うらないあたる
空が割ける。
わたしは観ていないし、はじめて聴いた。
けれど、依頼があるのなら信じてこたえる。
依頼は彼を助けることだ。
実際は見捨ててくれと頼まれたのだけど、そこはわたしが助けると決めたのだから、そうしよう。
とりあえず、ヒロスターニャに助けると宣言しよう。
また笑われそうだ。
訊いていないことがたくさんあるけれど、とりあえず、これからだ。
「名前、聴いてなかったわ」
「ハッシュリシアス。出身や階級はあとででいいかな」
「ライラリックュスです。わたしはウラナイ師が本業ですね」
二人が自己紹介をしてくれる。
わたしのは、なにを伝えればいいのだろうか。
こういうとき、まとめるのが上手くいかない。
「あまり上手く言えないけど、依頼を受けてそれを達成する仕事をしているの。ヒュンリアよ」
「副業じゃなくて、それが仕事なんだね」
「冒険者のいく冒険チームや商人たちの商館とは違うのですか」
「ええ。個人でしてるし、グループに誘われてもその一回きりの参加にしているの」
「そうなのですね」
「あなたは、占いのグループに参加してるの」
「そうです。それ以外もいくつかしてます」
「幅広く活動してるのね。あなたは、このヒトの話し、どこまで信じるの」
「おいおい」
「総ては、なかなかですね。でも、わたしの方から声をかけたし、お姫さまには会いたいかしら」
「そう簡単には、会えないぞ」
「ウラナイに興味ないですか」
「姫は、どうかな。星と月はよく観てるけどな」
「一応当たると評判なのですよ。一応大規模なウラナイに関わったこともあります」
「一応ってなんだよ」
「……しっかり当たります、関わりましたって言うとこの世の中、批判されるのです」
「それは……あるな」
「二人とも、いますごい切ない表情してるわよ」
「「いろいろある」」
なんだか、心当たりがいろいろあるらしい。
わたしもあるとは想うけれど、仕事に関わりのあることは、それが批判される内容になってもあまり構わない。
「ハッシュリシアスは、それじゃ空が割けるところを探しているの?」
「いいや。いま観ているのは、街や竜たちのほうだな」
「そうです」
「どういうことなの?」
「昨日の霧は、こちらの街には来ていないみたいだけど、それ以外にも異変がないか見回っている。それに竜たちも静かなんだ」
「静か……」
「霧やニュースだけのせいにしては、上空に来ない。いまは羽休めかもしれないけど、最後尾たちは、街に降りられたのかな」
「たしかに、そうね。わたしはニュースは途中で見るのをやめてしまったけれど、あの場所にいた全員を助けられたのかしら」
「けっこうな集団でした。一か所では無理ですね。いくつかの街に散らばったのかも」
「いまは、また集会所で会議かな」
「それで、空を観察していたのね」
「ここの街の酒場は、どの辺りなの?」
「中心部から少し離れた位置の水場のある辺りらしいと聞いた」
「いってみましょうよ」
「荷物はどうする?」
「……一度戻ってまとめましょう」
「まだ、すぐに飛ぶと決まってるわけじゃないだろ?それに、竜たちだって休んでるかも」
「まってください」
ライラリックュスが、手を広げて押さえる。
「どうしたの?」
「ウラナイ、しますね」
「いいけれど、どういったことをウラナウの?」
「そうですね。なにか手持ちのをひとつ」
なにか手持ちの荷物を渡すらしい。
どれでもいいのだろうか。
「じゃぁ、これ」
わたしは、竜の背中に乗るときに使うナイフを差し出す。
特別なものだ。
「じゃ、ぼくは」
ハッシュリシアスは、アクセサリーのようなものを出す。
これで、なにをするんだろう。
「壊さないから安心してください。いまから少しだけ。質問を少しだけしますので、答えられたら、答えなくても平気です」
「はい」
「ああ」
スウッと息を吸い込むと、ライラリックュスの眼の色が変わる。
不思議な色だ。
表情はそのままなのに、どこか彷徨っているのがわかる。
これがウラナイ?
