さいんのないえ
起きてから、洗面などをこなしていき、テーブルに載せてある端末のニュースをチェックする。
「はぁ」
ため息をついてしまう。
依頼を放って置いて関わってしまったこともだけど、事の大きさがそれを余計に感じることになる。
「厄介なことね」
朝のニュース一覧は、すべて昨日の救出のことで並べられていて、兵士たちの症状の説明や竜の集団の写真と続いている。
わたしの写真もいつ撮られたのか、何枚かある。
というかたくさんある。
写真だけなら、まだいいのかもしれない。
「なんでかなぁ」
一度飲みものを取りにいき、コップを使いながら、戻ってから端末の作成されたニュース記事を読むも、またため息をしそうになった。
記事の全体は、驚くものも多い。
お城の情勢や兵士たちの様子、使いに出された竜の話しなど知らない部分もある。
しかし、ここまで悩むのは、別のことだ。
先頭集団で引っ張った竜のグループのメンバーの話しの記事はあったものの少しだけであり、街で降りて兵士たちを渡したわたしの写真と記事がおおきくなり、なぜかそのわたしが今回のリーダーのような扱いになっている。
そして、写真も何枚もある。
どれだけ注目されてるのよ。
「竜のリーダー、賢明な判断」
「街のヒトに指示をだす姿」
「降りたつ美少女」
「毒と女の子」
見出しを読むも、恥ずかしくなる。
どうしてこんなニュースになってるんだろう。
まさかわたしの竜がおしゃべりしたはずはないのだから、リーダーの誘導があったのか、それかこのデータ作成の意図があるのだろう。
「街に、でたくない」
飲みものをぐいっと飲むと端末を暗くして、またベットに倒れていようかと考える。
昨日夜にわかれてから竜のヒロスターニャは来ないから、またこの街にある酒場に顔を出しているか、まだ寝ているのかもしれない。
ベットに移動して、座ってバックの中身を確認しながら手帳を取り出して、昨日の出来事を整理してみる。
お城の兵士を捜索するよう頼まれた竜の乗り手がいて、すぐに崖と山沿いで発見したのだろう。
けれど、人数が多すぎて自身だけでは救えないと考えて、数を集めようと思いついた。
城に呼びにいってからでは、時間がかかり過ぎると気づいて、わたしたちのいた街の酒場に駆けこんだ。
でも、毒素のある霧の中にいかせるには、拒む竜たちも多い。
だから、有名なリーダーに儲け話しとして伝えて、すぐに出発させた。
「兵士たちは、あの場所のレア鉱石や魔力結晶を採りにいったのよね」
なんだか、不穏だ。
勘づいたわたしたちのグループやリーダーはすごいけど、いままでにみつかっていなかったレア鉱石が大量にあるなんて、なにか起こっていたのだろうか。
バックから、小さめな袋に入れたそれを取り出してみる。
ヒロスターニャに言われて、降りた側にあるものだけ拾い集めたものだ。
これだけでも、けっこうな価値がある。
いま頃は危険地帯だと承知で、あの場所に訪れて採掘する輩が、たくさんでてくるだろう。
「そうだわ」
手帳をめくるとアオイと書かれていて、意識をあの少女のことに戻していく。
異界にあるといわれるアオイハナを探してみるにはその特徴か、せめて文献などなにか残っていないか、みてみる必要がありそう。
文献を調べるなら、おおきい図書館か、あとはそういった伝説のような話しに詳しいヒトにたずねるか。
少し思いあたる者はいるけれど、会いにいくには苦労することになる。
「文献にすると、ありそうな場所ってどこになるかしら」
また端末を開こうとして、だけど開くのをヤメにする。
「はぁ」
何度めかのため息をついてしまい、嫌気がさしてきて、手帳にいくつか思いついたことを書きこみして、バックにしまった。
「……寝よう」
もしかしたら、眠りが浅かったのかもしれない。
もう少し寝てみればいいかと、あまり動かない頭で、ベットで横になろうかとしたところで、扉を叩く音が聴こえてきた。
ここは客室だから、わたしに用があるのだとは思うけれど、外に顔をだしたくない。
でも、三度ほど繰り返しされるため、ノロノロと立ち上がり扉をあける。
「起きてましたか?」
「あ……はい」
「昨晩は、お疲れさまでしたね」
「はい」
「ここに来るだけで、もう何名のかたにも貴女のことを訊ねられてしまいました」
