセサリー、父親や兄弟たちにはかなりいい酒と食べ物をプレゼントしてくれた。
家族は私のことを口々にほめそやした。
「本当にあなたは孝行娘だ。産んでよかったよ」母は満面の笑顔で言った。
「いい妹がいてよかったよ」姉妹兄弟は拝まんばかりに感謝していた。
あれだけ馬鹿にしていた娘が、家にこれだけの貢献をしたことで、本当に手のひらを反すように態度が変わったのを見て、少しいい気分になった。
近所どころか町中で私のことは噂になっており、こんな孝行娘はいない、お前も見習えと親に言われたらしく、私を馬鹿にしていた町の娘たちは相当悔しがっているらしいです。
なんか鬱屈した気分が晴れたような気がしました。
しばらくは平和な日々か続いた。私はこの生活に満足していました。
寝物語で言われたのですが、カール様はいずれは王女様を妻にもらうことになっているらしいです。そうすれば、爵位は男爵以上になると言われているそうです。
奥様が嫁いで来られても、そのまま一緒にいてくれるか聞かれたのですが、それは私にとって願ってもないことです。ぜひとも置いてほしいと答えました。
その後です。カール様は戦争に行かれました。
私は留守番です。とてもさみしいです。
しばらくして帰ってきたのですが、直ぐに荷物をまとめるよう言われました。
荷物をカール様の次元収納にしまうと、抱っこされて、空に飛びあがりました。
思わずしがみつきました。
カール様は空が飛べたのです。しばらくはすごい怖く、目をつぶっていましたが、慣れてきて目をうっすら開けると、すごい景色が目に飛び込んできました。
全部見えるのです。何が全部かというと本当に全部です。山も町も畑もまるまる見ることができました。
凄い経験です。
一軒の家の前でカール様は空から降りました。
この家を私にくれるというのです。それと10万マールほどを渡してくれ、「もし僕が帰らなかったら、このお金で当分生活をしてくれ。家もリーネの名義にしてある」と言いました。
ああ、カール様は厳しい戦いに行くのだなと思い、抱き着いて「私、カール様が帰ってくるまで待ちます」と言った。カール様も抱き返してくれた。
そのあとは、お互いの体を求め合いました。あまりに激しかったので私は気を失ってしまいました。
気が付いた時にはカール様はいなくなっていた。
私は泣きました。私はカール様を真剣に愛していたことにその時、気が付いたのでした。
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いかがお過ごしでしょうか。忙しい日々のつかの間の休息になっていれば幸いです。