「目的地は決まっていますか」
「はい」
「空は嫌いですか」
「いいえ」
「昨日とさらに前のことは覚えていますか」
「はい」
「子どものときに竜は視ましたか」
「はい」
それぞれ答えると、まばたきする。
もう眼の色は戻っていた。
「ありがとうございます」
「……なにかわかったの」
「ハッシュリシアスは、お姫さまにとって、少し特別なのね」
驚いているのがわかる。
「あなたは、頼みでひどい状況で会いすぎているわ。時間が変わってもまた大変なことに遭うのね」
「……驚くけれど、これってウラナイ?」
「もっと買いものしたかったけれど、わたしのウラナイでは、近いうちに出発します。荷物は運びやすくしたほうがよさそう。はい。返しますね」
受けとると、ハッシュリシアスも不思議そうな表情をしている。
「え〜と、思ってた占いと違うのだけど、どういうことなの?」
「わたしには、幾つかウラナイの眼の色があるのだけど、いまのはここ数日に起こることのイメージですね。装備品からあなたたちの簡単なこれまでを視ました」
占い師ってこういうのだっけと想う。
予知とも違うし、どれかというとシンパシーに近いのかもしれない。
「これ、信じたほうがいいかしら?」
「どうだろな」
「あのぉ本人目の前にして言いますか?」
「占いって、当たるも当たらないもあるだろ」
そうなのよね。
わたしも見るのはいいのだけど、それを全て信じて行動したりとか、赤色がいい白色がいいと言われても、無理にその色を選ぶことはしない。
占いってそれくらいとは思う。
「そうですね。占いは数値、統計と経験やその本人の能力にかなり左右されますね。それじゃ、ひとつだけ。わたしの竜と契約した眼もあります。わたしのを認めてくれたことが自信なんです」
妙に自信あり気にそう言い切る。
たしかに竜たちが認めている者は、かなりの力を持っていることになる。
「わかったわ。荷物は戻ってまとめたり軽くしたりするわ。あなたは?」
「あぁ、そうだな。ここに降りたのは偶然だし、情報収集もできたし」
ハッシュリシアスは、手に持っているアクセサリーを大切にしまうと、空を観ている。
どこか、さっきとは違う表情だ。
もしかしたら、お姫さまのことを思い出しているのかもしれない。
「ライラリックュスも、戻るのよね?」
「ええ、そうします。集合はどちらで?」
そういえば、またこの三人で集まるのだろうか。
ライラリックュスは、もうそうするつもりらしい。
「そうね……ハッシュリシアスは、どこに泊まったの?」
「向こうの街反対の少し古い館だな」
「そう。じゃそこの場所教えて。そこの前にいきます」
「わかった。先に少し観ておきたい場所もあるから、いなかったら、その前でいてくれると助かるな」
わたしの手帳を渡すと、そこに場所の名前を書いてくれる。
ライラリックュスも手持ちのバックから、なにかを出して、書いてもらうようだ。
「それじゃ」
二人とわかれて、ビルを降りていく。
荷物を早めに片付けなくてはいけない。
それに宿のオーナーにも話しをしにいって、絵の件は、引き続き見つけることを言いにいかなくては。
建物を降りていき、外にでた。
帰り道がわかるだろうかと、不安に思いつつ歩きだすと、後ろから声が聴こえてくる。
「ねぇ」
振り向くと、ハッシュリシアスだ。
立ち止まり、不思議に思う。
「どうしたの? 慌てて」
「そうだったと思い出した」
「うん。歩きながらでいい?」
「あ、そうだな。リーダーのことなんだけどさ」
「あ、はい」
歩きながら、話しをしてみる。
「おそらくなんだけど、やっぱりきみなんだと想う」
「わたし?」
「あのとき空で集まってるときだけど、何名かに聴いてまわっていたんだ」
「そうね」
ハッシュリシアスが上空にいる間、いろんなヒトに話しかけていたのを思い出す。
よく話すヒトなんだと思ったけれど、情報収集が目的なら、当然リーダーの話しも詳しく聞いていたのだろう。
「先頭と胴体部分と、最後尾におおきく分かれていただろう?」
「ええ、そうだったわ」
わたしたちは胴体部分のさらに、いくつか分かれていたグループだ。
「胴体部分のグループの二機がリーダーだと言っていたんだ」