ニコっと笑って話されるため、嫌味ではないのだろうけれど、ニュースで知ったヒトが、外で聞いてまわっているのかと思うと、どうにも落ち着かない。
「そうなんですね」
「あまり、寝られませんでしたか?」
心配そうに、わたしの様子をみる。
この客室を案内してくれた、ここの女性のオーナーは、まだ年齢が若く格好も軽装なため、話しはしやすそうだ。
それでも、あまり詳しく話しをする気分ではなくて、そのままを伝えてしまう。
「いま少し寝ようかと。寝られなかったのかもしれません」
「そうですか」
ちらっと部屋をみるため、なにか用ができたのかもしれない。
仕方なく、言葉をつけたす。
「入りますか?」
「え、いま寝るところですよね。またお邪魔します」
「いいえ。実はそんなに寝られるかもわからないんです」
「わかりました」
わたしが扉をおおきめに開いて招き入れる。
「なにか入れますね」
「わたしがしますよ」
「……平気です。少しは気分転換になるかも」
「そうですか。お願いします」
小さめなキッチンに回ると、結晶部分に手をあてる。
キッチンの上に載せてあるポットが、少しずつ温まる。
コトコト。
ポコポコポコ。
その間にカップをひとつ準備しておく。
沸くまで空き時間があるも、あまり気にしていないのか、特に話しはしないようだ。
オーナーは、自分でデザインしたのだろう部屋を眺めている。
一応荷物が出しっぱなしになっているけれど、なにも言われない。
来客があるなら、もう少しシャンとしたほうがよかったかな。
ボーッとそんなことを考える。
沸いたポットをとめると、カップに温かいハーブティーを入れる。
わたしのも入れ直してから、テーブルに持っていく。
「お待たせしました」
「いいえ。美味しそうですね」
まだ熱いからすぐには飲めないため、とりあえず座ることにする。
「あまり片付いてなくて」
「いいですよ。そのための部屋なんですから」
少し眼を細めて話すオーナーは、見た目はとても若くて、わたしより歳が若いだろう。
声は高くてキレイでいて、宿のオーナーというよりは、歌手をやっていそうなくらいだ。
「客室を用意していただいて、ありがとうございます」
「ははっなんだか急かしてしまいましたね。気にしないでください。こちらが感謝しているんですよ」
「……昨日のことですよね」
「そうです」
「わたし、なにもわかっていなくて」
「毒素のある霧のなか、みなさまが助けて下さり、兵士やお城のひとびとはとても感謝しています」
「あの、症状は平気なんでしょうか?」
「あまりよくない者もいますが、対処が早かったため、生命は無事のようです」
「それは、よかったです」
「もしかして、あまり外にでたくないようですか?」
「ええ、実は」
「納得です。兵士のお二人がお礼をしたいそうです」
「お礼って、まだ治ってないんでしょう?」
「意識ははっきりしてますから、数日中には、復帰できるらしいですね」
「それは、よかったのかな。お礼は、あまり気にしなくてよいのに。話しはそのことなんですよね?」
少し首をかしげたあと、うなづく。
「そのこと以外もあります。早めに終わらせますね」
「いいえ、ゆっくりでいいです。あまりヒトには会いたくないのですが、話しはしたいんです」
伝わったのだろうか。
カップを持ち、少しのんびりそれを飲んでいる。
基本グループを組むのは得意ではなくて、特に大きい数ほどニガテだ。
今回のは、わたしにとってはかなりのイレギュラーだ。
ヒロスターニャは、それがわかっていて参加したのだろうから、今回のことはなにか怪しんでいるのだろう。
竜の経験豊富な知識は、わたしにはわからないことだらけだけれど、任せてひどいことになっても、これまで命知らずなことはしなかった。
「ほかの乗り手の方と、少し違うんですね」
「えっ」
「ここの街にも、ときどき降りて来られるんですが、なんか違うんですよね」
「どう違うんでしょうか」
「リーダー? じゃなくて、信頼じゃなくて」
「変なところがあるんですか?」
「あぁ! 竜との距離感!」
「距離感といわれても、どう違うんですか」
「降りて来られて、すぐのときに、話し合われていたでしょう」
「ええ、たしかに」
