まんなかぐるーぷ
散々竜に笑われた。
「はははっははっ……それで報酬は?」
いまはハーブティーを二杯。
こういうとまた笑われる。
それも仕方ないのかもしれない。
依頼からの報酬はできる限りもらうようにしている。
それでも、対価は応じてだ。
簡単に見つかった探しものなら、大切なものでも簡単な報酬ですますし、何日も何ヶ月もかかって解決したものなら、それなりにもらった。
「でも、この件は特殊よ。見つかるかどうかわからないし、カタチすらよくわからないもの」
「アオイハナか……」
「どうしたの?」
「あぁ、たしか聴いたことはあるな。現世からの役割としての生命を終えた者は、総て異界にいくのだと」
「え?」
「先祖だか末裔だか知らないが、そこでなにかを受け取るんだったかな」
「それ! なにかありそう。それなら、早く済むかも」
「それは、無理だろうな」
「どうしてよ」
「死者になるということだ。異界がどういう場所だか知らないが、そのアオイなにかを観られるのが、死者なら、そこから戻ってこられるのか」
「えぇ! でもあの娘は、それを観たって」
「誰かに聴いたのだろう」
「それ、変よね。死者の行く先でなら、そこから戻ってきたことになるけれど、夢で観たっていうことなのかしら」
「さぁな」
「あなたは、それどこで聴いたのよ」
「さぁな。最近だった気もするし、だいぶ経つ気もする」
「あなたが最近っていうのは百年前? それとも二日とか三日とか」
「四日くらい経つと記憶は混在してくるから、三日ではないことは、そうだな」
「ちょっとなにも参考にならない」
「泣くな」
「泣いてないです」
街中を今度は迷うことなく中心街まで戻り、いくつかほかの用をこなしたあと、竜酒場にいってみた。
酒場といっても、ドームのようにとても大きなところで、いちおう飲食ができるようになっている場所なのだけど、鳴き声で正直うるさいし、集まり過ぎるとむさ苦しい。
呼びにきたヒトたちは、あまり中に入りたくないため外からなにかで呼び出すか、大声で呼ぶか、あとは受付で呼び出してもらう。
ようやく順番がきて外にでると、いきたいところができたらしく背中に乗り飛ぶことになった。
「あの娘も酒場にくれば、竜たくさん観られるのに」
「先ほどのか」
「そう。住宅近くにくる竜以外は、空を飛び過ぎていくのしか、ほとんど見てないんだって」
「よく不便しないものだな」
「花売りだから卸す場所とあとは、少し離れた位置の喫茶店とかしか、普段いかないそうよ。街の中心部が怖いみたい」
「怖い、か」
少し考えこんでいる。
中心部は、たしかにトラブルも多い。
ショップが多くあるし、情報交換もできる。
でも、代わりに治安が悪い場所もあり、トラブルの声や叫び声を聞くこともある。
まだ年齢も若いし、何度か怖いめに遭ってしまったのだろうか。
「ヒトが集まると変な輩もくるからね」
「執事がいると言ったな。それなりにいい暮らしなのか」
「う〜ん、そうでもなかったのよね。家や敷地はたしかに広かったし、花の畑はたくさんあるわ。でも、可愛らしいけれど、どこか遠慮がちな子よ」
「そうなのだな。いくつか街中でも、花をみかけたが、その花屋のおかげなのかもしれないな」
「みかけたって?」
「ほら、観てみるといい」
背中を少し傾けるため、少しずつ身体をずらして、街の風景をみる。
「うわぁ!」
わたしが歩きまわった、住宅周辺はまだ花が少ないところだったようだ。
少し街をみると、さまざまなところに花壇や花の飾りがしてあり、来たときには気づかなかった花であふれた風景が観られる。
「これ、みんなあの子なのかしら」
「さぁな。けれど、花が儲かるのだな」
「なにか、文化的なこともこの街にはあるのかもしれないわね」
「そうだといいな」
しばらく上空で速度を落として回ってくれるため、竜酒場やさきほどの住宅が、よく観られる。
眼がいいため、もっとずっと先にある花を観られるのだろう。
「くしゅ!」
「どうした花から来たやつか」
「違うの……風が少し来てるみたい」
「あぁ、たしかにそうだ」
まだ回っているなか、少しずつ上昇していく。
上昇気流があるのかもしれない。
「そろそろもう少し上がるぞ」
「わかった……なんだか名残惜しい」
「また観られる」
「そうね……でもなんだかここは、あの娘に会いにくる場所になるかも」
フワッと風にのると、少しずつ風がでて、高くなる。
「楽しそうね」
「いや、そうでもない……厄介だ」
「え、なに」
「こちらも、少しややこしい話しを聴いてきた」