「ふたつ」
「きみと、こちらのことなんだろう」
「ええ、でもなにも聞いていないわ」
「集めたのや目的地までは、先頭のリーダーさ。話していたのは、竜の集合全体のことだったんだよ」
「混乱してくるけど、じゃあなたの考えでは、わたしとあなたの竜が、あの集団全体のまとめ役だったということね?」
「……そう考えれば、降りたときにトラブルがなかったのは、ここが中心だったからなんじゃないかな」
「わかった。聞いてみる」
「ああ、それから」
「わかってる。あの子のウラナイよね」
「その通りなら、きっと」
「「すぐに飛ぶ」」
同じ考えだった。
隣をいく彼とは、知り合ったばかりだけど、これから長い関係になりそうな気がする。
「早めにいくわね」
「こちらも、もう少し調べたいんだ」
「速くにね」
「わかってる」
それから、とハッシュリシアスは、少しわたしの腕をとる。
歩くのが速かったのだろうか。
交差点を渡る前に、立ち止まる。
「え〜と?」
「さっきのありがとう」
「どれのことかしら」
「見捨ていいけど助けるって。ありがとう。それじゃ」
それだけ言って、交差点を走っていってしまう。
「……お姫さまも大変ね」
不器用なヒトだ。
助けるわ。
依頼は仕事だけど、助けるはプライベートな気もする。
どちらだろう。
いまはまだよくわからないため、わたしも走る。
宿につくと、落ち着きたくて温かいハーブティーを入れたけれど、部屋の散らかし具合をみて、少し残念に想う。
なんでもっとキレイに使わないかな。
ベット周りからはじめるか。
ベット、テーブル、キッチン掃除とだんだんと部屋をキレイにしていき、ハーブティーを飲むともう冷めていた。
オーナーに話しに一度でると、ハーブティーのお土産をもらってしまう。
持ち帰ってから、それもバックにしまい、部屋をもう一度見回してみる。
「なんだか、少ししかいなかったわね」
玄関をでるとき、少しだけ寂しさがあった。
合い鍵で閉めると、オーナーに鍵を返しにいく。
「ありがとうございました」
「慌ただしいです。なにかありましたか」
「いいえ。常にこんな感じですよ」
「そっかぁ。これ」
さっきのハーブティーのほかに、また違うのをもらってしまった。
もらってばかりいる。
「ありがとうございます」
「今度竜にもゆっくりあいさつさせてください」
「はい!」
気持ちを落ち着けて、オーナーの部屋をでると、分かれた交差点の方向に向かっていく。
ライラリックュスは、もう来ているだろうか。
ライラリックュスと合流して、占いの話しを聞くこと少しの間。
ハッシュリシアスがなかなかでてこない。
ライラリックュスが言われたのと同じ場所なため、ここで間違いないだろう。
なかなか旧い館ではあるものの、立派で驚いてしまう。
宿とは言っていたから、泊まれる場所なのだろうけれど、ハッシュリシアスは、けっこう位が高いのだろうか。
そんなまさか。
まさかね。
「それで、具体化されるとイメージがカタチになるから……」
「あっ」
ようやくでてきた。
「おそい」
「おそいです」
「ま……待たせたな」
「やり直し」
「えっ?」
ほら、と館の入り口に押しこむ。
ハッシュリシアスは後ろを向いて、一度うなってから、こちらを向く。
「お、お待たせしてごめんなさい」
「おそい」
「おう。なかでもあるんだよ、いろいろ」
「お姫さま、来てるんですか」
「いや、お姫さまは国で激務がある」
「ゆったりティータイムとか」
「いまは、そんな感じじゃないな。たぶん頭抱えて、青くなってるかもな」
「大変なんだね」
「ウラナイ師、専属っていらないですか?」
「商売上手だな」
「そういうのってあなたは、自分でわかることはないの?」
「そういうの?」
「これから専属になるとか、ひどい目に遭うとか、商売繁盛とか」
「前にも何度か試してみましたが、自身のウラナイっていうのは反映されないのか、返って選択肢がありすぎるのか、上手く機能しないんですよね」
「ふ〜ん、そういうものなのね」
「そうです……たぶん」
「まぁ……戻ることがあったら、伝えてみるな」
「あら、優しいです」