「ほかの方ってもっと淡白で、気を使うというか、臆病なのかな」
「勝算あり、だから」
「えと……勝算?」
「ヒロスターニャは上手く言えないのですが、特別なんです」
「特別な竜?」
「種類とかもなのかしら。よくわかってないのですが、血の契約も鎖も、持っている存在が、わたしの知る者たちとは違うんです」
「ぜひ聴かせて下さい!」
「その、上手く表現できないんです」
「そうなんですね」
カップがだいぶ飲みやすくなり、少しずつ口につける。
いい香りが刺激になり、さきほどよりは、頭が冴えてくる。
やはり寝不足だったのかもしれない。
「少し気分がよくなりました」
「それはよかったです」
「あの、それでなにか」
「そうですよね! 実は、頼みたいことができてしまいました」
「ご依頼ですか」
「いいえ。話しを聴いてくださるだけでいいです。ただ、もし少し空きができたときにでいいのです」
「それじゃ依頼というよりは、みつけられたら、ということですね」
「はい」
まっすぐにこちらを見る彼女は、なにも意図などなさそうだ。
もしかしたら竜に対して興味があるだけで、オーナーの仕事がいそがしいのかもしれない。
「わかりました。こちらでお世話にもなりましたし、お話しして下さい」
「絵を探しているのです。それか絵描きさまです」
「絵ですか?」
「少しお借りしてもよろしいですか」
「どうぞ」
テーブルに置いてある端末を開くと、自身の持っている端末も取りだして、なにかを転送している。
「こちらに転送しました。こちらです」
端末のファイルを開いたらしく、絵が表示されている。
「これは、どうされたのですか」
「……わけあって、売られてしまったのです。でも、思い返して後悔しているんです」
端末から手を離すと、うつむいてしまう。
さっきまでの明るさなどなく、ひどく落ち込んでいる。
「お名前は、わからないんですか」
「それが……作者不明のもので、サインも書いてあっても読めずにいたんです」
わたしは、画像を拡大してみるもサインが見当たらない。
小さい文字なのだろうか。
「……映ってないんです」
「えっ?」
「サインを探して、どの部分をみてもわからないんです。たしかに書いてあったはずの場所も、いま観るとなにもないんです」
「それは、不思議ですね」
「……無理なのかもしれません」
「無理とは?」
「その絵、偶然に旅人からいただいたものなんです。たしかなにかのお礼に、と。しばらくは、飾る場所に迷いしまってあったのですが、飾りはじめて、とても人気があって」
「はい」
「それを観たあるひとがどうしても必要だから高くていいからと、強引に迫られてしまい、高値で承知したのです。あきらめてもらえばよかった」
「参考にですが、なにかのヒントになるかも。高値っていくらくらいの?」
「……わたしの持つ土地と同じくらいで、館もひとつ建ってしまいます」
「……と、とてもそれは、なんとも」
「ええ。それでも余る価値があったかと。けれど、値段ではなくてどうしてももう一度、しっかりと観たい……」
途中から、泣き声まじりになってしまっている。
「わかりました。応えられるかわかりませんが、わたし、聴いてまわることにします」
「ほんとですか!?」
「こうみえて、わたし出逢うんです」
「であい……いいですね。わたしも繋いでいただいてもいいですか?」
「一緒にいい生命の欠片を過ごしましょ」
「いい欠片ですね」
少し気持ちを落ち着くことができたみたいだ。
泣き笑いのような表情で、こちらを見つめてくる。
「そう! ひとつ」
「はい、なんでしょうか」
「アオイハナってなにかご存知ないですか」
「アオイ?」
「はい」
「わかりません。お調べものですか」
「もし、話しを聴くことがあれば、覚えていてくださると嬉しいです」
「わかりました。朝から押しかけてしまってごめんなさい」
「いいえ! お話しできて、少しだけ気持ち浮上できました」
ニコリとすると、目元を少し抑えてから立ち上がり、丁寧に頭を下げてから扉に向かう。
出るときには、手をふってくれる。
彼女が去ってから、あと片付けをしつつ、ふと気づいた。
「あれ……依頼増やしちゃった。いやいや、報酬の話ししてないし、依頼じゃない……あれ依頼だったか」




