きゅうしゅつ
この日の上空は天気は崩れなかったものの、なかなかの絶景となっていた。
わたしの依頼で降りていた街の酒場ドーム、いわゆる集会に集まっていた竜たちの集団は合計で三つになっていた。
わたしたちのグループの属している集団が最も大きく、先頭集団、第二集団、そして、小さくまとめた第三集団が同じ目的地にいくため、上空に展開している。
わたしの経験のなかから、ここまでの大規模で空中を飛ぶ様子は、はじめてだ。
しかも、ほとんどのグループは目的はあるものの、目的地を把握していないらしい。
上空ですれ違うヒトたちの会話は、ほとんどわたしと青年とで会話したものと似ていた。
「これだけの集団で、安心して降りられる場所ってあまりないわよね」
「まぁな」
「バラバラに降りると、今度はまた集まり直しになるわよね」
「そんなに心配することはない」
「どうしてよ」
「そのための先頭のグループだろう。上空で集めて、先頭で案内役だろうな」
「じゃ、集会で話しあってたのは、そのことなのね」
「いろいろだな。雑談もあれば、文句もあるし天候だったり、世界の行方なんてもんも少しはあるんじゃないか」
「セカイね。以前は竜たちでほぼ世界掌握してたんでしょ?」
「旧い話しだな。世界書読んでないな」
「いいえ読んだわよ。でもムズカシイことばかりだし、もう神話の章なのよ」
「はははっ! それは楽しいな」
「なによ」
「あとでになるが、持っている世界書籍を貸すぞ。セカイに神が降りているセカイがどんなだったか詳しいな」
「まじ?」
「まぁな。旧セカイ、絶セカイ、未セカイ章だったか……」
「神ね?」
「光と闇編は笑うぞ。竜たちの間でもエンタメとしてよく聴くな」
「……竜エンタメって」
「もう少しだなぁ」
「ゆっくり飛ぶのね」
「この調子だと最後尾の連中は、だいぶ後れたな」
「お酒でも飲んでたんじゃない」
「酒飲みは話しなんか聴いちゃいない。なんかあったかもな」
「怖いこと言わないで」
一応ベルト固定してあるものの、確かめてから後ろを向くと、けっこうビビる光景だ。
竜たちの集団がみんな上空にいて、こちらをみている。
前の背中を追いかけているときは気づかなかったが、先頭集団のなかでも真ん中位置にいるわたしたちのグループは、どうやら目印にされているようで、視線がこちらに来ているのがわかる。
変な汗をかいてくる。
「ねぇ、なんで真ん中来たのよ。怖いんだけど」
「まぁな」
「これわたしたちが、しっかりと真ん中位置で案内しないと、ケンカになるわよ」
「よくわかるな! 知り合いが先頭と最後尾にいるぞ。上手くやるさ」
「はぁ。じゃさっきの青年の竜も真ん中頼まれてるのね」
「おそらくな」
いま乗るヒロスターニャの話しが、少しずつわかってきた。
集会で主に話されたのは、この大規模移動のことで、しかも先頭と最後尾と真ん中のグループが知り合い同士でいて、上手に移動できるように真ん中からカタチまで誘導しているらしい。
頭、胴体、尻尾、羽根の形まで上空で拡がっているのだから、もっと上から全体像を観ると、巨大な竜が一体いるように視えてしまうかもしれない。
「なんだかお祭りね」
「ヒトのお祭りより際限なくだぞ」
「よくこんな計画をたてたわ」
「計画なんてないだろう」
「なに? どういう意味」
「大体集まった連中は、話しを聴きかじったくらいだな。こちらだって地名すら知らないんだからな」
「ねぇ! 竜って頭よいんでしょ?」
「頭いいやつらは、もっと小規模だし、隠れるのが好きなやつらだ。影で活躍して満足するんだよ。目立つやつらは撃たれるからな」
「……ヒトも一緒ね」
「こちらは庶民派だ。集まってハッタリするんだよ」
「…………この規模でなにかされたら、ハッタリじゃなくてただの雨嵐よ!」
「違いないな」
「なに考えてるんかしらね先頭は」
「今度くるか? 血の契約でもするといい」
「集会でしょ? あなたで手一杯よ。味方増やすと碌なことにならないだからね」
「あぁ、お前はたしかそうだったな」
何度かグループに誘われていいのは、はじめのうちだけだ。
少し時季が経つとグループ内部での色恋に悩まされたり、仲介をお願いされては、巻き込まれたり竜同士のケンカでケガしたり、まとまるグループなんてなかなかない。