「お姫さまも苦労続きだから、なにか頼りになるものもあるもいいし」
「あなたは、一番の頼りなんじゃないの?」
「いや……話し相手くらいだよ」
「ふ〜ん?」
「なんか、照れちゃいますね」
「なんだよ」
どう見てみても、お姫さまのことを大切に想ってそうだ。
ハッシュリシアスが、どういうヒトかなんてまだ、ほとんどなにも知らないけれど、護衛なのか頼まれたのか、お姫さまのことを想っての行動なのだと想う。
「あなたがそれでいいのなら、いいのよ」
「そうですよ」
「なんの話しなんだ」
「急ぎましょ」
「それなんだが……」
「どうしました」
「少しだけ待てるか」
「……ええ、いいわよ」
「わかった」
「あまりかかるなら、置いていくわね」
「それは、いや、そんなにはかからない」
「それどういうこと」
「ああ」
ハッシュリシアスが、なにか荷物のバックの隣にあるものをこちらに持って見せてくる。
「それ、生きてるの」
「きれいです」
観ると、小さくて丸い器のようなものに入って小さい海月が数匹泳いでいる。
「やっぱり返してこようかな」
「もらったのかしら」
「館にある水槽にいつの間にかいたそうなんだ。ほかの水槽のとケンカするかもだからって渡されてしまったよ。海に逃すなり飼うなり勝手にしていいよっていうんだけど」
「よかったじゃない」
「うわぁきれい」
「いやいや、これずっと持ってるのか?」
「それしかないわね」
「うん、そうなります」
「困ったな。これから空かもだぞ」
「一緒に連れていっちゃえばいいよ」
「いや、二人こいつら飼わないか」
「いや、いいです」
「う〜ん、いまはちょっと」
「だよなぁ。どうするかなぁ」
「一緒にいけばいいです」
「そうね」
「乗りながら、こいつらの世話するのか? 無理な気がするんだが」
「平気よ、うん……なんか喜んでるし」
「そうですよ……丈夫そうだし」
「それなら、二人ともこれあずか……」
「「いえ、いいです」」
「だよなぁ」
ハッシュリシアスは悩みつつも簡単な容器に入っている海月たちを落とさないように、別のバックにしまった。
「水入ってるから、戻ってからでも水取り替えたほうがいいですよ」
「なに食べるのかしら」
「海月は、プランクトン?」
「エサ探してあげなくちゃね」
「なんでそんなにノリ気なんだよ」
「「海月可愛いくない?」」
「いや可愛いよな」
「いきましょ」
ライラリックュスとは、わたし気があうかもしれない。
ハッシュリシアスは、荷物が多いため、少しだけ持ってあげる。
竜たちは、またここの街の集会所だろうか。
契約はしてあるため、喚べば無視されなければくるのだけど、喚んだら喚んだあと、なんだと聴かれるときがあるため、探すことにしている。
「ここの集会所の場所は水場の近くだったわね」
「買いものはできたのか」
「いいわ。あまり荷物増やしても」
「わたしは、買いました」
「そうか。ここはいい地酒があるとか聴いたから、あちらはご機嫌かな」
「わたしの竜は、あまり飲まないようにしてるらしいわ」
「飛ぶとき事故に遭うものね」
「いいえ、暴れるからだって」
「……平気かな」
「平気よ。暴れてたら誰か騒ぐでしょ」
「いつかの絵本を思い出したな。ヤメテおこう」
「なにそれ? 気になる」
「かなり昔におつきのに、読んでもらったような記憶だよ」
お城に住むヒトは、話しがいろいろ違うようだ。
お姫さまの側にいるのは、随分と前かららしい。
荷物を持ちながらなため、歩きながら話すと、街中はすっかり賑やかになっていた。
昨晩からの竜と毒素の霧の話しは、落ち着いたのかもしれない。
そう思っておこう。
ライラリックュスとわたしで、街中のショップについて話しをしているうちに、集会所近くまで来たらしい。
外の周囲にも竜たちがいるため、ここだとわかる。
「つきましたね」
「荷物ありがとう」
「いいえ」
それで、と荷物を一度置いてから、誰が呼びかけにいくか話そうかと思っていたところ、中からおおきな音がする。
ケンカでもしているのだろうか。
少し待つと、中から竜たちがでてくる。
解散したらしい。
見知った顔ヒロスターニャが、少し機嫌の悪そうにしてでてきた。




