第13話 ルキア帝国潜入と情報収集
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さて、俺は音魔法を使い、北の地に向かった。
北はルキア帝国との国境になっているが、両国の間には死者の山脈が横たわっている。
死者の山脈とはかなり物騒な名前だが、5000mから6000m級の山が連なる山脈で、土砂崩れや雪崩も多く、冬ともなれば雪に覆われて道もなくなるような危険な山だ。
遭難した旅人や商人の死体が数多く転がっていることから死者の山脈と呼ばれていた。
俺は、その死者の山脈を飛び超え、ルキアの国境の町に着いた。
上から見ると、ものすごい大軍が国境にいた。4万はいるだろうか、よく見ると、どうも二手に分かれているようだ。
一万は比較的安全な山道を目立つように進み、それを迎撃しようとする我々と戦うようで、その間にもう3万が間道を抜けて、我々の背後に回り、包囲して我々をせん滅するつもりのようだった。
単純と言えば単純だが、うまくいけば、北部国境地帯はルキア帝国の支配下に落ちる可能性がある。
街に降りて、商人に化け、酒場や商業ギルドで情報収集を行ったが、兵隊が多数来ていること、ハバル州一帯に臨時の徴税があり、大量の食料、物資が集められていること、軍が二手に分かれて駐屯していることが分かった。
「ただでさえ高い税金が、この臨時増税で村にあった食料を根こそぎ取られてしまったらしい」「こりゃ今年の冬は餓死者が相当出るな」ここは商業ギルドの付属の商談場、酒や飲食もできるので酒場のようなものだが、商人たちの一団にまぎれて酒をおごると、ペラペラしゃべった。
「その分、商人にとっては儲け時ですね」俺がそう持ち掛けると、「冗談じゃない。俺もそう思ってモスコ州からはるばる来たが、買値は半額に決められているし、持っている物資はすべて出せと脅されて、荷物をすべて没収されたよ」とぼやいた。
ちなみにモスコ州はルキア帝国の中心にある州で、帝都のある場所だ。
「でもまあ、市価の半値ならば、そんな大赤字にはならないでしょう」といった。だいたい商人の扱う品は原価が2、3割高くても5割を超えないのが常識だったからだ。まあ、売りさばくのに諸経費がいろいろ掛かるし、そこそこの利益を上げようと考えるとそれが限界だった。
「現金だったらな、これ見てくれよ」と見せてくれたのは一枚の紙きれだった。
「現金は、これを王都にある軍務省にもっていって換金するようにだとさ。おまけに見てくれ」と指さした様には、換金可能開始日が書かれており、なんと6か月後に設定されていた。
「こりゃひどいな」俺がそう言うと、「そうだろう。今回は大失敗だった」とうなだれていた。
「まあ、もう一杯飲みなよ。俺のおごりだ」というと、手のひらを反すように、にやぁと笑うと「おう、済まねえな、あんちゃん」と言って、高い酒を注文していた。
「まあ、こいつすぐに商業ギルドに情報を流して、謝礼をたんまりもらったそうだからな」と別の商人がいい、「この話を来たばかりの商人に聞かせて酒をおごらせているしな」ともう一人の商人も言った。
「商人ギルドはあちこちに情報を流したから物資の集まりが悪いんだと。軍務大臣が怒って商人ギルドに兵を差し向けようとしたら、商工大臣や内務大臣が王に言ってやめさせたそうだ」商業ギルドの職員が口をはさんできた。
「あのあたりの貴族たちは商人ギルドとずぶずぶの関係だからな。商業ギルドも相当賄賂や金になる情報を渡しているらしいからな。貴族としては金の生る木を切られちゃたまらんというわけか」
「だから軍はこのあたりの商店から片っ端から商品を強制買い付けしているそうだ。まあ、みんな知っているから商品を隠してしまっているようだが」
「そうすると、ここでは商売は難しいな。わざわざ来たのに、なんてこった」俺がぼやくと、「ならばうちに売りなよ。ギルド相手にさすがに軍も手を出せないからな」と横を歩いていたギルドの職員が突然言った。
「定価で買ってくれるのかい?」俺が聞くと、「残念だが7掛けだ。まあ、軍に売るよりいいし、現金払いだぜ」とさっき口をはさんできたギルド員が言った。
「そうだな、頼みますよ」と言って、商業ギルドに預けてある小さな荷馬車から商品を取り出した。
この荷馬車、普段は次元袋に入れてあるが、商人ぽくするために取り出してギルドに預けてあるわけだ。
「へえ、自動馬車が。小型だが結構いい物じゃないか。商品は酒と嗜好品か。これなら高く買ってやれるぞ」ギルド員は感心したように言った。
「ありがとうございます。これらの商品は軍に卸すのですか」
「軍には卸さないな。商業ギルドには軍も手を出せないから無理やりは接収できないから、これは闇で売るんだ」
「ヤミ?」
「今、このあたりは物資がとても不足している。町の民も近隣の村の民も物がなくて困っている。だからヤミ市場に卸して、彼らに売るんだ」
闇経済が発達しているわけだ。軍はこのことを知らないから物資の調達に苦労することになるだろう。
こうやって、雑談をしながらいろいろな情報を仕入れた。
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