それでも、計画や契約がしっかりできたときは嬉しいはずなのに、それは一瞬の出来事で、また次のひどい有り様をみた。
一度わたしが怒ってみたら、今度は逆に、仲間をはずされる。
そのたびにヒロスターニャにヒトは若いなと若さのせいらしい。
あまりに若さのせいにするため、年齢が重なれば、じゃいいのねと聴いたところ、色恋は若さだけじゃないなと笑われた。
ヒトは、よほど成長しないらしい。
長命な生命からすると、もしかしたら、ヒト全体がたくさんより集まり、馬鹿さわぎばかりしていると、思われているのかもしれない。
「尻尾の部分のグループ、どうしたのかしら」
もう一度振り向いたときに、だいぶ距離が遠くなっていて、置いていかれている感じだ。
「やはり最後尾なんかあったな」
「怖いこと言わないで」
「よくある。後ろ部分のほうがついていくだけでも、おくれがちになるし、変に気流にのっかると流されたりな」
「そんなんで着くの」
「たしかあいつは飛ぶのが上手いやつだ。それで後ろなんだよ」
「並び順にそんな深いわけあったのね」
「飛ぶのにも壊すのにも、探すのにもそれなりな理由はあるだろう」
「理由かぁ」
「もし、理由なく壊したいならそいつは、足りないな」
「足りない?」
「経験や約束やいろんなもんだよな」
「そっか……」
この竜が言うのなら、きっとそうだ。
経験数もその通りだけど、これまでにいくつものトラブルや戦いやいろんなものを越えてこうしている。
ときどき冗談を言えるのも、強いのだろう。
それは力の強さではなくて、この竜そのものの強さが滲みでている気がする。
「流されてるな。だが、そろそろ先頭が低空に移動するぞ」
「これ降りる位置なかったらどうなるのよ」
「さぁな」
「落とさないでよ」
「ベルトは」
「チェックできてる!」
急に先頭グループの首が下を向いていき、ここの胴体部分グループも急降下していく。
地面が少しずつ近づくも、まだ目的地らしき場所はなにも見えない。
かなり飛行高度を下げたようだ。
探しているのかもしれない。
「あまりいい空気じゃないな」
「どうしたの?」
「意味など知らないが、血が騒ぐな」
「迷ったとか」
「いいや。迷ったのじゃないな。聴いていた様子とは違うかもな」
さきほど上空で会った青年が少しこちらに来ると、目線をあわせる。
向こうも様子が変だと想ったようだ。
「わたしも……」
「なんだ」
「わたしも変だわ。なんだろう」
ネックレスにしている宝石を服の上からキュッとつかむ。
魔力を蓄えた宝石は、魔宝石と呼ばれヒトでもそのエネルギーを使うことができる。
何度も助けられた。
その魔宝石が、なにか力を流してくる。
あまりないことだけど、わたしの持つこれは意思があるように働くときがある。
「竜に流れたウワサではな」
「ええ、なに?」
「レアなアイテムが複数発見できた未開拓地があるらしい」
「そうなの」
「しかもスペシャルなレアで、魔力放出を確認してあるから、加工すればかなりいい拾いものになるらしい」
「それを探してるの」
「いいや。目的地を知っているやつは、はっきり言わないが、それはただの口実らしい」
「えぇと?」
「ほかにもなにかあるが、それだけでも収集して持ち帰り一度調べないかと」
「調査依頼?」
「さぁな。だが、それだけじゃなさそうだと睨み、先頭のやつが飛ぶことにして、最後尾のやつとグループだけ組んだ」
「それだけじゃないって。あ!」
「下わかるか」
「ヒト倒れてるよ」
「死んじゃいないだろ」
「どうなってるの」
「降りるとこ探すぞ」
集団が少しずつ下降していく。
けれど、なかなかこの竜数で着地できるところはないみたいだ。
その間にも、たくさんのヒトが倒れているのがみられる。
崖や山の壁が迫るなか、集団の先頭から降りられる位置に、着地していく。
ここが目的地というより、この現状を把握していて連れてきたようだ。
わたしたちのグループは、着地位置を確認するのに手間取る。
だいぶ地面が近いものの、降りようとしないのは、もう騒ぎになってきている。
「向こうの崖上だな。少し上がる」
「お願い」
一度上昇すると、すぐに崖の上の平坦を見つけて降りる。
ついてきたグループメンバーは、全部降りたようだ。
次つぎに、周りでも竜が集まっていく。
「ひどい空気だ。あまり長居できんな」