「やだなぁ」
「アオイなにかよりは、まだいいだろう」
「竜たちの感覚は、のんびりで千年だからなぁ」
「向かう先によるんだろうな」
竜が街中から方向を変えていく。
基本わたしが、ここに向かってという時以外は竜の意思で向かう先が変わるため、どの辺りにいくのだろう。
「けっこう飛ぶの?」
「それほどの距離では、ないはずだ」
「はずね」
街から離れていく。
上空に何機か竜たちが待ち構えていた。
ほかにも遠目ではあるけれど、バラバラといるらしい。
「きみ見たことある」
「えっ?」
近くにきていた、上に乗っている青年らしいヒトが、距離が狭くなったあとで声をかけてくる。
風も多少あるため、少し大きい声だ。
「さっき集会所でいなかったかな?」
すぐには思い出せない。
「ほら、なにか合図しようとしていただろ」
思い出す。
この竜を呼びだそうと声をかけてみたけれど、騒がしくて気づいてもらえなかった。
案内も混んでいたし、時間かかるかもと想っていたら、隣の男のヒトも同じような表情をしていた。
まさか竜の敷き詰められたドームに入りたくはないため、試しでいくつか合図になりそうなことをしていたのだ。
少し目立っていたのだろうか。
「あぁ、同じように待っていたのね」
「そうそう! あの集会のなかに、一緒には入りたくないな」
「……まぁそうかもね」
背中に乗りながらの会話では、ハードな会話だ。
「きみもなにか聴いたのか?」
「……いいえ、なにも。わたしは依頼よ」
「依頼? じゃ、向かう場所は違うのかな」
「いいえ、たぶん同じだわ」
「え? どういう意味」
「わたし、行き先は聴いてないの」
「あぁ! じゃこの集団は、みんなそうなのかもね」
周りをみてみると、上空に少しずつ竜たちの集まりができている。
数としては、少ないのだろうけれど、それでもなかなかにすごい光景だ。
数えるのは、やめておこう。
いくつかグループにわかれているらしい。
こちらの集団は少ないけれど、正面の集団は、けっこういる。
反対に後ろにいる集団は、少しだけだ。
「飛びやすいように、グループにしたのかな」
隣の青年がわたしの様子を見ながら話す。
「空気抵抗ってこと?」
「そう。あとは、グループで得意不得意があるとか……」
「不得意竜」
「ふはは! いいな、そういうのは!」
わたしの竜が、話しを聴きながら笑う。
どうやら怒ってはいないようだ。
「ああ、背中に乗ってるんだよな」
「いいぞ、話してて」
「機嫌いいのね。お酒飲んでないでしょうね?」
「お酒飲まんなぁ。あまり摂取すると街壊すからな!」
「それはヤメてね。弁償しなきゃ」
「その竜おもしろいな」
「ハシャいでるだけよ」
「まぁな」
「あまり集団で飛ばないもの」
「グループとか、大竜数はあまり好きじゃなくてな。少数がいいんだ」
「そんなもの?」
「そうみたいだな」
そういいつつ、他の集まっている飛ぶ者たちは、どこか真剣でどこか楽しそうだ。
ここ最近で、これだけ数が集まるのは、たしかに珍しいのだ。
わたしも、少数で飛ぶほうがはるかに多い。
「それであなたは、どういうヒト」
「ムズカシイな」
「じゃいいわ」
「おいおい、聴きたかったんじゃないのか」
「あまり長話しできないでしょ」
「たしかに。それじゃ今度」
「いいわ」
「話しくらい聴いてくれよ」
「……向かう場所が同じならね」
「このグループは、同じよね」
青年の乗る竜が話しだすため、びっくりする。
「そうなんですか」
「そうよ。ね」
「知り合いなの?」
「いいや」
「集会所で話したわ。ここの集団は目的地までに集まるの」
どういう集まりなのだろう。
竜たちの文化や交流は、いまだによくわからない。
以前フラっといないときもあって、そういうときは、機嫌が悪かったりする。
「それじゃ上空にいるこの集団、みんな降りるんですか」
「もっと増えるんじゃないかな」
「ちょ……と怖いかも」
「安心しな。お前は落とさないからな」
「え、うん、ありがとう」
「なんだ、こっちにも言ってくれよ」
「あなたは、調子よすぎるのよね」
どうやら、それなりに隣を飛ぶ竜は、冗談も言うらしい。
女の子の竜もときどきはみるけれど、声を聴くまでは、それとわからない。
ときどき目元をおしゃれにしている者もいるけど、どうやってメイクするのだろうか。
じっと観てしまったからだろう。
こちらを少しみる。
「なにか気になる?」
「いえ。女の子ですよね。目元キレイ」
「そうよ! わかってる!」
「おしゃれです」
「そう? もっと話したいわ」
