第14話 作戦と戦いの始まり
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俺は一旦レッドハンド侯爵領に戻ると、このことを伝えた。
「10倍以上の敵に我々を当てて、王子達を皆殺しにするつもりか」侯爵はうめいた。
「大丈夫です。勝てますよ、この戦争」俺は言った。
「どうやって勝つんだ」侯爵は驚いたように聞いてきた。
「ます、おとりの軍の前に砦を建築します。私とこちらにいる土魔法使いを使えば、数日で完成します。そこに敵を引き付けている間に、間道を通ろうとする敵軍を妨害し、行動不能にします。そして、おとりの軍をせん滅し、一挙にハバル州になだれ込みます。カスヒ内湖南岸を占領し、上カスヒ、下カスヒ川に防衛線を築きます」
「兵はどうする?」
「兵は侯爵軍3000名を基本に、現地招集兵と傭兵を集めましょう。現地の民ですが、無理な物資接収により、飢え死にする者が発生する可能性があるそうです。彼らを食料と引き換えに集め、扱いやすいボーガンと長槍をあたえれば、それなりに兵士として使えます。なので、ボーガンと長槍を集めておいてください」
「そんなにうまくいくのか?」
「うまくいかなければ我々は全滅です。あと、もう一つ侯爵様にはお願いがあります」
「なんだ」
「この戦、勝っても第一皇子は我々を解放しないでしょう」
「どういうことだ」
「そのままの兵で、ルキア帝国への攻撃を続けるよう命じるでしょう。場合によっては、侯爵軍を引き上げさせ、現地徴集兵のみで戦えとでも言ってくると思います。第一皇子はシュミット様を何としてでも亡き者にしたいと思われます」
「それでは……」
「申し訳ありませんが、反乱しかありません」
「反乱か……」
「君側の奸を打つ!そのスローガンで第一皇子とその取り巻きの排除を目標にするのです。前回の謁見で王はその実権を第一皇子に取られているようでした。なので王を確保し、他の領地貴族たちを一緒に動かすか、少なくとも中立の立場にもっていけるようにするのです」
「どうやってそれをする」
「とりあえず、頼子の貴族たちと信頼できる領地貴族に反乱の誘いをしておくのがいいでしょう」
「国軍はどうする」
「国軍の中堅幹部はみな領地貴族の2、3男です。彼らに反乱若しくは逃亡させれば、国軍は動けなくなります。そのために、彼らにも侯爵様から工作していただけますようお願いいたします。彼らが反乱を起こしている間に、シュミット様と私が軍を率いて一挙に王都を落とし、第一皇子を捕らえます」
「逃がしたらどうする」
「第一皇子に味方する領地貴族はおりますでしょうか?」
「いや、いないな。奴の領地貴族に対する圧迫には皆反感を持っているからな。領地に現れたら、すぐに捕まえて自分の手柄にするだろう」
「正妃はどこの出身ですか」
「近隣の属国の娘だ。魔石の鉱山を持つ国でな。友好の印として送られてきた女だ。王女だから正室に据えているが、王妃自身には何の力もない」侯爵は言った。
「じゃ逃がしても問題ないですね。王妃の国に逃げたら進攻のいい理由になりますからね」
それまで何も言わなかったシュミット様が言った。
「僕は助かるのかい?」
「助けて見せますよ。安心してください」と俺は安心させるように言った。
この王子ひとの良い、優しい性格で悪い奴じゃないし、ここで助けておけばかなり俺に感謝すると思う。そうすればこの国で安楽な人生が送れるかもしれないからな。ここはひとつ踏ん張ってみようか。
「それで侯爵様、一つ計略があります」
「なんだ、言ってみろ」
「王宮貴族のうち、賄賂に弱い貴族に賄賂を贈って、王子に侯爵が反乱を起そうとしていると噂を立てさせ、更に何人かの貴族に同様の証言をさせるよう進言させます。そのことをもって、侯爵を呼び出し、問答無用で断罪するという手を提案させるのです」