「毒かしら」
「このせいで、ヒトが倒れてるんだろう」
「いってくるわ」
「ニ名だけにしとけよ」
「でもっ!」
「まだ次がくる。そのために、大規模にしたんだろう。拾いものくらいはしておけ」
「わかったわ」
ベルトをはずして、かけてある鎖の綱を引っ張りながら地面に降りる。
近くに、何名もヒトが倒れている。
呼びかけると呼吸はあるものの、あまりいい状態ではない。
さきほどの青年と別の女性と三名で、一人をまず助けて竜の背につける。
さらに、もう一人を載せると、次に青年の乗っている竜にまた別のヒトを運ぶ。
いまは三竜の背に六名を載せると、もう飛ぶ準備に入っている。
いくつもの埋まる宝石や欠片のなかから、手につかめるものだけを抱える。
「まだいるわ」
「平気だ。それより、飛ぶぞ」
「どこまでいくの?」
「近くの街か、船をみつける」
「うん。わかった」
わたしが綱をつかまり移ると、背中に三名乗っていることになる。
力だけなら、もっと載せられるけれど、たぶん早めに運びたいのだろう。
意識を失った原因は、この漂う霧にあるようだ。
毒素が身体に入り過ぎないように、バックからスカーフをだして口に巻く。
「飛ぶぞ」
「いいわ」
フワッと浮くと、既に上にはたくさんの竜がいて過ぎていくのと、降りる構えに入っているのとがある。
青年と女性の竜は、わたしたちについてくるようだ。
「川沿いにいくが、船がいなければ街まで飛ぶ」
「わかったわ」
上空の高い部分で、周っていた竜が、合図のような光を出している。
「集合場所までは、考えていなかったらしい」
「とにかく、いきましょ!」
鳴き声をあげる。
竜の言葉で、集合場所の連絡をしているようだ。
行きのときとは違い、けっこうな速さで飛ぶため、慌ててヒロスターニャに繋がるベルトをつける。
グループは四つに小分けされていて、戻り先も一緒のグループようだ。
「なかなかに頭の回転のはやいやつだ。これなら、救出任務も上出来だろうな」
「やっぱり頼まれたのかしら」
「さぁな。だが、この人数なら一個大隊だろ。城のやつら」
倒れていたヒトたちは、みんな装備品をつけて、兵士のようだ。
でも、動ける者はいないらしく、まだ地上には救出している竜たちの姿がみて取れる。
少しずつ遠ざかっていく。
「街までどれくらい?」
「すぐ着くさ」
「けっこう重症みたいだわ」
わたしの後ろで、ベルトやロープで縛りつけて乗せた二人は、呼吸が苦しそうで汗もひどい。
兜で顔はよく見えていないが、うなされているらしく、意識が薄いのだろう。
だいぶ地上から距離が空いたため、スカーフをはずして呼びかけてみる。
けれど、返事はない。
けっこう危険かもしれない。
「街まで保つかしら」
「もう着くぞ」
下降していくと、さきほどいた街とは違う建物が見えてくる。
崖の反対側の街なのかもしれない。
「ゆっくり降りられる?」
「振動に気をつけるさ」
「お願いね」
速度にしては慎重に降りてくれたようで、砂煙もそんなに上がらない。
ふわりと、地面に足をつけていく。
街のヒトたちは、騒ぎになっている。
竜に驚いたのではなく、たぶん後ろに乗せた兵士たちに驚いているのだろう。
「だれか、治療できるヒトを!」
「あの、なにがあったのか」
「説明してる時間ないの! はやく!」
「はい」
「それから、扱いに用心して。消毒か洗浄をして」
「はい」
わたしたちのいたグループは、みんな背中に複数兵士を乗せている。
ほかも降りてくるグループと、上空で待機しているのがいる。
「知らせる?」
「全部は無理だろうな。ほかにまわそう。呼びかける」
「そうね」
いくつかのグループが降りてきたところで、治療士と教会の関係者、それに街にいる子どもたちが集まってきた。
子どもたちは、あまり近寄らないように、話しをしてみる。
兵士たちが運ばれていく。
「綺麗な水場はありますか?」
「あります。こちらです」
「洗浄に利用するのですけど」
「ええ! 誘導しますので利用したあと、また声をかけて下さい」
「助かります」
夜には、ここの街で寝泊まりすることになった。
翌日の教会ニュースには、大きな見出しと竜たちの集団が掲載されていた。
やはり毒素のある霧だったようだ。
竜の集団が、兵士たちを救出する活躍となっていた。