「わたしもです」
「空の上じゃ、あまり話せないから、また話しましょ」
「ええ!」
少し上空で間隔をあける。
話してる合間に、前をいくグループは、大所帯になってきている。
左右と、後方にもグループができているため、わたしたちの竜のグループは、真ん中の胴体の位置になる。
「先頭どれくらいいるの?」
「さぁな」
「わたしたち真ん中ね」
「それくらいで飛ぶようにしたからな」
「さっきのところで配置も話したの」
「さぁな」
よくわかっていないらしい。
目的地だけ聴いて、あとはバラバラで来たのだろうか。
いましていたゴーグルをはずして、ポケットから飾りのついたヘアゴムを取り出す。
風でバタつく髪を上手くまとめて、ヘアゴムで通す。
少し髪が長いだろうか。
もう少し落ち着くことができた際には、髪を切りにいこう。
バックにつけてあった帽子をはずして、帽子と紐をかけると、その上からゴーグルをつける。
防風用のマスクはするほどではないけれど、眼は眩しいくらいだ。
眼はいいほうだけれど、最近は眼鏡もするようになった。
ゴーグルに重ねるのは、好きではないため、いまは仕舞ってある。
「いまどのくらい?」
「まだそんなに距離は稼いでいない。回ってるからな」
「集まるの待ってるの?」
「先頭のがそうしたいんだろ」
「あなたは別になのね」
「……まぁな」
そう言いながらもグループから出ようとはしない。
竜は、意外と律儀なのだろうか。
さきほど会話した隣の竜も間隔は空けているけど、離れないようだ。
風が少しあるため滑空していて、あまり動きがないのは、待機しているかららしい。
「これもしかして、さっきの集会のがみんなくるってこと?」
「どの連中が、はずれているか知らないが、半分程度集まれば動くだろうよ」
「半分!? 街でも壊す気なの?」
「ふはは! 懐かしい話しだな」
「……聴かないでおくわ」
「あとで、お酒でも飲んだら話しでもするか」
「あなた飲まないんでしょ。暴れるから」
「飲まんわけではない。ネガティブになると力加減が分からなくなるだけだ」
「モノ壊すのはヤメテよね」
「壊したくて壊すやつは、そんなにいないな」
「今度壊れないサンドバック代わりのを探すわ」
「サンドバックじゃ、足りないだろうな」
「ダイヤモンドバックにしようかしらね」
そんなに大きいサイズのダイヤモンドは、手に入らないだろう。
でも、小さいダイヤを敷き詰めて、叩くのなら竜も満足だろう。
どれだけ硬い拳でも、きっと壊れない。
少しずつ、地上に竜の集団の影が濃くなっていく。
街中の上空だったら、地上では騒ぎになってしまうだろう。
少し前に話していた青年は、別の竜に話しかけている。
いまの状況の情報収集しているみたいだ。
わたしが、街にきたのは依頼のためだったのに、どうやらこの集団の一員として、ついていくことになりそうだ。
わたしがいやだ、と言えば、おそらく離れてくれるのだろうけれど、花売りの娘に頼まれたものは、しばらく調べなくてはいけない。
一度中央都市に降りたときに、聴いてまわるか文献を探してみなければいけない。
それまでは、どこかで小さい依頼を受けるのもいいかもしれない。
これまでにも、そうして依頼先を周るうちに、発見があったりしたのだ。
「次降りた先では、また少し依頼館とかいくわね」
「また怒られにいくのか」
「怒られないわよ、たぶん。あそこのオーナーが冷たいのは、いつもなのよ」
「それでいて、気に入られているとはな」
「それね。なんでかなぁ。やけに報酬はいいのが困るわ」
「わかってないんだな」
「え、なんのこと」
「いや、いい」
「もう生活に困るほどではないけど、以前はお世話になってたから、どうにもやりにくいのよね」
「気負うな。できることが増えたのなら、できることをしますでいい」
「もう少しなのよね」
「もう少しか」
「そう、あと少し力の増量をしたい」
先頭集団のグループが少しずつ進路を変えていく。
合わせるようにして、左右のグループも向きが変わる。
「動いたな。まだ半分くらいだが、次の第二集団でもつくるんだろう」
「いくのね」
「そんなに速さはださんぞ。この大きい集団では、アクシデントが起こるとひどい有り様になる」
「なんか観てきたような話しね」
「前には遭ったな」
「あなたの "前" って何日前か何百年前なのか」
「さぁな……あとで見返してみるか」
「いいわよ。特に気にしないで。もしするなら」
「あぁ、わかってる。寝れないときの……」
「いい夢の前振りでね」