「そんなことを進言させたら、我が家が潰されてしまうではないか!」
「でも王子は本当に反乱の準備をしているとは思わないでしょう。我々の計画が漏れても、この計略の一部だと判断し、放置する可能性が高くなります。反乱計画には、多くの同調者が必要ですが、中には裏切るものが必ず出てきます。かといって、仲間を絞ると反乱の際に兵力が少なく、失敗する可能性が高くなります。それを予防する一つの秘策です。第1皇子に呼び出されたら、理由をつけて参内せず、言い訳の手紙をひたすら送り付けるのです」
侯爵はしばらく考えを巡らせて、「その案採用しよう。わしのほうでうまくやっておく」と言った。
「あと、自動馬車をできるだけたくさん集めてください」
「自動馬車?わかったが何に使うんだ」
「これはこの作戦の切り札です」と言って、ニヤリとした。
あといくつかお願いし、作戦会議は終了した。
シュミット様も分からないなりに積極的に会議に加わった。そして、この作戦の全権を侯爵と私に一任した。うん、やる気はあるし、人に任せる度量もある。良い補助が付けば結構いい王様になるのではないかと思った。
一方、侯爵は二人を見て微笑みながら心の中で言った。
(カール、こいつは掘り出し物だ。この作戦がうまくいけば我々の立場が強化され、わしがその代表として、力をふるうことになる。失敗しても、最悪何とかなる策はある。まあ、お手並み拝見というところか)
俺は土魔法使いを片っ端から雇って現地に急行した。
俺が要塞の土台を作り、他の魔法使いが整えていく、これを繰り返して3日で街道の山頂に要塞を建築した。
3重の防壁と出城を備え、堀を設け、罠はそこら中に設置しており、3000の兵がこもれば、数か月は戦えるよう作成した。当然水場もあり、かなり深い位置まで井戸を何本も掘ってあった。
食料や武具の予備は足りなかったが、とりあえず3000の兵が来るのを待って、俺は次の工作に向かった。
敵の別動隊は山道を登り始めていた。もう10月半ばになっていた。補給がうまくいかなかったのだろう。
俺は、音魔法を使って、山を飛び回りながら崖を崩し、偽の通路を作り、最後に最後尾の部隊が昇り始めると、通り終わった通路を壊し、補給基地に襲い掛かった。
音魔法を使い、補給所にいた敵兵を皆殺しにした。
補給物資は根こそぎ奪った。
これだけしておけば、間道の敵は無事にはすまないだろう。全滅とはいかないまでも半減したうえ、戦闘力はほぼ無くすのではないかと判断した。
一休みした後、敵に気づかれないよう軍の様子を探った。
狙いは魔法部隊だ。
魔法部隊の連中は、体力温存のため、後ろの方で馬車に乗っていた。タイミングを合わせて大きな土砂崩れを起こし、更に逃げられないよう音魔法を同時に魔法使いたちに向けて放っておいた。
音魔法に気づいて、レジストした者もいたが、直後の土砂崩れに対応できず魔法部隊は全滅した。とりあえずこれでいいかと、奪った物資をもって要塞に戻った。要塞ではシュミット様が迎えてくれた。
シュミット様が心配して聞いてきたが、万事良好と言って、奪った物資を出した。
大量の物資は兵たちの士気を高めた。これで1年は戦えるだろう。
俺は、魔力の回復をまち、近づいてくる敵兵約1万に攻撃を開始した。
とりあえず、ゴレーム兵を突っ込ませ、敵の前衛部隊を混乱させ、その間後方に回り、敵の補給部隊に爆裂石を仕込んだ爆弾と、燃える水を仕込んだ陶器製の瓶をまき散らした。
補給物資を積んだ馬車は次々と燃えて行った。
俺は、要塞に引き上げた。
さて、敵はどう出るかな。
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